「Heat Meat Up ~国産宣言~:おにくだいすき! ゼウシくん 挿入歌」 三日月宗近ですわ!

 文化祭当日を迎えた。


 我ら模擬店が提供するアイスモナカは、食べやすさとおいしさで大人気である。

 おかげで、大忙しだ。


「誤算だわ。まさか、こんなにも人気になるなんて」

 アイスモナカのサンプルを食べながら、サクラ役のハムちゃんがつぶやく。


「あんたが目の前で、おいしそうに食べてるからじゃん!」


 私と亜美ちゃんが、同時にツッコむ。


「あたしはカレシに『あーん』してあげているだけよ?」

「それが、やばいんだって!」


 ハムちゃんをマネして、カップルがこぞってモナカを買いに来ていた。

 みんなカレシとシェアしてセルフィーしているではないか。


「宣伝してくれるのはうれしいけど、ちょっと予想外ね」

「常にアニソンがかかっているのも、効果があるっぽい」


 亜美ちゃんが、ハムちゃんに続いて意見する。


 確かに、私と唱子さんは何もできないと思って、スマホで購入した音楽データを大量に提供した。


「ねえ、高山さん、この曲なに?」

「Heat Meat Up ~国産宣言~ですわ。JA全農が提供するアニメで流れる挿入歌」


『おにくだいすき! ゼウシくん』という、全農が国産の畜産物をアピールするために作られたアニメらしい。


 いくらオタク女子と言えど、マニアック過ぎてわからないようだ。


「誰が歌ってんの? すっごいいい声だけど?」

「三日月宗近ですわ!」

「ウッソ、マジで⁉ ウヘヘヘヘ!」


 クラスのオタク女子が限界化した。


「ゴメンみんな。ライブあるから先に行くね」

「おつー」


 モナカの売り子をしていた亜美ちゃんが、エプロンを外す。


「ほら。二人もじゃん。行こうよ」

 亜美ちゃんが、体育館へ消えていく。


「うん」

「さて、我々は一旦教室へ行きますわ」



 私が取りに行ったのは、アコースティックギターだ。



「まさか、優歌さんがギターを嗜んでおられたとは」

「にわかもにわかだよぉ。お父さんが持っていたなーって思って」


 父が子どもだった頃、アニメは冬の時代と言われていたらしい。

 そこで幼かった父は、ギターを買ってもらった。

 音楽を習って一般人に擬態したという。


「そこまでしないと、オタは抹殺されたらしいよ」

「大変な時代んだったのですわね」


 もっぱら、父はタイアップのアニソンばかり練習していたそうだが。


「私がギターやりたいって言ったら、同じタイミングで父もギターを引っ張り出してきたの」

「どなたの影響で?」

「織田哲郎と、ビリー・バンバンの動画」


「ああぁ……」 

 納得したように、唱子さんがため息をつく。


 かたや『ボトムズ』の作曲家、かたやカヴァーアニソンで人気である。


 父も音楽熱が再燃しちゃったらしくて、教えてもらった。


「わたくしは、父とは音楽の話は合わなくて。もっぱらクラシック一本ですので」


 それはそれで大変だ。


「その分、今日は楽しもうね」

「ええ。優歌さん」

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