「Until Strawberry Sherbet<DUAL VOCAL Version>:爆れつハンター ドラマCD版テーマ」 まさか、ドラマCDの方から攻められるとは。

 その後も、私たちはデュエット曲を中心に歌う。メジャーマイナー関係なく。たいていマイナー曲ばかりになってしまったけど。ネタが尽きて、特撮ソングにまで手を伸ばす。もはや、マイナーアニソンの沼にハマってしまった。

 

「次は『爆れつハンター』行こうか」

「おお、『What's Up Guys?』ですか。マイナーとは違うような……」


「違うよ」

 ウキウキしながら、私はタブレットを操作する。

 

「まさか、閣下の!」

「そう!」

「そんな。デュエットバージョンを知っている方がいたとは!」

 唱子さんは驚いていた。


 私が何を入れたか、分かったらしい。

 

『Until Strawberry Sherbet』は、『爆れつハンター』のラジオドラマ版のエンディングテーマだ。林原めぐみ閣下の知る人ぞ知る名曲である。



「ラップだけど、大丈夫?」

「もちろん、英語の方もバッチリ空で歌えますわ!」

「お願いできる?」

「おまかせを!」


 英語パートを任せ、私たちは歌う。


「唱子さん、英語がうまい!」

「マスターしないと、英語の曲は歌えませんので」

 どこまでも勉強熱心だ! 私も、見習わないと。


「まさか、ドラマCDの方から攻められるとは。驚きでしたわ」

 歌い終えた後、唱子さんは驚きを述べる。

 

「お父さんが浪人生だった時、ラジオでかかったんだって」

「閣下がパーソナリティーのラジオドラマで?」

「ううん。アニソン専門の、音楽番組だったって」


 曲を気に入った父は、速攻CDを借りたそうな。

 しかし、ドラマCDに入っていたのは林原閣下版で、デュエットバージョンではなかった。

 散々探して、ようやく閣下のアルバムにたどり着いたという。


「昔、『星野源のオールナイトニッポン』で閣下がゲストで来た時に、この曲がかかったらしいですわね」

 帰り際、唱子さんが教えてくれた。


「そうなの? 知らなかった!」


 だったら、今だと知っている人は多いかもしれない。


「わたくしも知っていたら、聞いていましたのに!」

 唱子さんも悔しがる。




 私たちの前に、ショートカットの女性が立っていた。




 私は、彼女に見覚えがある。



「あら、漫研の部長さんではないですか。ごきげんよう」


 唱子さんが、ボーイッシュの女性にあいさつをする。


「わたしを知っているとは。さすがだ。こんにちは」


「どういったご用件で」

「その、大島くんがここにいると聞いて。お詫びにね」


 部長が、苦笑いをする。


「唱子さん、大丈夫だから」と、私は前に出た。


「な、なんでしょう、部長」


「申し訳なかった」



「いえ、そんな。お気遣いなく」

 ケンカしたのは、私と友人のせいだ。

 

「キミが出ていったきっかけを作ったのは、わたしだ。情けないばっかりに」

「先輩、あとはワタシが」

 そういって部長の真後ろから、一人の少女が姿を現す。 

 


「ごめん、優歌」

 三編みおさげで、ぽっちゃり目の女の子が、私に頭を下げた。


「みどりちゃん」


 兵藤みどり。彼女こそ、私と喧嘩した友達だった。

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