「涙3《ナミダ サンジョウ》:ツヨシしっかりしなさい ED」 爆風スランプのアニソンと言えば、『それから』もいいですわね

 続いて唱子さんの番だ。



 爆風スランプの「涙3ナミダサンジョウ」のイントロが流れてくる。


 90年代のアニメ、「ツヨシしっかりしなさい」のEDで、失恋の曲である。

「ツヨシしっかりしなさい」の曲といえば「その気にさせないで:神崎まき」が有名すぎて、すっかりこの曲は埋もれてしまっていた。

 だが、スキな人は多いらしく、動画サイトでカバーしている人もいる。



 友達とケンカした日が、フラッシュバックする。




 私は、泣いてしまった。



「どうなさったの⁉」


「大丈夫だから」


 私は涙を拭き、落ち着きを取り戻す。


 いたたまれなくなったのか、唱子さんはドリンクバーへ。なぜか、私のグラスまで持っていって。



 戻ってくると、私のグラスにカルピスを入れてくれていた。


「どうぞ。これを飲んで落ち着きなさって」


「ありがと」


 唱子さんが入れてくれたカルピスで、枯れたノドを潤す。

 

「ちょっとさ、思い出しちゃって」


 失恋ソングなのだが、思わず、友人との別れとダブらせてしまった。


「私さぁ。この曲歌って、ケンカになっちゃったんだよね」


「申し訳ありません。配慮が足りませんでしたわ」


「いいよ。事情を知らなかったんだもん。それより、やっぱいい歌だよね!」

 私は無理やり、話をアニソンの方に振った。


 事情を察した唱子さんが、コクコクとうなずいて乗っかってくる。


「爆風スランプのアニソンと言えば、『それから』もいいですわね」


「まんがで読む古典!」


 そのアニメ自体がマイナーかもしれない。

 80年代の作品なので、世代が違うだけかも知れないけど。

 私は見たことはない。


「爆風スランプは、刺さるのですわ。元気の出る曲もいいですが、名曲は切ない系にあると確信しておりますわ」



「わかる!」


 私は、がっしりと握手を交わす。



「決めました! わたくし、『マイナーアニソン友の会』を結成致します!」


「マイナーアニソン、友の会って?」


「学外活動ですわ。定期的に集まって、マイナーアニソンを語らいますの。今のように」


「学校では、やらないの?」


 二人以上集まるなら、部活という手があるが。


「学内ですと、部活どころか同好会すら難しいでしょう。部費の獲得は不可能と言ってよろしいかと」


 そうだよね。


「それに、友の会ですから二人がちょうどいいですわ」


「そうなの?」


「あまり大人数いると、気を使いますわ。主にカラオケですし」


 たしかに、順番を気にしながら歌うのは気が引ける。

 おしゃべりしながら歌いたいし。



 その後、私達はマイナーアニソンをノンストップで二時間歌った。


「では優歌さん、また明日」


 店を出て、唱子さんが頭を下げる。


「うん。またね。今日はごちそうさま。おごらせちゃって」


「いえいえ。いつでもお気軽に話しかけてくださいませ」




 友達と絶交した翌日、友だちができた。


 これって奇跡じゃない?

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