「100%片想い からかい上手の高木さん 挿入歌」 その優しさに、心を動かされたのですわ

 みんなが帰った後、私たちは本格的に話し合う。


 学校を出ると、もうすっかり外が暗い。秋が近づいているのだ。


「イートインに入ろう」


 風もやや肌寒い。


 軽く温まろうとなった。


「ずっと考えていましたの。文化祭、何をやろうかと」

 カフェオレで、唱子さんが一息つく。


 意外だった。唱子さんといえど、亜美ちゃんの言葉を真に受けるなんて。


 私はてっきり、社交辞令なんじゃと思っていたんだけど。


「優歌さん、私は自分のためには何もしたくありません」


 知っている。

 唱子さんは、高校では何もしないと決めていた。

 三年間は、自分を休ませようと。


「けれど、優歌さんのアクティブさを見て、思いましたの。優歌さんと一緒ならば、なにかをしたいと」

「アクティブって。バイトしただけだよ?」


 それは、唱子さんにばかり負担をかけたくなかったから。


 大変だったけど、嫌な気分にはならなかった。

 誰かのために働くって、楽しい。

 冬も空きがあれば、入りたいとお願いしている。

 元漫研部長の峰先輩がいるから、大丈夫だろう。


「わたくしの善意を、優歌さんはタダで受け止めようとしなかった。毎回、お返しを下さりますわよね?」

「うん。でもそんなに大したことはしてる実感はないよ?」

「その優しさに、心を動かされたのですわ」


 おみやげのグレードも、私の出すものの値打ちは唱子さんの半分程度だ。


「こちらの善意を無償で返そうと思ってくださるだけでも、最高の気分なのです」

 うれしそうに、唱子さんは語る。


「わたくしのおせっかいは、正直『100%片想い』な気分でした。それでもいいとさえ」


『からかい上手の高木さん』で流れる劇中劇の曲だ。


 そんな大げさな。


「ですが、優歌さんはちっとも頼ろうとなさらなかった。絶対に埋め合わせをなさる。わたくしの知らない世界を教えて下さいました」

「教えてもらっているのはこっちだよ。むしろよかったの? 私、ただの庶民だよ?」


 クラスのみんなと、たいして生活レベルは変わらない。


「こんなコンビニで買える、あったかいコーヒくらいしか価値はないと思うんだけど?」


「皆さんから見たら普通でも、わたくしにとっては特別ですわ。そんな優歌さんですから、わたくしは優歌さんとの一日を大切にしたいのですわ」

 唱子さんが私の方を向く。




「わたくしは、歌で思い出を作るつもりはございません。ですが、優歌さんとの思い出は作りたいのです」



「うん。唱子さんの気持ちはよくわかったよ。歌おう」


 私は、決心する。


 歌に縛られていた唱子さんを、歌で解放しようと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る