第三章 マイナーアニソンは文化

「光の季節 あさっての方向。 OP」 だから、ひまわりだったんだ!

 新学期が始まって早々に、文化祭の準備が始まる。


 私たちのクラスは、模擬店でアイスモナカを売ることになった。半分のモナカに市販のバニラアイスを載せて、細かいカラーあられやチョコなどを振りかけるだけ。


 楽でありつつ、トッピング次第では遊び心も出る。


 一〇月開催なので、暑さ寒さ対策も考えなくてOKだと意見が出て、採用となった。


「ハチミツとペンチョコはいいわね。ワサビは冒険しすぎじゃないかしら?」


 クラス委員であるハムちゃんこと大沢公江おおさわきみえさんが、率先して味見をしている。


 私と唱子さんは、アップリケを作っていた。

 動物の顔や花に見立てた全員分の名札を作っては、ミシンでエプロンにつけている。


「見てみて。これどうかな?」


 唱子さんに見立てて、蝶にした。

 亜美ちゃんはライオンだ。


「ねえ。唱子さんは、何を作ってるの?」


 ハムちゃんの名札は、カピバラだからわかるとして。


「これですわ」

 そういって唱子さんが広げたのは、太陽のように丸いワッペンだった。


「わあ、ひまわりだ!」


 デカデカと「ゆうか」とピンク字で描かれている。 


 地味だが、何かが出来上がっていくさまは実に楽しい。


「陰キャに接客なんて無理」と駄々をこねたら、割り当てられた仕事だ。


 私たちは当日、調理だけを担当する。亜美ちゃんとハムちゃんが接客してくれるそうだ。


 文句を言わず、黙々と手を動かす。


 なのに、唱子さんの手は止まっていた。

 たいして難しい作業じゃないはず。


「少しよろしいですか、優歌さん」

 しばらく没頭していると、唱子さんが声をかけてきた。


「うん? どうしたの?」

 私は頭を上げる。


 唱子さんの手は止まったまま。



「優歌さんにとって、『見た目は子ども、頭脳は大人』といえば、どのアニメを連想なさいます?」



「『あさっての方向。』だけど?」



 秒で返す。

 

 私くらいになると『コナン』など話題からは除外する。

 それゆえに、他のオタから距離を置かれるわけだけど。


「だから、ひまわりだったんだ!」


 あのアニメのOPでかかる『光の季節』。

 そのイントロでもひまわりが大きく描かれていたっけ。

 あのシーンは印象的だった。あのアニメ=ひまわりとも言える。


「よくわかりましたね」 

 満足気に、唱子さんは語る。


「優歌さんの浴衣を見て、思いつきました」


「えへへ。ありがと」


「やはり、あなたとわたくしは何も言わなくても通じ合えていますわ」


「唱子さん?」


 完全に手を止めて、唱子さんが正面を向く。



「優歌さん、一緒に歌いませんか? 文化祭で」

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