「Over the FANTASY:ファイナルファンタジー:アンリミテッド OP」 ドゥエリスト?

「先輩は、将来なにかしたいことがあるんですか?」


 泣きそうになったのを悟られまいと、話題を変えた。


 受験勉強をしつつバイトなんて、しんどいはずだ。


「大学は出たいね」

「もしかして、学費が大変だとか」

「いや。このバイトこそ、将来の勉強をするためなんだ」


 二個目のメロンパンを口にしながら、先輩は続ける。

「ボクはね、ディレッタントになりたいんだ」


「ドゥエリスト?」

 ドラキュラの城を秒で攻め落とす、リアルタイムアタック走者になりたいと?


「ディレッタント。つまり、愛好家になりたいんだ」


 好事家ともいい、仕事ではなく趣味で芸術に携わる人のことを言う。


 会社で仕事をしつつ、サブカル業界に少しずつ投資をするのが目的らしい。


「ゆくゆくは業界に投資をしつつ、暮らしていけたらなって」

「オタク最終形態みたいな感じですかね?」

「そんなところだね」


 趣味として芸術を愛し、投資で得た資産で、若いクリエイターたちを食わせたいそうだ。


「どうかな、変だろうか?」

「よく言えばスケールが壮大で、悪く言えば……フワフワしています」


 明確なビジョンが見えない。


「はっきり言うね。そういうところが好きだよ。ボクは」


 峰先輩自身は、芸術関係に自らが参入する気はないという。

 美文や絵が書けなくてもいい。

 先輩はあくまでも、応援する側に立ちたいと。みどりちゃんを助けたのも、その一環だ。


「若い子が業界で苦労しているのが、耐えられないんだ」



「Over the FANTASY。私には見えない世界ですね」

 まだ将来のことすら考えていない私には、わからない世界だ。


 その後は、バイトをそつなくこなし、夕方を迎える。


「お疲れさまでした。峰先輩、明日もお願いします」

「はい、お疲れ」


 制服から私服に着替えた。


 峰先輩は、私服もパンツルックだが、デニムの際どいホットパンツだ。何から何まで中性的である。

 顔が少年っぽいのに、フェミニンな衣装がハマるなんて卑怯だ。

 こんなの、峰先輩しか似合わないよぉ。


「高山くんと会えなくて、寂しがっていると思ったけど、元気そうだね」

「そうなんです。最近、連絡なくて」


 どうも、向こうもバイトを始めたという。塾の夏期講習を受けつつ、できるバイトを見つけたとかで。


「いったい、どこでバイトしているんだろ? 家庭教師とかですかね?」

「そこにいるじゃないか」


 峰先輩が取り出したのは、駅前にある一冊の地方紙だ。バイト情報や、現地のグルメなどが載っている。


「おお、ジーザス!」


 その地方紙の表紙を飾っていたのは……。


「なんで唱子さんが⁉」



 あろうことか、水色と白のストライプの水着を着て、浜辺で∨サインしている唱子さんだった。

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