第6話 苦味を帯びたミルクティー

アッサム 「成程。ローズさんは初めから前の事件を暴くつもりで招待を受けた

      んですね。それで、刑事さんにスタンバってもらったと」

ローズ  「ええ。やはり息子夫婦が怪しいと思ったので、実際に会ってみよう

      と。隙を見て毒でも見つけられれば良いと思っていたら、予想以上

      にうまくいきました。君の芝居のおかげで助かりました。どうやら

      君は、ミルクさんを迎えるために、招待を受けたようですね」

アッサム 「そうです。ミルクさん、ミルクさんもう出てきていいですよ。どうぞ、

      こちらに」


ミルク、下手から再登場。


男    「な、何だと」

女    「死んだはずじゃ……」

アッサム 「死んだふりをしてもらったんです。あなた方の雇われの身から彼女を解放するためにね」

女    「悪い人ねえ」

男    「人を騙すなんてサイテーな奴だ」

刑事   「馬鹿野郎。人を殺す奴の方が悪くてサイテーだ。神妙にお縄を頂戴し

      ろ(手錠を出す)ああ、めんどくせえ。てめーで掛けろ(手錠を渡

      す)。手間かけさすな」


男、女、素直に手錠をかける。


刑事   「よし。おら、いくぞ。ちんたらするな」


刑事、男、女、上手から捌ける。


アッサム 「流石、あなたは驚かない。……気づいてましたね?ミルクさんが死

      んでいないこと」

ローズ  「もちろん。君が毒殺に用いられたと言った青酸カリは、胃酸と反応

      するとアーモンド臭がするといわれています。けれども、そんな匂い

      はミルクさんからはしなかった。外傷もなったし、死ぬはずがない。

      倒れたのには何かワケがあるな、と思いました」

アッサム 「それで、とっさに『脈がない』と嘘をついてくれたわけですか」

ローズ  「まあ」

アッサム 「素晴らしい機転です。感謝しますよ」

ローズ  「それほどでもないけど……」

アッサム 「(視線を変えて)ミルクさん、覚えていますか?僕の言った『少し先

      の未来が見えてしまう』という言葉。僕にはあなたと同じ屋根の下で

      暮らす未来が見えていたのです。一緒に来ていただけますか?」

ミルク  「ええ。私も初めて会った瞬間から、胸の奥にときめきのようなもの

      を感じていました。どこまでも、あなたについていきます」

アッサム 「では、参りましょう」


アッサム、ミルク、上手から捌ける。


ローズ  「アッサム君……。彼も一つだけ見抜けなかった。『脈がない』って言

      ったのは機転なんかじゃない。本心から出た言葉だ。私も彼女に惚

      れていたんだけどね。……勘が良いから判ってしまったんだ。ミルク

      さんが好きなのは君だと。何か、こういうのばっかりだな。でも、

      心配しないでくれたまえ。私は決して枯れたりしおれたりしない。

      (手に持っている薔薇を翳して)この薔薇のように気高く、美しく咲

      き誇るから」


暗転

音楽流れる。


                                ―おわり―


○△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△○


 柚木は、読み終わると静かに息を吐き出し、冊子を閉じた。

それを待っていたかのようなタイミングで、葉織が話し掛けてきた。

「ねえ柚木君。この脚本を読んで気になったところある?」

「そりゃあ、ありますよ。プロの脚本家ではなく、素人の書いたものですからね。学生が考えたにしてはなかなかよく出来たものかなとは思いますけど、やはり所々、粗削りだなという印象を受ける作品です」彼女はうんうん、それで?と先を促す。柚木は続けて、

「具体的な例を挙げると、刑事が犯人に手錠を自ら掛けろと命じるシーン。こんなの有り得ないですよ」と苦笑した。

「そこは演出上、仕方なく書いたんだと思うよ。それに、そのシーンまで進まなかったんだから、事件とは関係ないでしょうが」

 そうだった。迂闊な答えをしてしまった。失望されてしまっただろうかと、少々不安になってしまう。

 何かないだろうかと、頭を掻き、食い入るようにして脚本に視線を落とした柚木であったが、「私は二つある」という葉織の声を聞き、顔を上げる。

「何ですか?」

「まず一つはサブタイトル。紅茶に使われたのはミルクティーじゃないのに、どうして『苦味を帯びたミルクティー』とつけられたんだろう」

 これには答えられるかもしれない。柚木は自分の考えを云ってみた。

「最後にアッサムとミルクが結ばれるから、ミルクティーなのではないでしょうか。そしてローズからしてみると、それがほろ苦く感じられる。だから『苦味を帯びたミルクティー』」

「あ、そっか。成程。うんうん、なかなか素敵なセンスだ」

 葉織は感心したように云った。どうやらサブタイトルが気に入ったようだ。

 葉織の満足のいく解答ができて良かった、と心の中で小さなガッツポーズを作ってから、話を進める。

「ところで、もう一つは」

「あ、うん。もう一つは脚本を読んでではなく、さっきの動画を観ててだけど、砂糖がどうも引っ掛かかるんだ」


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