532. カレーのトッピン( ゜Д゜)bグッ『焼き野菜』 (ドワーフ村:ランの場合)




「よく動いたからお腹減ったでしょう、さあ、どうぞ」


ドワーフ村の宿屋『笑う銀狼亭』の食堂で にこやかにラン微笑みかけ、お昼をご馳走するイシルさん。


イシルはサクラを女子旅へ送り出した後、警備隊が鍛練している場所へ出向き、特別講師と称して訓練に参加した。


″一太刀でも当たったら 昼を奢りますよ″


全員を相手取り大立ち回り。


「脇が甘い」

「踏み込みが弱い」

「武器が合ってない」

「後ろががら空き」


などと、各隊員に助言をしながら 攻撃をかわし――


「うおっ!?」


ランに鋭い攻撃を仕掛けてくる。


「チッ」


「何だよ!″チッ″て!?」


(明らかにる気の一撃だったぞ今の!!)


鍛練?訓練??演習???イヤイヤ、実戦です!!


(何なんだよ、一体!!)


隊員をあしらいながらランにだけ攻撃を向けてくるイシル。

隊員は各自自分の武器を所持しているが、イシルは素手だ。

武闘演習だから魔法は使わない。


イシルは各隊員、ある程度動きを見てアドバイスすると、はい終わり、とばかりに、トドメめを刺す。


“ごっつん”


(頭突きかよ!!)


痛そうだ。


が、頭突きを食らった者は ふらふらとしながらも『ありがとうございました……』と、少しシアワセそうに 脇へと退場していった。


(あいつ、頭突きのためにいつもデコ出してんじゃねーだろうな)


髪形は関係ありません。


一人、二人と脱落し、最終的にイシルとランだけが残った。


「このっ!」


ランはスピードに乗ってイシルに攻撃する。

が、イシルの方が一枚も二枚も上手うわてだ。


「そんなに大振りしてどうするんですか、折角のスピードが台無しですよ」


「うるせっ!」


当たらない。


「もっと体の近くで、、剣のリーチに頼りすぎです」


そう言って イシルがくるりと身をひるがえす。


″ゾクリ″


ランの首の後ろに悪寒が走る。

身を返したイシルがまわし手でランの首の後ろで手刀を寸止め。


「実戦なら首が跳んでますね」


ランは慌ててイシルから離れ 構え直し、すぐさま踏み込んで攻撃に移った。


胴切りをかわされ、ランはそのまま走り抜け、振り向いて流れるようにイシルの背に袈裟斬りを――


(あ、いねぇ、上か!)


直感でそう判断し、上から降ってくるであろう攻撃を避けるために後ろへと跳んだ。


「いい判断です。目に頼りきらないのは素晴らしい」


「誉められても嬉しくねぇ!」


「そうですか?」


(気配も姿も捉えにくいチート野郎にどうしろってんだ!!)


しかもイシルは余裕綽々、ムカついてしょうがない。

流れるイシルの金の髪も優雅に見えて腹が立つ。

その髪にさえ ランの剣は届かないのだから。


「ギルロスと同じ戦い方をしてどうするんです、彼と君では体格も力も違うんですよ?」


「わかってるよっ!!」


トドメを刺された他の隊員たちは 木陰でのほほん休憩中。


「お前ら、見るのも勉強だからな」


「いや、無理言わないで……」

「早すぎて見えないっすよ、ギルロスさん」

「イシルさん、オレらの時と全然違うし……」


ランが弱い訳じゃない。

イシルが強すぎるのだ。




「いつもの人を食ったような調子はどこいったんですか」


そう言いながらも攻撃する手は止めないイシル。

かわすだけでも必死なんだよ、こっちは!


「基本はおさえたまま、もっと自由でいいんですよ?」


警備隊に入り、鍛練に参加するまでは自由に戦っていた。

ギルロスに基本がなってないと直される。

それを、また自由に?


「基本はもう体に染みついてるはずです。戦いの場数は踏んでるでしょう?」


そう言ってイシルが踏み込んでくる。


もう基本は忘れていいのか?

ランは構えることはせず、剣を盾にし、イシルからの攻撃を防ぐ。


相手に向けるやいばではなく、己を守るやいば

イシルは素手だからやいばを避けて、一瞬、とどまった。


ランは その一瞬に賭けた。


身を守るために盾にしていた剣を薙ぎ払い、手を離す。

飛んでくる剣をイシルが避けるのと同時に、ランはイシルの懐に飛び込んだ。

剣をに使ったのだ。

そして、普段使いしている、ハーフリングの骨董市で買った短剣を脚から抜き、イシルの腹に――


″パシッ″


当てる寸前で イシルはランの手首を掴み、それを止め、ランの手をひねり、刃を返す。


「いででででっ!!」


手首を捻られたランが痛がり、声をあげた。


「上出来です」


イシルは満足そうに微笑むと 頭を振りかぶる。


「わっ!待て、タンマ!!」


″ごっつん☆″


ランももれなくイシルから頭突きをくらい、演習はお開きになった。

そして――


「よく動いたからお腹減ったでしょう、さあ、どうぞ」


現在に至る。




カウンターからイシルが持ってきたのはカレー。

カレーは好きだ。

食べると元気がでる。

しかし、ランは不服そう。


その理由はトッピング。

イシルが持ってきたカレーには、焼いた野菜ががっつりのっていた。


じゃがいも、にんじん、玉ねぎの基本のカレーに トマト、アスパラ、ズッキーニ、アボカド、、夏を先取り焼き野菜カレー。


「……肉は?」


「入っているでしょう?カレーの中に」


よく見るとカレーの中に申し訳程度にひき肉が入っていた。

主役じゃなく、味を出すための脇役お肉。


「……」

「……」


「別に食べなくてもいいんですよ?僕から一本とったわけでもないし」

「食うよ」


腹は減ってる。

ランはスプーンを手に怒りをこめてカレーを混ぜこんだ(←猫舌だから冷ます意味もある)


「いただきます」

「……いただきます」


イシルはスプーンの上に小さなカレーライスを作るようにすくい、混ぜないで食べる。

混ぜると味が馴染んで美味しいが、味の変化がなくなって、ずっと同じ味になってしまう。

このほうがトッピングの野菜の変化と共に楽しめるから。


ランは腹が減ってるから一気にがっついた。


″あむっ、、″


(あ、うめぇ)


ちょっぴりしかはいっていないとボヤいていたが、カレールーと麦の混ざりあった中に、キシッと、ミンチ肉の弾力を感じる。

その弾力がいい。

噛むと 小粒ながらも肉々しく、それでいて、主張しすぎないバランス。

ライスを美味しく食べられる配合。


(やるな、サンミ)


トッピングの野菜も悪くなかった。

焼き目のついた焼き野菜は その香ばしさでカレーを引き上げてくれる。


″はぐっ、、もぐっ″


オリーブオイル香るズッキーニは適度な歯ごたえと水分を残し、野菜の甘味が生きている。


″あぐっ、、むぐっ″


少し青いアボカドは ほっくりとして、芋のような食感。

じゃがいもよりもねっとりと、独特の青臭さが鼻に抜ける。

う~ん、南国なんごく

家庭的カレーを全く違う味に変えてくれる。


″ぱくっ、、むぐっ″


じゅわっ、、焼きトマトの酸味が口に広がる。

今度は一気にトマトカレーだ。


(野菜、悪くねぇ)


旨さに手が止まらない。

だけど、、


「やっぱ肉も食いてぇ」


ランがぼやくが、イシルはかまわず目の前で綺麗にカレーを食べる。

ライスをカレールーの方へ引き寄せながら食べているから皿もキレイに、カレーも余すことなく。


「今回は『頑張ったで賞』ですからね、野菜、食べなさい」


何だそれ。




「わはははは、あの調子ではまだ肉盛りカレーは遠そうだな、黒猫」


野菜カレーを食べていると、古龍ラプラスが無遠慮な物言いを放ちながら店に入ってきた。


「見てたのかよ」


「我には全て見えておる」


ラプラスはそう言って 当たり前のようにイシルとランと同じテーブルについた。


「あっち行けよ、空いてるだろう」


「どこに座ろうが我の勝手だ」


一緒に座らないと言うこちらの選択肢は無視。


女将おかみ!我にもカレーを!肉、たっぷりでな!」


どうやらラプラスは肉盛りカレーをランに見せつけたいらしい。


「自分で取りに来な」


サンミが座ったままのラプラスにカウンターから声をとばした。

お客様は神様ではありません。


神の目ラプラスも サンミには関係ないようです。


「……はい」


ラプラスが大人しく返事をした。

サンミに逆らったら この村で美味しいものはたべられないからね。




























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