529話 女子旅 part2 ⑬ (ハイドンの場合) ★




「この方がルヴァン、トトリ、カナル、を救ってくださったのですね」


たおやかな空気を纏い、美しい黒髪の 愛らしい瞳をしたオーガの娘、ヒナ。

女の子らしくて、ほっとけずに、守ってやりたくなるような女だ。

手に入れた男は隣にいるだけで幸せな気分なるだろう。




「さすがアザミ野の警備隊長ですね」


誰をも魅了するような耀きを内から放ち、花のように可憐なアイリーン。

その実、しっかりと芯があり、決して折れない自分を持つ。

人間らしいしたたかさ、それが彼女の一番の魅力。

かわいいわがままにつきあってやりたくなるだろう。




「子は宝。あやつらは健やかに過ごしておる」


神々しく 気高いたたずまい、存在自体が奇跡のような美しさの狐の姫、ヨーコ。

この女のためなら、、死ねる!

そう、思えてしまえる聖なる女神。

一生のうちに会えることなど叶わないと思われる極上の女。




誰もが羨むようなイイ女が、ハイドンの目の前に三人もいる。

それなのに、こんなハイスペックの女達を差し置いて、イシルが選んだのは――


″ちまっ″


ずんぐり、むっくり。

ちょっとぽちゃっとした 平凡な女 サクラ。


(意外だ、意外すぎる)


サクラはハイドンと目が合うとへらりと笑った。


(……人が良さそうな、、小熊?)


まあ、可愛くなくはない。

女の可愛さというよりアニマル的な可愛さだ。


「あんたが、イシルのとこに?どこで知り合ったんだ?」


「森で迷ってるところを助けてもらったんですよ」


サクラの中でハイドンは既にイイ人認定されてるせいか、人懐っこく話しかけてくる。


(イシルに保護されたのか)


ハイドンの家にも子犬の『パピィ』がいる。

そうだな、パピィが一人で家にいたら心配でたまらない。

すぐにとんで帰る。

娘の次に愛しいパピィ。


イシルもそうなのだろう。


「国はどこだ?サクラ」


ハイドンに聞かれて、サクラが一瞬戸惑った。


「えっと、、『ジパング』って国でして(←急遽作った)」


「ジパング?聞いたことないな」


「ちっちゃな島国デスカラ……」


サクラの声が小さくなってゆく。

何か、あるのか?


「なぜ森で迷っていた」


「それは……」

「詮索はよせ」


ハイドンに聞かれてサクラの困った様子にヨーコがサクラを背に庇い、前に出てハイドンを見据えた。


「イシルの後ろ楯があるのだ、イシルの事を知っておるなら身上調査は必要なかろう、無礼じゃ」


見つめられているだけなのに ハイドン背中が凍るのを感じた。


(こいつは……)


ヨーコは只者ではない。

これに逆らってはイカン、というか、逆らえない。

ハイドンはあっさりと非を認め、謝罪した。


「いや、すまん、疑ってるわけではなく、職業病だ。悪かった」


本当はただの興味本意だ。

しかし、逆に気になるな。

どこから来たか聞いただけでそんなに警戒するとは……


ヨーコがサクラを庇った事で、このサクラという女には何か、ある。と、ハイドンは確信した。

ハイドンの直感がそう告げている。


(追々わかるだろう)


ハイドンは詮索を切り上げて 話を本題に戻し、ヨーコに話を振ることにする。


「で?ニュクテレテウスの親玉を知ってるって?」


ハイドンに改まって話を振られ、ヨーコはそれに答える。


「妾の馴染みじゃ。名は″狸妓リコ″と申す。話をさせてほしい」


「話すも何も姿を見せんのだ。まずは親玉、その狸妓リコとやらをあぶり出さん事にはどうにもならん」


「問題ない。妾が見つける」


ヨーコは空を見つめ、探るように思考を集中させると、狸妓リコの居場所をさぐった。


「先程は北じゃったが、今は東に移動したな」


しかし、北からも東からも親玉発見の『赤』の発煙筒は上がっていない。

狸妓リコは姿を見せずに暗躍してまわっているようだ。


「話して通じる相手なのか?」


「話してみんとわからぬ。何に腹を立てておるのやら」


「封印した魔法使いに怒ってるんだろう」


ヨーコがハイドンと交渉していると、北側でしゅるると発煙筒が上がった。

さっきまで狸妓リコがいた場所、その煙の色は『青』と『緑』

バトルと回復の要請。


「バトルA班、回復A班、出動だ!」


ハイドンがすぐさま指示を飛ばし、サイラスが転移の準備を始め、あたりが慌ただしくなる。


「ハイドン殿」


「なんだ、ヨーコ、後にしてくれ」


仕事だ。

ヨーコに畏れ多いなどと言ってられない。

仲間の命がかかっている。


「妾が送ってやろう。サイラス殿は今後のために魔力を温存するがよい。それと――」


ヨーコはヒナをずいっと前に出す。


「ヒナを遣わそう」


「は?」


ハイドンは一瞬何を言われたかわからず、思考が停止した。

前に出されたヒナが ちょと恥ずかしそうにしている。


「ヒナは回復魔法を使える」


「いや、危ないだろう!」


こんなか弱くおとなしそうな娘を戦地に送れるわけがない。


「問題ない。こう見えても鬼の子じゃ。今は優秀な従魔もついておる」


「いや、しかし、、」


ヨーコはそう言うと、ハイドンの返事も聞かずに、集めた隊員たちとヒナをまとめて、一瞬で北の戦地へと送ってしまった。


(あの人数を詠唱もナシに一瞬で移動するとは……)


なんて力だ。


「妾は狸妓リコの元にゆく。ハイドン殿、サクラとアイリーンを頼み申した」


有無を言わさぬヨーコの提案。

頼むと言いながら提案じゃなく脅しに近い。


「勝手にしろ。だが、こちらの作戦に変更はない。ここに狸妓リコが現れたら 予定どうり討伐にかかるからな」


「あいわかった」


ハイドンに返事をすると、ヨーコは狸妓リコがいるであろう東へと飛び立った。




























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