第2話

 突然だが、基本的にエルミナ王国は一夫一妻制だ。王族のみ王家の存続と言う建前が有り一夫多妻が許されている。

 では、政略結婚で結婚させられてしまった貴族はどうなるのか。


 昔、高貴な姫君に見初められ、当時恋人が居たにも関わらずその姫と結婚させられてしまった男が居た。その男は結局一生姫と添い遂げることになり、最後、別れさせられた恋人の名前を呟いて亡くなったと言われている。

 それを聞き、恋愛結婚だった当時の王が新たな法を作った。

 そして貴族対する法を作った。その法は、


・貴族男性は正妻とは別に、一人のみ妾として女性を囲っても良いとする。ただし、迎え入れるのは正妻が第一子を出産してからとする。


・妾を持った男性は正妻と離縁、もしくは正妻が死亡してもその妾との再婚は許されない。


・妾の安全、生活衣・食・住は囲っている本人が保証すること。


・正妻とその関係者は妾に対し、妾本人の意思が無い限り、直接的、間接的に接触しないこと。妾とその関係者も正妻本人の意思が無い限り正妻に対し、直接的、間接的に接触してはならない。


・妾を特別贔屓することはしてはならず、正妻を蔑ろにしてはならない。


・正妻の夫は故意に妾と正妻を接触させてはならない。


・正妻、妾の住居は分けること。


・妾の子供は基本的に家を継いではならない。


などだ。この、正妻、妾、それぞれを守るための法は今でも廃止される事無く、貴族が抱えていた不満を解消した法として、親しまれている。もちろん男性だけでなく、女性も自身の立場がある程度は保証されるという意味ではありがたい法である。


 どうしてこの話をしたのか、その理由はこの人物に有る。

 エレノア・リールと言う伯爵令嬢が居る。彼女は入学する前から社交界で噂になっていた令嬢だ。

 なぜなら伯爵の中でも比較的新しいリール伯爵家の当主のの娘だからだ。

 リール伯爵には、正妻が居た。だが、正妻は生来体が弱く、子供が産めない身体であった。

 そしてリール伯爵には後の正妻との婚姻を持ちかけられた当時、男爵の令嬢の婚約者が居た。

 リール伯爵は困った。彼は立場上どうしても婚約を断れず、後の正妻は病弱で子供を産めない体らしい。妾は正妻が子供を産まなければ迎え入れられない。つまりは男爵令嬢と別れなければならなかったのだ。

 困っているのは後の正妻も同じだった。伯爵と結婚してもどの道子供を産むのは非常に危険であり、運よく生き延びても一生寝たきりの生活になる確率は非常に高く、また、子供を産まない妻など貴族として意味がない。かと言って結婚しなくてもすでに跡取りがいる家や、すでに当主を引退して余生を過ごしている老人などの後妻になるくらいしか道がない。すでに何度も両親は様々な家に婚姻を持ち掛けていたが、どこからも断られ、それなりの相手との婚姻はほぼ絶望的だった。

 そして仕方なしに古くから面倒を見ており、また、金を貸している落ち目の伯爵家に半ば強制的に押し付けるように嫁がせたのだ。押し付けるようにといっても、それは、大事な娘を立場の弱い後妻にするのは嫌だという親心からくるものであることは確かだった。そのせいで余計に正妻が伯爵に対し負い目を感じたことも事実ではあったのだが……。

 そこで二人は国王に相談した。国王は不憫に思い、特例で正妻が子供を産まなくても妾を迎え入れさせ、妾の第一子を正妻と夫の養子にさせた。その子供がエレノア・リールだ。

 王が認めた特例の妾の娘。彼女は社交界に出れる年になるまで一切姿を見せなかった。それが学園に入学し、社交界に出てくるとなれば興味を持つ貴族が出てくるのも当然だろう。

 そしてその令嬢にアルフレッドも興味を持ってしまった。


 リエルは誰から見ても優秀な婚約者だった。その上アルフレッドは優秀は優秀だったが、リエルがあまりにも未来の王妃として完璧すぎたのも拍車をかけたのだろう。アルフレッドは劣等感を刺激され、幼い頃は仲が良かったが、成長するにつれて拗れてしまっていた。


 そしてエレノアは貴族として一定以上の教養を持っているとは言えない。夢見がちで、貴族としての役割をあまり理解していないのだ。

 正式に伯爵夫妻の家に迎え入れられた時、彼女はすでに3歳であり、その年頃の子供は、子供ができない正妻にとって、目に入れても痛くないほど可愛いものだった。自分の子供ではないという負い目のようなものもあり、ついつい甘やかして育ててしまったのだ。

 気が付けばエレノアは12歳になっており、学園に入学するにもかかわらず、必要最低限のマナーと教養しか身に着けていなかった。当然夫妻はまずいと思った。だが、一から教育するのも時間が足りないため、仕方なく、身についているマナーと教養をよりしっかり叩き込んでから学園へ送り出した。

 幸いと言っていいのか分からないが、エレノアは頭が良くなく、少し妄想癖があり、変な方向に考えすぎな部分があるだけで、その心根は素直で純粋だった。正妻のことは実の母親のように慕っているため、言うことは素直に聞くし、妄想と現実の区別が時々つかなくなっている時も、信頼している人間の言うことならばきちんと区別するようになる。そんな性格の人間だった。


 そんなエレノアとアルフレッドが接触してしまった場合、どういう事が起こるのだろうか。

 今回起こった事は想定されるケースで最悪とも言える位のものだった。

 アルフレッドとエレノアが恋仲になったのだ。アルフレッドはエレノアの、大人びたリエルとは違うタイプの、子供らしく、可愛らしい容姿とその奔放さに惹かれ、エレノアはアルフレッドの『王子様』と言う幼い女の子ならば一度は夢見る設定と、その設定に忠実な容姿に惹かれた。

 それだけならまだ良かった。王家はエレノアを側室にすれば良いし、リール伯爵家も一人娘を嫁に出すのだから、妾と子供を作って跡継ぎにするぐらいは許される。

 だが、事件(?)は起こった。エレノアが生徒の一人に虐められ、アルフレッドがそれをリエルの仕業ではないかと推測した。その話を聞いたエレノアは持ち前の素直さでアルフレッドの考えが真実だとおもいこんでしまったのだ。

 そしてエレノアが虐めの主犯をリエルだと思い込んでいるという事をアルフレッドの取り巻きが知り、他の貴族にその話をした。それを知ったリエルはそうして立った「リエルがエレノアに冤罪を着せられている」という噂を消すために方々を回ってその噂を揉み消した。

 そんなリエルの努力も虚しく、どんどん新しい噂が立ち、それを消すという鼬ごっこが繰り広げられていった。

 そして数週間前、揉み消すのに疲れたリエルは元を断とうと決め、アルフレッドとエレノア達に自分の身の潔白を証明しようと直談判に行った。

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