第9話 夕食

結局三人で並んで湯船に浸かる。シャワーとは違い、湯の温かさがじわじわ体温をあげ、心地よさにほう、と息を吐いた。


「で、有彦。お前の両親とか親類は日本にいないのか?」


「……」


「そういう静寂はどうなのよ。両親、いるんでしょ。」


アンジェラの問いに俺は仏頂面で答える。


「……いるよ」


「顔、出さないの。もうずっと逢ってないんでしょ」


「…必要ねえよ」


このまま湯船に沈んでしまおうか。と、有彦が小さな手を俺の肩に置く。いいんだよ、と言ってるみたいだった。


こんな話をしながら、俺はアンジェラの家族の話しも聞いたことがない。彼女が家族に逢うとか、家族の元に帰ると言ったこともない。


結局、俺達は似た者同士だ。血の繋がりのない家族のような、奇妙な三人。


「そろそろ茹だるな。出るか」


風呂から上がり部屋に戻ると、テーブルの上に夕食が用意されていた。


「ひゃあ、ゴージャスだな。スシ、テンプラ

サシミ…酒まであるじゃないか」


「静寂、飲んだら夜襲された時にやばいわよ」


浴衣を着たアンジェラは、一般的に相当色っぽい感じだ。しかし、裸ではないし俺はもう欲情はしない。風呂での出来事は不可抗力である。


「わかってる。飲まねえよ。つうか、有栖川さんに詳細を聞きたいんだがな」


「明日ってことじゃないの?」


有彦は茶碗蒸しを嬉しそうに食べている。小さな浴衣が似合っていて可愛い。


「んな呑気で良いのかね…」


「知らないわよ。依頼人の意向なんだからいいんじゃない?あ、これ美味しい。」


パクパクと刺身を食べているアンジェラを見つめながら、俺は胸に込み上げる不安を感じていた。

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