ゼロと始める新生活

ヒノッキ

1章 エルミナ王国

第1話

「お母様、お母様、お母様ーー!」


 今にも雨が降りそうな曇り空の下、喪服を着て、ヴェールを被った齢10歳の少女が棺に縋り付き泣き喚いている。

 その棺の中に眠っているのは少女の母親だ。彼女はこの国、エルミナ王国で流行っている流行り病で先日死亡した。

 その少女の後ろに喪服を着た二人。一人は少女の兄だ。彼は泣き喚いている妹を不安にさせないため、必死に溢れ出てくる涙をこらえている。ちなみに齢14歳である。

 もう一人は少女の父親。彼も少女の兄、そして少女同様、愛する妻を亡くし悲しんでいるが、その妻が残した娘を守るため泣き叫びたいのを我慢している。流石、侯爵家当主と言うべきか、まだ未熟な兄と違い感情をうまく隠している。なので悲しんでいる様には親しい者以外には全く見えない。親しい者でも相当長い時間一緒に居ない限り分からないだろう。


 雨が降り出した。侯爵一家に遠慮をして離れて見ていた使用人も流石に大切な子息に令嬢、主人が体調を崩すのはまずいと思って近づき、父親に耳打ちする。


「ギデオン様。雨が降ってまいりました。そろそろやしきに……」


「あぁ」


父親ギデオンは了承の意を込めて頷き、少女と兄に言った。


「リエル、レイド。雨が降ってきた。風邪をひいては大変だからやしきへ戻りなさい」


「ですが……、はい、父上。リエル、帰るぞ」


 ギデオンの心配する顔を見て、レイドは邸に帰ることを決め、泣き叫んでいる少女リエルに語り掛けた。

 それにリエルは少しずつ泣き止み、それでも目元を真っ赤しながら


「はい」


と、答え、ギデオン達の後に続いて邸に帰っていった。

 明らかに落ち込んでいる二人の様子を先導しながらもちらりと見て、デオンは呟く。


「アリシア……私はあの子達の為に何ができるのだろうな」


 遠くに旅立って行ってしまった愛する妻、アリシアに向かって。


そしてアリシアが死んだ日、リエルは何故か魔法が使えなくなった。




◆◆そして5年後◆◆




「リエル! お前は私の妃に相応しくない。今、私は王太子アルフレッド・エルミナの名において、私の婚約者、リエル・ヘルグナーに婚約破棄を宣言する」


 エルミナ王国の貴族が通う学園。その卒業パーティーでリエルは婚約者、アルフレッドに婚約破棄を宣言された。




◆◆◆◆




 リエルは現在15歳、16歳のアルフレッドの一つ下だ。にもかかわらずリエルは卒業パーティーに出席している。

 卒業パーティーには基本的に16歳の卒業生しか出席できない事になっている。国王などの王族は例外で時々出席していたりするが。

 なのに何故来年卒業するはずのリエルが出席しているかと言うと、それはアルフレッドに招待されたからに他ならない。

 上級貴族の卒業生は一人だけ卒業パーティーに招待出来る権限を持っている。それには勿論王族であるアルフレッドも含まれており、今回はその権限でリエルは卒業パーティーに招待された。

 卒業パーティーが行われるのは学園の講堂だ。リエルはアルフレッドに招待された時、講堂の前で待っているよう指示され、その指示に従い講堂の前で待っていた。

 なのにどんなに待ってもアルフレッドは現れなかった。講堂の扉を守護していた騎士の勧めで仕方がなく、一人で入場し、講堂の中心が騒めいているのを見て、興味を惹かれ、講堂の中心に行った。するとそこには指示された場所に来なかったアルフレッドが居たのだ。




◆◆◆◆




 そして今、リエルはアルフレッドに婚約破棄を宣言された。

 リエルは人々を魅了する、美しい、だが、どこか無機質な笑みを浮かべてアルフレッドを見る。

 そして、アルフレッドに質問した。


「殿下、私が妃に相応しくないとはどういう事でしょう」

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