第85話 むっつりさんとこっそりピュアさんとブラコンさん
〇
八色さんが家を出たのを確認すると、すぐに浦佐さんがベッドの上で不敵な笑みを浮かべて、こう宣言しました。
「……じゃあ、家探しするっすよ、おふたりさん」
「え、で、でも……勝手に家を漁るなよって八色さんが」
「漁るなって言われたら漁りたくなるのが人の気持ちってやつっすよ、円ちゃん」
ふんと鼻を膨らませて、早速浦佐さんは本棚の中身をひっくり返したりしつつ、
「太地センパイの秘密を探るっすよ」
と口にします。様子は意気揚々としていて、動きはかなり張り切っています。
「……ひ、秘密って?」
「この間、たまたまセンパイの見てる……え、えーぶい……を発見して、太地センパイから美味しいお寿司を奢ってもらったす。その弱みをまた発見して、今度は豪勢に焼き肉をご馳走してもらうっすよ」
う、浦佐さん……また八色さんに奢ってもらう気でいるんだ……。この間ひとりで五千円近く食べたのに……。
「やっ、焼き肉っ⁉」
すると、それに妹の美穂ちゃんが反応しました。
「お兄ちゃんのえっちなもの見つけたら焼き肉食べられるんですか⁈」
すっくとその場に立ち上がって、浦佐さんの側に向かっては、右手を差し出しました。
「だ、だったら私も探すの手伝いますっ!」
「その意気っすよ妹ちゃんっ!」
浦佐さんも右手を出して、がっちりと固い握手を交わします。
「よーっし、そうと決まったら徹底的に太地センパイの秘密を探るっすよー。円ちゃんと妹ちゃんは前科があるパソコンを、自分は部屋の本棚とかを徹底的に調べるっす」
「わかりました、浦佐お姉さんっ」
ビシッとノリの良い敬礼を行って、美穂ちゃんは勉強机の上に置いてある八色さんのパソコンを開きます。
「お、お姉さん……い、いい響きっす……」
ふたりとも……かなりノリノリなんですよね……。浦佐さんに至っては「お姉さん」呼びされたことにうっとりとしているし。相当嬉しかったんだろうなあ……。
「んー、でも、お兄ちゃんってこういうパスワードは誕生日とかにはしないしなあ……」
カタカタとキーボードを叩く音ののち、美穂ちゃんの唸る声がします。
「うーん、やっぱり違う。……じゃあ、お兄ちゃんの高校受験のときの受験番号で、っと……これも違う。じゃあじゃあ、お兄ちゃんの携帯番号……さすがにないか……。ならなら。お兄ちゃんの大学の学籍番号……も、違う……。だったら、お兄ちゃんのバイト先の雇用者番号……あれーこれも違うなあ、お兄ちゃんってこういうの大抵何かの番号にするんだけど」
「……み、美穂ちゃん?」
「い、妹ちゃん?」
な、なんでそれだけ八色さんの色々な番号がすらすら出てくるんですか……?
「うーん、それだったら、お兄ちゃんの第一志望だった大学の受験番号……でもない、だったら、受かった大学の……あっ」
七回目のチャレンジで、美穂ちゃんの喜びが混ざった声が出されました。
「ひ、開いたっすかっ?」
「はいっ、開きましたっ」
八色さんは普段見せないような、砕けた笑みを作っては、美穂ちゃんはカチカチとマウスをダブルクリックして、インターネットを開きます。
浦佐さんもパソコンの近くにやってきて、美穂ちゃんの代わりにマウスとキーボードを操作し始めました。
「まず基本の検索履歴からっすね……えーっと、あっ、なんかそれっぽいアダルトサイトあったっすよー」
……いいのかなあ、色々な意味でいいのかなあ。勝手に八色さんの……お、おかずを漁るようなことして……。そ、それに、私たち全員十八歳未満なんだけど、そういうサイトにアクセスして、いいのかなあ……。い、いやでも、クラスの男の子とかも平気で教室でおすすめのビデオ教え合ったりしてるし……うーん、うーん。
どこか悶々としながら、私はただただ浦佐さんと美穂ちゃんが操作するパソコンの画面を見つめ続けます。
ページが遷移すると、そういうサイトだからか、えっちな格好をした女の人の画像がいっぱい……。
この間のときも思いましたけど……普段穏やかな八色さんも、こ、こういうもの見るんですね……。
「おっ、右上にマイページっていうボタンあるっすよ? そこ開けば、普段太地センパイがどんなもの見てるかきっとわかるっすよ」
……浦佐さん、普段はえっちなこと忌避しているのに、こういうときはいいんだね……。
「あ、でもまたIDとパスワードが……」
「任せてくださいっ、大抵こういうIDはメールアドレスですし、パスワードもさっき試したなかからやっていけば……きたっ!」
八色さん……一度パスワードの類全部再設定したほうがいいと思います。このままだと美穂ちゃんに筒抜けです……。
「さてさて……太地センパイの性癖は……あ、れ……?」
「……お、お兄ちゃん……?」
すると、パソコンと至近距離にいた浦佐さんと美穂ちゃんは、開かれたマイページの画面を見て、ポッと顔を赤らめさせて硬直してしまいます。
「ど、どうかしたの……?」
私も一応中身が気になったので、ふたりの肩と肩の間から画面を覗くと……。
「……お、おもらし……お、おな……ひぃん……」
主にそのふたつのジャンルに限定されたビデオのサムネイルが数本。
や、八色さん……そういうのが……お好きだった……んですね。
私はとりあえずその画面をスマホで写真を撮ります。
「ま、円ちゃん……? 何撮ってるんすか……?」
「え、あっ、いやっ、そっ、そのっ、や、焼き肉奢ってもらうなら証拠が必要かなって思って、け、決してそれ以外の用途で写真なんて撮ってないです、ひゃうん……」
「いや、わかってるっすけど、別に聞いてないっすよ……」
ぐるっと私のほうを振り返った浦佐さんは、渋い表情をして私に言ってから、再び画面を見ます。そして、さらに顔の色を濃くして、声を上ずらせながら尋ねます。
「……そ、その……円ちゃん……変なこと聞くっすけど……」
「な、何かな……?」
「……そ、そんなに気持ちいいんすか?」
「え?」
普段の軽い雰囲気の浦佐さんらしくなく、もじもじと両手を体の前でよじらせて、
「……そ、その……じ、自分で触るのって……そんなに、いいものなんすか……?」
「ま、まあ……そ、それなりに……いい、のかな……結構よく眠れるよ……?」
「そ、そういう、ものなんすね……へえ……」
「ふたりとも、何のお話をしているんですか?」
「あ、い、いやなんでもないよ?」「そ、そうっすよー」
でも、よくよく考えたら、アダルトサイト開いている前で誤魔化しても、大して意味ないんじゃないかなって思ったけど。というかごめんなさい八色さん……。妹さんの前でお兄さんとしての威厳を潰しちゃって……。謝罪もこめてお知らせだけはしておきますね……。そのほうがいい……ですよね?
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