「TRY UNITE!-Rasmeg Duo :輪廻のラグランジェ 挿入歌」 まだ……歌える!

「雨が降ってきましたわ!」

 きゃーきゃー言いながら、唱子さんは体育館に続く道を駆け抜ける。


 生徒通用路は壁がなく、雨よけの屋根しかない。


 吹きさらしの中、私はギターを抱えて会場入りする。


 亜美ちゃんが『TRY UNITE!』で会場を盛り上げていた。テクノサウンドが素晴らしい曲である。


「いち、にーの、まる!」


 ギターを鳴らす腕で、亜美ちゃんがアニメの定番である「まるっ」を描く。


 ギャラリーも、亜美ちゃんのマネをする。


 雷鳴が轟く中、演奏は順調に進んでいく……かに思えた。



 突然、サウンドが途切れる。落雷のせいで。



 静まり返った中、大雨が体育館の天井を叩く。


 会場も、亜美ちゃんのバンドを心配する声が上がる。


 ざわつきは、さらに大きさを増してきた。


 なのに、亜美ちゃんは棒立ちのまま演奏できないでいた。

 ドラムまでデジタル仕様にしていたのが、アダとなる。


 このままでは、クレームが来てしまうかも。


「秘策はありますわ、優歌さん!」

 なぜか、唱子さんは自信ありげに言う。


「でも、音が」



「今、亜美さんがお歌いになっていたのは、『TRY UNITE!』ですわ。最終回をお忘れですか?」

「……ああっ!」



 大丈夫だ。まだ……歌える!


「亜美ちゃん、私に任せて!」

 私は、アコースティクギターのケースを開く。


 先生に許可をもらい、ステージに上った。


 唱子さんは、ピアノの鍵を開ける。


「え、優歌っち?」


 キョトンとする亜美ちゃんに構わず、私と唱子さんは演奏を開始した。


「~♪」

 亜美ちゃんが歌いそこねたCメロを、私が続ける。


「どういうこと?」「乗っ取りか?」

 会場が困惑していた。


 私は引き続き、亜美ちゃんに歌うように指示を出す。


 戸惑いながらも、亜美ちゃんは歌唱を始めた。


 そう。私たちが演奏しているのは、

『TRY UNITE!-Rasmeg Duo』

 である。

『輪廻のラグランジェ』の最終回で流れた、アコースティックバージョンだ。


 特にCメロは泣ける。

 美しいピアノの旋律がたまらない。

 最終回の映像を思い出すと、また感動が蘇ってくる。


 Cメロを歌いきって数秒後、会場のスタッフが腕で大きく丸を作った。電源が復旧したと合図だ。


「みんな! せーのっ。まる!」

 亜美ちゃんが、腕で会場に向けて円を描く。


 ラグランジェと言ったら、「まる」だよね!


 私たちは、舞台袖まで引っ込む。


 再び、亜美ちゃんが演奏を始めた。うまくいってなによりである。





「ありがとー、優歌っち! 唱子っちも!」


 演奏を終えた亜美ちゃんが、舞台袖まで走ってきた。

 私と唱子さん、二人に抱きつく。


「次は、二人の番だね!」

 そうだ。私たちは、この日のために準備してきた。

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