「Zzz:日常 ED」 身もフタもない言い方ですわ
夕方は温泉だ。潮風にベタついた身体を、お湯で洗い流す。
「みんな、今日はありがとう。たまには、女の子と遊ぶのも楽しいわね」
バスタオルを巻き、公江さんが岩場に腰掛けて涼む。
「また遊びましょう」
唱子も、新鮮な気分だった。
優歌さんとばかり遊んでいたから、周りと距離ができているのではと思っていたのである。
しかし、そんなことはない。
「あんま普段から、つるまないもんね。あたしら」
亜美さんは見た目こそ厳ついが、話してみると案外親しみやすかった。
優歌さんがいなくても話せると分かって、安心している。
「違った環境にいる人達との交流は、何か新鮮だったわ」
公江さんとは、アニメ好きという共通項から楽しく話せた。
「あのさあ、ふたりとも。今度、合唱コンクールがあるんだけど、それで思い出したの。『日常』ってアニメあるでしょ?」
「合唱といえば、『日常』ですわね」
後期エンディングが、すべて合唱なのである。
「そうそう。あれ、どう思った?」
「率直に言わせてもらえば、『学校で歌えるから、別に』という塩な印象でしたわ」
「わたしもなの。『Zzz』がなかったことにされたような気がして、寂しかったわ」
あのEDテーマこそ、『浄化ED』と読んでいいだろう、と思えたのだ。
合唱曲では尊すぎる。撒き散らす青春の濃度が濃すぎるのだ。
日常のようなアクの強いアニメには、『Zzz』くらいがちょうどいい。
「うちら、別にクラス全員と仲がいいわけじゃないからね」
「身もフタもない言い方ですわ」
決して、合唱曲が悪いのではない。
三人に協調性がなさすぎて、逆に刺さらないだけなのだ。
唱子は、親しい人以外には素っ気ない。
亜美さんは、唱子とは別の意味で近寄りがたい印象を持つ。
女子人気は高いが、公江さんも最終的にはカレシを優先する。
全員、学校行事に対しては消極的だった。
おそらく、優歌さんも分かってくれるだろう。
「差し障りなければ、練習くらいにはお付き合いしますわ」
「ありがとう。でも唱子さんって、コーラス部には入らないのよね?」
唱子は、与えられた歌を歌う気にはなれない。
「ですが、軽いセッションくらいなら。それと、公江さんと歌えるなら、こちらから歓迎しますわ」
予想していなかった人物が食いつく。
「いいね。軽音部もいるし、セッションとか!」
「では、曲を教えますわ。アカペラ版もございますから」
帰りの電車内で、三人は『Zzz』をセッションした。
[優歌さんは、『日常』のEDはどれがお好き?]
帰ってからメッセを優歌さんに送る。
[Zzz]と、秒で返信が。
[なんでアニメ見ながら学校行事のことを思い出さないといけないの? って思ったから]
やはり、優歌さんも同じだったか。
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