533話 カレーのトッピン( ゜Д゜)bグッ『メンチカツ』




「これはなんだ女将おかみ


カウンターでカレーを受け取り、トッピングをみたラプラスが怪訝そうにサンミに聞く。

カレーの上には肉ではなく コロッケのようなものが乗っかっていた。


「何って、メンチカツだよ」


「メンチカツ……」


「今日のトッピングは『焼き野菜』か『メンチカツ』さね。肉ならメンチカツ」


「ほう、中はイモじゃなく肉なのか」


ラプラスは機嫌を戻し、ほくほくと席に着いた。


「では、いただこう」


ラプラスはランの隣に座ると フォークを持ち、メンチカツに向かう。


″サクッ″


コロッケ同様、さっくりとしたファーストコンタクト。

肉にしては抵抗なくフォークが刺さってゆく。


「?」


ナイフがなくとも切れるほど柔らかく煮込まれた肉なのかと思い、ラプラスは刺したフォークを寝かせると、メンチカツが簡単に割れた。


「むっ!なんだ、肉と言っても小さく刻んだ肉ではないか!」


メンチカツの断面を見たラプラスがまた騒ぐ。


「ハンバーガーのパテだってそうでしょう?」


ランの向かいに座っているイシルがやんわりとラプラスに諭した。


「我はいつもコロッケバーガーだ。ハンバーガーは食わん。挽いた肉なんぞせいぜいコロッケの具材のひとつ、引き立て役程にしかならん。それを集めて食したところでたかが知れておろう」


ランといい、ラプラスといい、挽き肉に対して失礼である。

サクラが聞いたら憤慨するところだ。


「まったく、なぜ肉塊を刻んでまたひとつにまとめねばならんのだ!肉塊で食せば良いではないか!」


「うまいぜ?ハンバーグもメンチカツも」


「フン、我は騙されん!」


ラプラスの言葉にランがニヤリと嗤った。


「いらないってことだな、じゃあ、オレが――」


「知らなくていいんですか?」


「うむ?」


ランがラプラスの皿に手を伸ばそうとしたところでイシルがラプラスをそそのかす。


「全知、神の目を称する古竜エンシェントドラゴンが メンチカツの味を知らないままでいいんですか?」


余計なことを、、と ランがイシルを睨んだ。


このままラプラスのメンチカツをゲットできそうだったのに、イシルの言葉で『そうだな』と ラプラスが思い直してしまったのだ。


「我が真実を見極めよう」


「大袈裟だな、オマエ」


ラプラスは不機嫌になったランの隣で 半分に割れたメンチカツをフォークで刺すと、ひとくち かぶりついた――


″サクッ、、じゅわっ、、″


「むっ!!?」


サックリあがったコロモの中、細かく刻まれた肉の間から じゅわわん、と 肉汁が溢れてくる。


「なんだ!?これは!!」


肉と肉が絡み合い、肉汁を逃がさぬようその間に含んでいる。

ほわほわと口の中で細かくほぐれてゆくのに、むぎゅっとした弾力と、確かなる肉の旨み!

これは、、


「牛の濃い旨みの中に豚のコクを感じる……」


「合挽き肉ですからね」


「逢い引き!?」


字が違いますよ、ラプラスさん。


「サクラさん曰く、牛肉7に対して豚肉3のハンバーグ黄金比だそうです」


「そうか、、細かくしたことで牛と豚を引き合わせ、まぐわい、絡み合うことによってこのような深い味になるのか……」


言い方が卑猥ですよ、ラプラスさん。


「しかし、この甘味は、、豚肉だけではないな?」


「玉ねぎですね」


「野菜の甘みか!しかも、ぎゅっとしてるのにふわふわと」


「卵と牛乳に浸したパン粉でつないであります」


肉の間で蒸された玉ねぎは、その甘みと栄養を余す事なく小さなメンチカツの中に閉じ込められ、ブイヨンとなり、ミンチ肉の隙間に染み渡る。

そして、肉なのにふわっとしている。


「中に入れる野菜を変えるとまた違う味わいになるんです。キャベツたっぷりザクザクメンチ、ピーマン入れてほろ苦メンチ、中に丸ごと卵を入れた、、スコッチエッグだったかな」


「なんと!奥深い、、奥深すぎるぞ、メンチカツ!」


「カレーのトッピングなのだから、カレーと一緒に口に食べてください」


「うむ」


イシルに勧められ、ラプラスは ひと口大に切ったメンチカツをカレーと一緒に頬張る。


″あむ、、むぐっ″


「んんんっ!?」


メンチカツにカレーが浸み込んでいく。

肉塊でなく、寄せ集めた肉だからこそ、口の中でカツとカレーが一体化していく。


コロッケはまったり、ペースト状態、ザックリ衣に包まれた芋の甘みと舌触りがカレーを包むあの旨さ。

それもいい。

が、メンチカツも、イイ!

何と言ってもこの食べ応えと一体感、、

この上なくボリューミー!!

胃の腑にガツンと落ちてゆき、空腹を満たす。


「渾然一体!!」


口の中に世界が広がる。

胃袋が大満足と踊りだし、脳に幸福だと伝えてくる。


「おかわり!!」


食べ終わる前に次を注文する。


「僕が取ってきますよ、食べていてください」


「うむ、もぐ、、すまんな、エルフよ」


食べ終わったイシルが皿を下げるついでに ラプラスのおかわりを取りに行ってくれた。


「サクラは牛肉7:豚肉3がハンバーグ黄金比っていうけど、ハンバーガーならオレはやっぱり つなぎなし、100%ビーフも捨てがたいなぁ…」


ランがテーブルに肩肘をつきラプラスが食べるのを眺めながら話しかける。


「それこそただの肉の寄せ集めであろう?逢い引きだから良いのではないか?」


やはり字が違いますラプラスさん。


「豚肉がプラスされるとちゃんと火を通さないとダメだけど、牛100%はレアでもいける。肉を粗くしてさ、肉々しさ満点のハンバーグと レタス、オニオン、ピクルス、そこにこってりソースをかけてパンで挟んでかぶりつけば、やっぱり渾然一体?てヤツだぜ?塊肉では出せない魅力満載だ」


「そうか、、それも真実を見極めねばな」


「教えたんだからメンチカツ一個くれよ」


「やらん」


「ケチ」


そこへイシルがラプラスのおかわりをもって帰って来た。


「何揉めてるんですか、まったく、ランは目を離すとすぐこれだから……」


そう言いながらラプラスの前に メンチカツカレーを置く。


「問題児みたいに言うなよ」


「問題児でしょう」


まったく、と、ランの前にも カレーの皿。


「えっ?オレの?」


「どうせひと皿では足りないと思ってましたから」


しかも、焼き野菜カレーではなく、ラプラスと同じくメンチカツカレー。


「いいの!?」


「ちゃんと野菜も食べた事ですしね」


「イシル~!!」


ランの満面の笑み。

″いただきます″と メンチカツカレーを頬張るランに 水を注いであげるイシルさん。


「お前達、ラブラブだな」


「変な言い方しないで下さいよ」


ラプラスにもお水。


「サクラが居らんでも楽しそうではないか、サクラを我に寄越せ」


「あげません」

「やんねーよ」


イシルとランがラプラスを睨んだ。


「てか、お前、ジョーカーを追っかけ回してたじゃねーかよ、フラれたらサクラか?」


「逆だ。サクラの方が先だ。だが、サクラにはお主が居るであろう?」


「へ?」


オレ?と、ランが驚く。


(イシルじゃなくて、オレ?)


「お主はサクラの従魔であろう?一番サクラの近くにる。心で繋がっておる」


「心で……」


「サクラが呼んで すぐに隣に行けるのはお主だけだ」


「そっか、、」


「そうだ」


そっか、と もう一度噛みしめるように呟き、ランが嬉しそうに笑った。




「でもアイツサクラ中々呼ばねーからな」


「今、何してます?サクラさん」


古竜ラプラスには見えているはず。


「今――」


閉じた瞳の奥で ラプラスの目がきょろりと動く。


「森の中を走っておる」


「森?馬車道ではなくて?」


「オーガの村からアザミ野の先の大街道へ――」


「アイリーン、、やってくれますね。サクラさん酔いやすいのに スターウルフで山道なんて、、」


今にも飛び出して行きそうなイシルを ラプラスが言葉で止める。


「問題ない。狐の姫が を教えたようだ。重力の魔法を使って、上手く乗りこなしておる」


「そう、ですか、、」


やはりヨーコを一緒に行かせて正解だった。

イシルは浮かせた腰を落ち着かせ、椅子に座り直した。


「あまり構いすぎるのもどうかと思うぞ?我のように、そっと見守る事も必要だ」


「余計なお世話です」


そりゃラプラスは全てが見えてますからね。








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