世界を照らすWorld・Ray

@Ikarga5894

エピローグ Goodbye to the world

「ああ・・夜空が綺麗だ」


背中から冷たい感触を味わいながら、ぼそりと呟く。普段は夜空を見て綺麗だと言えるほど、感情豊かな人間ではないことを知っている。それでも今見ている景色は紛れもなく、美しいと感じることができた。


「そもそも・・何で俺は・・夜空を見ているんだろう」


自ら疑問を持ち始めたことにより、現状がどのようになっているか理解していく。背中に感じる冷たさとは別の、暖かな感触を味わえることに気付き、上げたくないと思う左手を持ち上げる。その左手に付いている赤を見て、悟ってしまう。


「・・まじかよ。夜空が綺麗だから・・分からなかったけど・・気付くと・・かなり痛ぇ・・」


まるで腹に、大きな鉄筋が突き刺さってるような痛みだ。実際は胴体に穴が空いているため、あながち間違っている例えではない。ぐつぐつと煮えたぎるような、熱さが全身に襲ってくるが、既に多くの血を流しているため、痛みを感じなくなり意識が朦朧とし、世界が閉ざされようとしている。


「人って死んだら…何処に行くんだろうな…」


「もうすぐ会えるね」


いるはずのない声が聞こえた。まさか自分以外に、この場に人がいるわけがないと思い、ゆっくり振り向くと、黒い影に包まれた存在が佇んでいた。


「もう離れないから」


一体この存在は、俺に何を思って語りかけてくるんだろう。俺はこの黒い影を知らない。だが黒い影側は、はっきり俺を認識して見ている。


「もう…離れないから…待ってるね」


「…そうかい。何も分からないけど…死んだら仕方ない…か」


あぁ…これはもしかしたら天使が、天国に迎えに来たのかもしれない…存在自体は黒いけど。ただ一つ、死ぬ前に今まで思っても口に出せなかった願望が漏れる。


「俺を…受け入れてくれる世界で…もう一度…生きたいな」





その言葉を最後に、この世界における烏野透の生涯は幕を閉じた。








「この星が現れている今しか連れて行けなかった。あぁ…会えるのが待ち遠しいよ──さん」


烏野透に兄妹などいない。それでも黒い影の存在は、まるで長年共に過ごしてきた家族のような眼差しを、夜空に映る2つの星に向けて言葉を発した。






舞台が異世界へ変わる瞬間であった。




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