「そしていま:ちはやふる 一期ED」 便りがないのは元気な証拠だ
休憩時間になり、昼食を一緒に取ろうとなった。
控室で、私はお弁当を広げる。
峰先輩はコンビニの菓子パンを山ほど買って帰ってきた。しかも、全部メロンパンだ。
「おかえりなさい、部長」
「もう部長はやめてくれ。夏になる前に引退したから」
少し顔を赤らめながら、峰先輩がはにかむ。
「そうなんですか? ぶちょ……峰先輩」
「アニ研って試合がないから、やめ時がわからない。すると、いつまでも後輩が部長を神格扱いし続けるんだよ。そのせいで、いい後輩が育ただない。さっっさと出ていくに限る」
何かと、峰先輩は苦労が多いようだ。
「こんなバイトしていると、アニ研が恋しくなったりしません?」
「しないよ。OBになるつもりもないかな。今のアニ研部長はいい子だから。余計なことは、やりたくない」
野菜ジュースにストローを勢いよく突き刺し、峰先輩がメロンパンにかじりつく。
ガラの悪いOBがでしゃばったせいで、一時期のアニ研はすっかりヲタ芸部と化したらしい。
そんなアニ研の暴走を、峰部長は単身で止めたという伝説がある。
そのせいで、OB派と部長派で分かれてしまった。
「峰先輩も、いい部長でしたよ?」
「ボクは単に、仕切りがうまかっただけだよ」
「でも、よくバイトを引き受けようと思ったね。ココって、けっこう忙しいよ。特に中古アニメコーナーは。慣れてる子でも辞めていく子は多いのに」
勝手にお目当てをホイホイ買っていく専門店街と違い、ここは繁華街のど真ん中だ。
無知なお客さんも混じっている。
「マイナーアニソンが多いんですよ」
同じマイナー曲でも、専門店の品目はまったく未知なジャンルが多い。
ゲームの音楽だけでも数が多すぎて、覚えられなかった。
ここは古めのアニメも取り扱っているので、それなら対応できるのでは、と引き受けたのだ。
「みどりちゃんは、あの後元気ですか?」
迷惑かなと思って、みどりちゃんには連絡を入れていない。
今でも時々、私はスマホで『ちはやふる』のED曲、『そしていま』を流している。別々の道を歩くことを決めた二人の人物をテーマにしたメロディだ。
「ボチボチじゃないか? 学業もそれなりだそうだし。便りがないのは元気な証拠だ、とでも言っておこうよ」
峰先輩の様子からして、大丈夫らしい。
「一度、連絡したことがあるよ。そのときに言われたんだけど」
メロンパンを一つ食べ終わって、先輩は包みを丸めた。
「そしていま、といえば分かるって」
私は、一瞬泣きそうになる。ヒザの上で手を握りしめた。
みどりちゃんも、同じ気持ちだったんだ。
アニメ版『ちはやふる』は、みどりちゃんに教えてもらったんだっけ。
みどりちゃんが教えてくれた歌は、このスマホに。
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