「ワクガイ‼:仮面のメイドガイ ED」 八〇年代の邦画じゃないんだから

「わたくし、幸せですわ。こうして外でお食事できるなんて」


 この前に行ったファミレスも、食事ではなく勉強会である。ドリンクとデザートしか頼んでいない。


「あんまり、ラーメンとか食べないの?」

 質問しつつ、私はラーメンをすする。


「外食自体を、しませんの。このボックスでも、せいぜいおつまみですわ。あとは、お菓子をいただく程度で」


 食事は、家でメイドさんが作ってくれるらしい。


「ですから、カラオケボックスで食事を摂る、という行為自体を知らずに育ちましたわ」


 カラオケはプロ級でも、ボックスの利用は素人以下だったらしい。


「唱子さんの家って、どんな感じ?」


「小さなマンションの三階を、全フロアぶち抜いて住んでいますわ。ざっと五部屋分はありますの」


「なんでまた」


「一室をシアター、一室をお風呂にしたからですわ。父の趣味ですの。めったに帰りませんので、わたくしが使っていますが」


 すごい部屋だ。想像もできない。

 マンションの一室全フロアがお風呂なんて、八〇年代の邦画じゃないんだから。


「お掃除大変そう」

「そうでもありません。床の掃き掃除はすべてお掃除ロボにまかせて、メイドさんは食事と荷物などを受け取るお留守番や、拭き掃除を中心になさっております」


 掃除ロボを何体も稼働させて、短時間で済ませるらしい。


「お食事も、レンチンで時短した料理がメインですわ。今の家電は優秀ですの」


 よって、メイドさんには自由にしてもらっているらしい。

 メイドさんの方も、宅配が来ないときは、ゲーム機を持ち込んでくつろいでいるとか。


「フリーダムだね」

「労働者の自由時間も、報酬に換算しておりまして」


 弁当や菓子類は持ち込んでいいが、家族が食べる食料に手を出さないというルールがあるらしい。


「じゃあ、今のメイドさんって料理得意なんだ」

「レンチンメインの方は、お一人だけですわ。料理できる方は他に数名ほど」

「他に条件があるってこと? レンチンさんはどうやって採用されたの」

「あの方は、番犬ですわ」


 かつて、唱子さん宅に現れた下着泥棒を捕まえた女性らしい。そのまま採用されたんだって。


「『仮面のメイドガイ』みたいなイメージが湧いたんだけど? 男の人?」


「父についているのは、全員男性ですわ」


 おばさんに誤解されないための配慮だとか。


「その方は、見た目こそだらしないですわ。けれど、腕っぷしがよくて、頼りになります」


 言いながら、唱子さんは『ワクガイ‼』を端末に入れた。


 私は、唱子さんのデスポイスを堪能する。


 ヒューッ!

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