「LOVE MEN HOLIC:ラーメン大好き小泉さん ED」 まさか、カラオケボックスで食べられるなんて

 道すがら、唱子さんはウキウキしながら、『LOVE MEN HOLIC』を小声で口ずさんでいる。今日のラーメンが本当に楽しみなんだろう。


「お店のラーメンって、初めて食べますの。今から楽しみでしょうがありませんわ」

「気に入ってもらえてよかった」


 まずは、腹ごなしだ。

 徹底的に歌ってカロリーを消費し、お腹を目一杯すかせる。 


「結構な時間まで歌いましたが、ラーメン屋にはまだ行きませんの?」

 歌い終わって、唱子さんが腕時計を確認した。


 タイマーは、夕方六時を指している。

 


「え? 行かないよ」


 危うく、唱子さんはドリンクを落としそうになった。


「ど、どうしてですの優歌さん? 気が変わりましたの?」



「違うよ。ここで食べるの」



 今日は、カラオケボックスで夕飯を食べる。


「そうですの? てっきり行列に並ぶものだと」

 唱子さんは、少し残念そうな顔になった。


「こんな熱い日に並んでたら、死んじゃうよ。涼しいところで食べよ」


 私はそもそも、行列に並ぶのが好きではない。

 そこまでしておいしいものを食べたいと思えないのだ。

 流行に疎いというか。


「それにさ、並んだら大沢さんカップルと鉢合わせるよ」

「言われてみれば」


 あのリア充オーラを浴びせられながら、ラーメンをオンナ二人で食べるなんて、わびしすぎる。


 私は、唱子さんにメニューを渡す。


「なんでも揃ってますのね。まさか、カラオケボックスで食べられるなんて」


「食べることが目的のお客さんもいるんだって」


「ちらっと見たことはございますわ。歌ってらっしゃらないお客なら」


 個室の食事スペースとして、カラオケボックスを利用する女性客が多いらしい。


 一人で食事をして、友達がいないと思われたくない人は、よく利用するんだとか。


「意外と本格的だよ。私、豚骨しょうゆにする」

「同じものを大盛りにしますわ」


 追加で餃子と唐揚げ、白ごはんを頼む。


 オーダーすると、ものの数分でいい匂いがどあのむこうからやってきた。


「いっただっきまーす! うんま!」

 スープをメンマと一緒に食べて、感動に酔いしれた。


「想像以上にガッツリですのね。おいしいですわ!」


 これ、ホントにカラオケボックスのクオリティなの? お店と遜色ないんだけど?


「からあげも最高!」


 程よくジューシーで、油っぽくない。


「餃子が、ラーメンの素朴さと合いましてよ!」


 本格的でありながら、適度にジャンクでクセになる。


「シメは、これ」

 私は、白飯をまだ残っているスープへドンと放り込む。


「まあ、わたくしも」

 唱子さんも、私のマネをした。


「わあ、背徳的な味ですわ!」

 レンゲでスープメシを食べながら、唱子さんはうっとりする。

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