「夜の国 GANGSTA. ED」 あの手話がたまらないのですわ!

 夏休みの宿題をするため、私は唱子さんの家にお邪魔する。


 正しくは、隣りにいる亜美ちゃんの宿題を見てもらうためだ。


 この三階建てのマンション全フロアが、自宅を兼ねたオフィスだという。

 従業員も全て住まわせているだけでなく、リモートで遥か外国とも繋いでいるらしい。


 しかし、玄関を開けて出てきたのは、唱子さんではない。


「ちわー。なんか用っすか?」


 ショートボブの少女が、アニメプリントのTシャツと短パン姿で出迎えてくれた。

 カタコトの日本語で応対される。胸が規格外に大きい。


「えっと、こちらは高山さんのご自宅ですよね?」


 背の高い巨乳女性に見下ろされ、私は圧倒された。


「うっす。アタシはエルマっす。ここのメイド」

 見た目は純粋な外国人なのだが、日本語が堪能だ。


「どぞー。お嬢ー、お客さんっす」


「あらあら! お待ちしていましたわ!」

 化粧中だったのか、ようやく唱子さんが飛んでくる。


「どうぞ、お入りになって」


 早速仕事をするのかと思ったら、掃除はロボット任せだった。エルマさんは食卓を担当する。


「お茶っす。何かあったら言ってくださいねー」

 エルマさんが、人数分のお茶を用意してくれた。

 

 手を汚さないために、お茶菓子は小分けになったアソートである。


「優歌さん、お久しぶりのような気がしますわ」

「私も。連絡できなくてゴメンね」

「今日はゆっくりなさって。亜美さんも」


 勉強会をしつつ、アソートを食べた。中身は、普通のクッキーだ。

 が、包み紙に描かれた字がまったく読めない。エルマさんの国の言葉だろうか。


「エルマさんも、アニメ好きなん?」


 亜美ちゃんが聞くと、エルマさんは「はーい」と答えた。


「日本のアニメ、大好きっすね」


「『GANGSTA.』だよね?」


 私は、それとなく聞いてみる。


「なぜ、わかりますか?」


 やはり、あたっていたようだ。



「Tシャツが」



 そう。Tシャツに描かれているのが主人公だからだ。



「『GANGSTA.』は、OPがめちゃめちゃかっこいいんだよね」


「ああ、わかります!」

 手を叩いて、唱子さんがテンションを上げる。

「EDの手話が尊いのですわ」


「わかる!」

 今度は、エルマさんが食いついた。


「ギャングスターの話なんだよね?」

 亜美ちゃんが、話題に入ってくる。


「そうっすよ。スタイリッシュでスキっす」

 声のトーンは変わらないが、声色が変わっていた。


 ほんとにスキなんだなぁ。


「エルマさん、GANGSTA.のどこがスキなの?」



「世界観が、地元によく似てるっすから」



 ……あー。

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