「ありがとう、だいすき:長門有希ちゃんの消失 ED」 その方が、私たちらしいよね。

 翌日は、近所の花火大会に向かった。


 唱子さんの家へ、迎えに行く。


「いかがでしょう?」

 青地の涼し気な浴衣が、クールな唱子さんに合っている。エルマさんに、着付けを手伝ってもらったらしい。


「ひまわり柄ですか。浴衣姿の優歌さんもステキですわ」

「ありがとう! 今日はいっぱい食べるから、帯も緩めにしたんだ」


 バイトのお金も、まだ十分にある。


 二人で揃えたゲタをカラコロと鳴らしながら、近所の神社へ。


「まだ始まってませんわね」

 話しながら、唱子さんは露店のイカ焼きを口に入れる。


「花火まで時間があるから、もうちょっとお店を回ろうか」

 私も串焼きカルビを頬張った。


 晩ゴハンも食ってこいと、親からお金を渡されている。


 色気より食い気だ。座れる屋台で、たこ焼きとおでんを買った。ヨッパライのおじさんたちをよけつつ、席につく。


「今日は、亜美さんは?」

「カレシと一緒だって。ドライブで、車の中から見るんだってさ」

「そうでしたわね! 殿方がいらしたんでした!」


 本当は穴場絶景スポットに、カレシさんはつれて行きたかったらしい。

 しかし、そこは神社の裏手である。

 虫が嫌いな亜美ちゃんがゴネて、車内デートになったんだって。


 食べ終わり、境内を上がる。


「ここだよ」

 神社裏のベンチに着いた。


 私の手には、一口カステラとお茶がある。

 お茶の一本を、唱子さんに渡した。


「始まりましたわ!」

 赤青緑の花火が、夜空に咲く。 


「花火会といえば、『長門有希ちゃんの消失』を思い出しますわ」

「フタを開けてみれば、すごい名作だったよね」


 あれはナメてた。どうせ、原作本編のつなぎだろうと思ってたのに。


「ネットで配信してたバージョンの最終回が、花火会なんだよね」

「あれは見逃せませんでしたわ!」


 原作だと、本編の長門が干渉して終わるらしい。私はネット配信で見ていたので、その続きがどうなったのかも知っている。



「わたくしは、別世界線のハルヒがいい女過ぎて悶ましたわ」


「わかる」


 原作だと、ただの明るい天真爛漫な少女だ。悪く言えばKY自己中モンスターなのに。


「『長門消失』の世界線を見ていると、ハルヒの行動は全部計算なのでは、とさえ思えてしまうのが不思議ですわ」


「愛されているよね、消失長門」

 いいカンジに、原作のいい点を補完しているな、と思える。


「EDの『ありがとう、だいすき』のアレンジも泣けるんだ」

「ですわね! 後はOVA版のみですわ。そちらのバージョンも背景が違うらしくて……」


 花火そっちのけで、私たちは語り合った。



 その方が、私たちらしいよね。

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