「The Loneliest Girl:キャロル&チューズデイ 劇中歌」 まさしく、『|What's Up Guys?』という状況だったんですわね?

「どうしてみどりちゃんが、ここに?」

 

「実は、兵藤くんが学校をやめることになったんだ」


 そんな! どうして?


「まさか、私のせいで」


「いやいや、違うんだ。実は、兵藤くんは漫画家としてデビューすることになってね」


 部長さんの話によると、みどりちゃんはマンガの新人賞を受賞し、晴れてプロとなった。


「すごい。おめでとう、みどりちゃん」


 しかし、みどりちゃんはうつむいたまま、こっちを見ようとしなかった。


「どうしたの、みどりちゃん?」

「プロの重圧が、今頃になって押し寄せてきてね」

 

 たとえ商業に進出しても、将来ずっとやっていける保証はない。そのプレッシャーが、単なる学生のみに降り掛かったのだ。

 先輩との相談の結果、アミューズメント系の学校に、編入という形で入り直すことになったという。他の分野でも学びを得て、マンガ以外の影着方を学ぶため。

「君と衝突したのも、不安だったのに、君と今後のことで相談できなかったから、だそうだよ」


 やっぱり私のせいだ。

 フラストレーションが溜まっていたんだろう。



「だから、本格的なプロになる前に、キミと仲直りすると、わたしに言ってきたんだ。わたしはただの付き添いだ。さあ」

 部長は、みどりちゃんの両肩を支えた。

 


「ごめん、なさい」

 たどたどしく、みどりちゃんは詫びる。

 

「私も、ごめんなさい。マイク投げつけたりして」


「優歌はもう、ワタシと口も利いてくれないと思ってた」

「辛かったんだね。私、ずっと亜美ちゃんの勉強見てたもん。みどりちゃんが苦しんでいる間も」


 短い会話。でも、それだけで私たちは、すべてを理解し合っていた。

 

「あの、どういうことですの?」


 私とみどりちゃんとの仲がおかしくなったのは、亜美ちゃんの受験勉強に付き合ってあげていた辺りからだ。

 カレシが通っているので、亜美ちゃんはどうしても受かりたかったという。


「でも亜美ちゃん、合格範囲ギリギリでさ。私がつきっきりで勉強を見てあげていたの」


その間、受験と投稿の板挟みになっていたらしい。私と相談したかったが、私の負担になりたくなかったらしい。

 


「まさしく、『どうした若造?What's Up Guys?』という状況だったんですわね?』


 有線から、キャロル&チューズデイの曲がかかる。


「『The Loneliest Girl』ですか。おあつらえ向きの曲ですわ」

 天井を見上げながら、唱子さんはつぶやく。

 

 

「少し、席を外しますわ」


 なぜか、唱子さんはフロントへ。

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