「Won(*3*)Chu KissMe!:桜Trick OP」 音ゲーにもカバーされましたね。

 これからも唱子さんと一緒に遊ぶため、私はバイトを探すことにした。


 唱子さんにばっかり、お金を出させるわけにはいかない。それはただのタカリであって、友達じゃないから。


 私だって。


「いらっしゃいませぇ」

 CDショップで働くことに。


 全五階建てビルが音楽CDや映画などの映像媒体の販売店で、私は三階の中古品アニメコーナーを任された。


「すいません、曲を探しているのですが」

「どのような曲でしょうか?」

「こんな感じの。アニソンっぽいんですが、見たことないアニメで。探しようがなくて」


 有線でかかっていた曲を聞いた程度だという。

 お客さんは、その曲をワンフレーズだけ口ずさむ。


「ああ、『Won(*3*)Chu KissMe!』ですね?」


 サンプルを聴くためのデッキにCDを挿入し、確認してもらう。


「これです! すごい。鼻歌なのによくわかったね」

「好きな曲だったので」

「ありがとうございます!」


 お客さんが、CDを持ってレジへ。が、途中で足を止めた。


「これの、アレンジもほしいんだけど」


「アレンジ? キャラクターが個別で歌うバージョンでしょうか?」

 記憶をたどって、情報を聞き出す。


 しかし、お客さんの反応は鈍い。

「いえ、音ゲーで流れてた」


「ああ! 音ゲーにもカバーされましたね。そういえば」


 唱子さんとゲーセンに行った時、この曲のアレンジがかかってビックリしたのだ。

 即買いに行った記憶がある。


 一部のアニメファンから、「メロディが古い」と散々な言われようだった。しかし、好きな人は好きなのだ。私を含めて。


 だから、アレンジもされたんだ。


「こちらです! このCDに入ってますよ」


「じゃあそれもください!」

 客さんは満足して、帰っていく。


「『お昼休み』とか『桜色モーメント』とか、『桜Trick』は挿入歌も最高なんですよーっ!」

 と、去りゆく背中に小さくささやいた。


「見事な手際だね、大島くん」

「あ、部長」



 私の隣にいるのは、なんとアニメ研の三年、みね部長さんだった。

 パンツルックの制服を着ている。


 私に声をかけてきた矢先、峰部長は女性客から声をかけられた。

 中性的なハスキーボイスに、お客さんは酔いしれている様子だ。


 部長は下の名前を亜津沙あずささんというのだが、見た目で男性と間違えそうになる。


「まさか、峰部長からお声をかけてくださるとは思っていませんでしたよ」


 ハンバーガー屋さんでバイト検索アプリを操作していたときのこと。峰部長が声をかけてきてくれた。「人手がほしい」と。


 私がここで働き始めて、もう一週間くらいだろうか。

 割と、仕事にも慣れてきた。

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