第144話 センシティブな内容を含みます()
その日は家に帰ったら吸い込まれるように眠ってしまった。あれだけ疲れていれば当然だと思うけど。帰り道、浦佐や小千谷さんに色々詮索はされたけど、答える気力すらなかったので完全スルーした。
……っていうか、小千谷さんに関しては、例によってもはや出待ちと化した津久田さんの誘拐で悲鳴をあげながら新宿の夜の街に溶けていったし、浦佐は浦佐で途中で改札が別れるからそこまでだったし。
翌朝午後一時。もはや朝じゃないだろうという指摘は受け入れる。でもこの時間まで寝続けてしまうほど僕は疲れていたんだ。
目をこすりながらスマホをつけると、
いの まどか:昨日も最後の最後まですみませんでした
いの まどか:行きもだったのに(>_<)
そんな謝りのラインが井野さんから届いていた。送信日時を見ると、今日の朝七時。どうやら井野さんは快眠だったようだ。
……うん。まあ、ね。正直二日連続でゲロられるとは思ってなかったからね。衝撃の一言だよね……。
八色 太地:色々あるからね、うん
八色 太地:色々ね
うんともいいよとも駄目とも言わずに適当にお茶を濁す。こう、大人になってからの知り合いで吐く場面を見る人ってそうそういないと思うんだけど、お酒も絡んでいないのに井野さんは既に三回、僕の前でやっているからなんというかもう……。プラスアルファで合計四回だけど。もはやネタにするのが申し訳なく思えるレベルだよ……。
すると、待ち構えていたのかすぐに返事に既読がついて、トーク画面がどんどん下に進行していく。
いの まどか:そ、その……お、怒ってたりしますか……?
八色 太地:オコッテナイカラダイジョウブダヨ
いの まどか:わ、わざわざカタカナで打つってことは
いの まどか:相当じゃないですか
いの まどか:な、なんとお詫びすればいいか……うう……
このからかいはまずかったかな……。まずいまずい、フォローしておかないと。このままだとまた井野さんが暴走してとんでもないことを言いだしてしまう。
八色 太地:いいよいいよ全然全然
八色 太地:体調だって朝起きたら悪い日だってあるし
八色 太地:それがたまたま二日続けてキャンプの日に起きちゃっただけ
……とりあえずこれでいいかな……。正直一生分の吐しゃ物を目にした気がするけど、本当にセンシティブな話題になりそうなのでこれ以上僕から掘り下げるのはやめておこうと思う。男ならともかく、女の子だし……。
いの まどか:か、寛大な対応ありがとうございます……
いの まどか:一週間くらい八色さんの奴隷にならないと済まないんじゃないかって
いの まどか:思ってたので……
……井野さん、僕をなんだと思っているの。どこまでも発想がピンク色だねこの子は。
八色 太地:仮に僕がそれを要求したとして、何をするつもりだったの……汗
いの まどか:し、下着の写真を毎日送ったり……
いの まどか:え、えっちな自撮りの写真を送らされたり……
いの まどか:あっ、わ、私が考えたんじゃなくて
いの まどか:こういう展開がある漫画を何冊か読んだので、それで
八色 太地:……現実でそれやったら絶対駄目だよ
いの まどか:至極真っ当なお説教でした……(´・ω・`)
なるほど、これに重たい愛が加わると水上さんみたいになるのか。なんとなく生態を理解したぞ。井野さんも扱いに気を付けないと闇落ちしてああなってしまうかもしれないってことは念頭においておこう。……水上さんがふたりはマジで死人が出る。そのうち。
八色 太地:っていうか普段どんな漫画読んでるの。全年齢向けだよね?
いの まどか:ぜ、全年齢ですよ……?
これリアルで聞いてたら「ひぅ」とかそんな声漏れてるんだろうな……。で、これは年齢指定入っているのも読んでいるな……。
八色 太地:まあ、気に病まなくてもいいよ、うん
八色 太地:それじゃあ、僕は今日も出勤なんで
いの まどか:は、はいっ、お疲れ様です……
さ……朝ご飯兼お昼ご飯を済ませてバイトに行こう。今日はちゃんと仕事できる体力だから、問題ない……よね。
「お疲れ様でーす」
そしていつもくらいの時間にスタッフルームに入ると、先に水上さんと休憩中の小千谷さんがくつろいでいた。
「ん、お疲れー。今日はまともそうだな八色」
「半日死んでたんで。ばっちりですね」
「はは、そりゃいいや」
そう軽口を叩き合い、僕は水上さんの側を通過して更衣室に直行しようとすると、
「……お疲れ様です、八色さん」
いつも通りの落ち着いた声音で彼女に呼び止められる。
……そういえばだけど、この間のお化け騒動でアプローチの方法を変える、とかなんとか言っていたけど、具体的に何を変えるのだろう……。何も聞いてないからわからないんだけど……。
「あ、う、うん。お疲れ様」
それだけ言うと、水上さんは視線を手にしているスマホに移して、
水上 愛唯:先日の約束の件ですが
水上 愛唯:九月の最初の土曜日とかでどうですか?
続けて僕にラインを送る。
これだけの距離で「うん」の一言をラインで送るのも横着なので、その場で首を縦に振って了承する。
それを見た水上さんは、少しだけ頬を緩めて、
「……よかったです、ならそれでいきましょう」
小さく僕にだけ聞こえるくらいの大きさで呟いた。
「……楽しみにしてますね?」
何か変わって、いるのかな……? まだ僕にはいまいちわからない……です。
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