挿話2 11月8日、井野×浦佐のガールズトーク(?)

「円ちゃんって、普段どんな生活しているっすか?」

「……え、え? ど、どうしたの浦佐さん……?」


 十一月に入ってある日の休憩時間のこと。先に一緒に休憩に入った浦佐さんに私はそう聞かれました。

「……いや、なんとなくっす……」


 浦佐さんは隣に座って大人気のゲーム機のツイッチを触りながら、ちょっと気まずそうな顔をしています。


「ど、どんなって言われても……バイトない日は一時二時くらいまで勉強して、バイトの日は疲れちゃうから零時前に寝てって感じだけど……」


 私はコンビニで買ったメロンパンを食べつつ、浦佐さんに答えます。

「じゃっ、じゃあ、いつもはどんなもの食べてるっすか?」

「べ、別に……普通だけど……」


 さ、さっきから浦佐さんどうしたんだろう……。何か気になることでもあったのかな……。


 すると、ちょこんと座っている浦佐さんはちょっとよくわからないというように小首を傾げて、

「じゃ、じゃあ一体どういう生活をしたらそこまでおっぱいが大きくなるっすか?」

「ひゃっ、ひゃい?」


 ……え、そ、その話っ?

 さっきからチラチラと視線がちょっと合わないかなって思っていたら、私の胸見ていたってことなの……?


 お、女の子とは言えちょっと恥ずかしいよ……。


「だって別にカルシウムたくさんとっているわけじゃないっすし、今聞く限りでは受験勉強でたくさん寝ているわけじゃないっすし、じゃあなんでそこまで大きくなるのか、自分気になるっすよ」


「え、えっと……い、いや……私もそこはよくわからないというか……べ、別に大きくしたくて大きくしたわけじゃ……」


「嫌味っすか? いくら円ちゃんとはいえ自分だって言われたらムッとすることくらいあるっすよー」


 キッとゲームの画面に向けている視線をちょっとだけ上ずらせて、浦佐さんは私のことを少し睨みつける。

 そ、そんなこと言われたって……わからないものはわからないよ……うう……。


「み、水上さんに聞いてみたらどうかな……? だ、大学生だし、水上さん、形綺麗だったし色々知っているかもしれないよ……?」


 八色さんとキャンプ行ったときに遭遇して、ちょっとだけ見たけど……私が見ても目を奪われたし……。


「……水上さんは、ちょっと聞きにくいというっすか……自分が想像つかないとんでもないこと言いだしそうで怖いんすよね」


 ま、まあ確かに水上さんはちょっと謎めいた部分が多いから、その気持ちもわかると言えばわかるけど……。


「比べて円ちゃんは何もかも表情に出てわかりやすいっすし」

「……そ、それは私、褒められているのかな……」


「だったら、いつ頃からおっぱい大きくなったかわかるっすか? 自分が円ちゃんと知り合ったときからは大体今くらいだと思うっすけど」


「え、ええ……? そ、そんなこと言われても……。だ、大体中学二年生くらいのときからかなあ……」

「ふむふむ、中二からっすね」


 それを聞いて浦佐さんはどうするつもりなんだろう……。

「ちなみに、その頃から何か変わったことってあったりするっすか?」

「か、変わったこと……」


 うーん、って言われてもそんなすぐには……えーっと、えーっと……。


「あ」

 ……あ、あったけど……あったけど……。うう、そんな人に言えることじゃ……。


「何かあったっすか? 何すか? 教えて欲しいっす」

「…………」

 自分でもわかるくらい顔が真っ赤になっています。


「そ、その……えっと……」

 私が答えに淀む反面、浦佐さんは期待に瞳を輝かせては返事を待っています。ど、どうしよう……、いいのかな……言っていいのかな……。


「そ、その……き、気持ちよく、なる……こと……かな」

 さすがに単語そのまんまを口にするのは恥ずかしすぎるので、それとなくオブラートに包んで答えます。


 ……確か、私がそれを覚えたのはそれくらいの年……だったと思う……。


「……へ、へえー、ソウナンスネー」


 や、やっぱり引いてるよ……浦佐さん。心なしかちょっと席と席の距離が開いた気がします……。


「ま、まあ? 好きな人に触られると大きくなるって俗説には言われてるっすし? え、えっちなことも多少は効果があるのかもしれないっすね? 多少は」

「う、うう……」


 そ、その言いかただと私がえっちな子みたいに聞こえるよ……。た、確かに人より興味は強いかもしれないけど……。


「でも、そうなるとおっぱいには恋心が詰まっているってことになるっすけど、なんかそれはそれで複雑っすよね」

「だ、だとまるで私が片想い拗らせているみたいに思われちゃうよっ、浦佐さんっ」


 じ、実際そうなんだけど……。八色さんも年末までに答えは出すって言ってくれていますけど、現在進行形では一方通行なままだし……。


「んー? 井野ちゃんが片想い拗らせているってー?」

「ひゃううっ! ……お、小千谷さん……? い、いつから……聞いてました……?」


 すると、私の背中のほうからニュルっと小千谷さんが顔だけ覗かせて話に入ってきました。


「……おぢさん、盗み聞きっすか? 趣味悪いっすね」


「いや、だって大口の家電の買取来ちゃって、バックで査定しろって言われたら仕方ないじゃん? 俺は仕事でここにいるんだから、聞きたくて聞いたわけじゃないぜ? で、いつからって聞かれたら浦佐がおっぱいの話をし始めたときから」


「そ、それって」「ひぅっ」

「さ、最初からじゃないっすかああああああああ」


「ははは、猥談するときは場所を考えたほうがいいな。安心しろって、別に誰かに言いふらしたりなんてしないからさ」


「そ、そういう問題じゃないっすよおおおおおおお! おぢさんの意地悪うううううう!」

「はいはい、俺は仕事中だから邪魔するなよー」


 ……って、てことは……私が初めて覚えた日も……お、小千谷さんに聞かれちゃったってこと……? う、浦佐さんだけならまだいいけど……小千谷さんに知られちゃうのはさすがに……。うう、迂闊でした……。


「まー、浦佐の場合は睡眠時間まともに確保したほうが早いと思うけどなー。寝る子は育つって言うし」

「よっ、余計なお世話っすよおお、言われなくてもわかってるっす」

「へいへい。じゃあ俺はひとり寂しく家電の買取してるよ」


 ……こ、今度からこういう話は絶対に誰にも聞かれないような場所とタイミングでしないと……。


 自分の部屋とか、そういうところで。

 またひとつ、勉強になりました……。

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