「Black Holy:モーレツ宇宙海賊 特殊ED」 最近、主人公の声優さんが結婚したってことで

 次の日の放課後も、マイナーソング友の会の会合を行った。


 一曲目は、『Black Holy』である。



「こちらで攻めてまいりました。『モーレツ宇宙海賊』といえば『ももクロ』、という印象がキョーレツですが」


 

「最近、主人公の声優さんが結婚したってことで、記念にね」


「けっ……コホン。そういう気分もございますわね」

 どういうわけか、唱子さんは言葉を濁す。


「それにしても、優歌さんはアニソンに随分とお詳しいですわ。どこからその知識を? 男性のお歌がメインのように思えますが、殿方の影も見当たりませんし」


「殿方って」


 おあいにくさまだ。私はこれまで、男性との交際経験はない。

 両親も、オタク街コンで意気投合した晩婚同士だ。


「やっぱり親の影響かなー。親がオタだと、どうしてもカラオケでもアニソン中心に」

 


 私は普段、動画サイトでアニメを見る。

 当時は私も、ももクロにつられて本編を見た。

 しかし、この特殊エンディングがワンクール目の節目で流れた時、ビリビリと電流が流れた。


 普段から音楽に触れているから、気になってしまうのだ。


 

「ただね、なんか親が気を使ってるのか、私にメジャー曲ばかり歌わせようとすんの。自分たちはマイナー曲を攻めるようになっちゃって」


「それで、自然とマイナー曲が頭に入るようになったと」


「私は、別にメジャー曲でもみんなで歌えばいい、って思っていたんだけど」


 しかし、「人にあれこれと譲ってしまうクセ」が、アニメ研究部で逆効果を生むとは。


「マイナー曲じゃ乗れないだろって、友達が騒ぎ出して」


「どうなさったの?」


「マイク投げつけちゃって」


「そうでしたの」

 しんみりとしてしまう。


「私のせいなのかなって、ずっと自分を責めてた」


 そのときに、唱子さんと出会えた。おかげで、吹っ切れることができたのである。


「しょ、唱子さんは? お嬢様なのに、私よりアニソンの事情に詳しくてビックリしちゃった」


 重苦しくなった空気を払拭するように、話題を変える。


「わたくしが、素人のど自慢荒らしなのは、ご存知ですわよね?」


「うん。テレビでも取り上げられてたよね。伝説の歌姫だって」


 だが、九歳の頃に歌うこと、及びテレビ出演をやめてしまった、と。




 

「わたくしが歌姫だなんて、おこがましいですわ」


 わたくしは逃げましたの、と唱子さんは続ける。


「でも、どうしてやめちゃったの? 唱子さん、すごく歌がうまいのに」


「冗談じゃありませんわ!」

 カルピスをあおり、唱子さんがクダを巻き始めた。

 まるで、中年の酔っぱらいのように。

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