深紅の飛竜守り
浦科 希穂
第1話 夢
リタはある日夢を見ていた。
そこには、暖炉の前でロッキングチェアに座り、優しく自分を抱きしめてくれる母がいた。
何故だか顔はぼやけていてよく見えなかったが、それでも母だと感じる事が出来たので、リタにとってはとても心地の良い夢だった。
母は優しく頭を撫でてくれながら、静かな口調で
「リタ、これからきっと色んな事が起こるでしょう。思ってもみなかった事や、逃げ出したい現実に押し潰されそうになる事もあるかもしれない。
でも、決して諦めないで。あなたには必ず出来る。そして、あなたには支えてくれる人がたくさん居るのだから。
決してあなたを一人にしないと誓うわ。お母さんはいつでもリタの傍に居るからね……大きくなればきっと分かるわ」
そう言うと母は黙ったまま再びゆっくりと頭を撫でてくれた。
母の話はよく分からなったが、背中にあたるじんわりとした暖炉の暖かさと、ゆらゆら揺れるロッキングチェアのリズムが心地良くて、そんなことはどうでも良かった。
*
「おい、起きろ! いつまで寝てやがる、この愚図!」
ドンドンとドアを叩く大きな音に驚いて、リタは寝具から飛び起きた。
一瞬自分が何処にいるのか分からず大きな目をぱちぱちさせた。
しばらく頭がぼーっとしていたが徐々に現実が頭の中を駆け巡っていく。
ここはカルロット家の大屋敷。
大好きだった母と暮らしていたあの家はもう存在しない。
身体が弱かったリタの母親はリタが8歳の時に
8歳で突然孤児になってしまったリタは、一時期保護施設に預けられたが、その後このカルロット家の大屋敷の使用人として引き取られたのだった。
使用人と言っても扱いは酷く、伯爵夫人や、使用人達からは毎日のように罵声を浴びせられ、事あるごとに腹や顔を殴られ続けていた。
あれから2年、リタは全身
身寄りが無く、行く場所を失ってしまったリタは、ここでしか生きていけなかった。毎日痛みと戦いながらやり過ごす事しか出来なかったのだ。
(お母さん……)
心の中でそうつぶやくと、急に目頭が熱くなり溢れ出そうになった涙をぐっと
袖でガシガシと目を擦り、急いで服を着替えて馬小屋の掃除に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます