528話 女子旅 part2 ⑫ (ニュクテレテウス討伐隊)




アイリーンが話してくれた アザミ野に伝わる昔話。

三枚のお札にヘンゼルとグレーテルがまざり、助けた猫が宝物を持っておしかけてきましたよ?

最後のは鶴の恩返しか?


サクラは突っ込まずにはいられなかった。


「アイリーン、脚色してるよね?」


「伝承民話なんてそんなもんでしょ、話す人によって尾ひれ背ひれがつくものよ」


そりゃそうだ。

母が話してくれた桃太郎は犬と猿と雉ではなく、犬と猫とニワトリだったし(←身近な動物)

猿カニ合戦ではカニが悪者だった(←本当の話を知ってびっくりした)




「その物語のヤマンバが、封印された古狸、、今回の親玉ってわけね」


アイリーンが話を昔話の前に戻した。


「でも、その封印されたヤマンバ、、狸は 人の幸せを願うようになったから封印がとかれたんじゃないのですか?」


「だったら今討伐されるような悪さはしていないでしょ、ヒナ」


アイリーンがヒナの質問に当然と返す。

しかし、ヒナは何かひっかかるようだ。


「何か理由があるんじゃないでしょうか。ニュクテレテウスは普段は害のない魔物なんです。オーガの村にもたまにきますが、愛らしいのですよ?出来れば傷つけることなくヌシ様を説得できればよいのですが……」


「それは難しいなぁ、討伐隊は既に動き出しているしね」


何気に一緒に物語を聞いていたサイラスが口を挟んできた。


「そっかあ、、って、サイラスさんはいいの?こんなところで話しに加わってて」


アイリーンがサイラスに突っ込みを入れる。

討伐は?いいの?


「うん?おじさんはこう見えて結構偉いんだよ」


まだおじさんって歳じゃないでしょ、サイラスさん。

いや、アイリーンや、ヒナから見たらおじさんか?

ラルゴさんと同じくらいに見えますが。


「それに、俺は今待機中なんだ。今回の討伐は大がかりでね、この山の三方向、ここを北とするならば東西南から機動チームが山に入り、ニュクテレテウスを討伐しながら、北のこの場所へ逃げて来るように仕向けてるんだよ」


追いこみ漁ですね?


バトルの応援が欲しい時は青の発煙筒が

負傷者が多くて回復役が欲しい時は緑の発煙筒が

ニュクテレテウスの親玉が現れたら赤の発煙筒があがる。

サイラスはここにいて、状況によって空間魔法で援軍を送るのだという。


「ニュクテレテウスって、強いの?」


普段は害がないらしいが、闘ったら強いのかと思い、サクラが聞くと、サイラスはいいやと答えた。


「強くはないが、厄介なんだ。からさ。身内に化ける、物に化ける、他の魔物に化ける、そして、親玉、ニュクテレテウスのヌシは 相手を事が出来るんだ」


そうなると 何が何だかわからなくなる。

仲間だと思ったらタヌキだったり、

木の枝だと思ったら大蛇だったり、

地属性の魔物だと思っていたらいきなり火を吹いて火属性の魔物だったり、、


「そのヌシとらや――」


ずっと聞きながら何やら考え込んでいたヨーコが口を開いた。


「妾は知っておるかもしれん」


なんですって?ヨーコさん。


「妾が説得を試みよう、何処におるのじゃ」


「それが、神出鬼没でね、現れたら発煙筒が上がるはずだが、まだ動きがないんだよ」


「ふむ、では探ってみるかの」


「出来るのか!?」


ヨーコは神経を集中させる。


「おった。やっぱり狸妓リコじゃな。今は北のほうにる。姿は隠しておるようじゃがな」


「ちょっと待って、今アザミ野の警備隊の隊長に話をつけるから、一緒に来てくれる?」


こうして サクラ、アイリーン、ヒナ、ヨーコは サイラスについて 野営している焚き火のところまで アザミ野の警備隊長に会いに行った。





◇◆◇◆◇





肉付きのいいがっしりとした体躯に緑の警備服をきっちりと着て、短く刈り込んだ髪、整えられたヒゲ。

厳しく、頑固そうな男臭い風貌の、正に『軍人』を絵に描いたようなアザミ野の警備隊長 ハイドン・ウォーカー。


「ハイドン、ちょっといいか」


青の警備服に 人の良さそうな爽やかな風貌、数少ない空間魔法を使える、カトレアの警備分隊隊長のサイラスが声をかけてきた。


サイラスは4人の女を連れていた。


ハイドンは瞬時に洞察力を働かせる。


旅行者か?

旅行者ならばアザミ野とカトレアで足止めを食っているはずだ。

もしかして、森を通ってきた?

だとすると 相当旅慣れしているだろうが、そんな風には見えない。


4人のうち二人はどう見ても普通の町娘の格好だし、筋肉のつき方も普通だ。

山越えの脚力はなさそうで、あれでは山は歩けない。

魔力もそんなに高くないようだ。


あとの二人、オーガ族の女と、キツネ耳の女は冒険者風。

オーガの小娘はなかなかの魔力を持っているし、キツネ耳の女は只ならぬ気を発している。


(この二人がいるから森を抜けられたんだな)


「何処から来た」


「ドワーフの村です」


ピンクの髪をした 女が答える。

かなり目を引く容姿をしているな。

周りの男共がソワソワしている。


「ドワーフの村?イシルんとこか」


ピンクの髪をした女は 少し小首をかしげて微笑んだ。


「イシルさんをご存知なんですね」


ハイドンは ドキリとする。


こいつは、、危ない。

自分が異性にどういう風に見えるか知っている。

魅了のスキルを使っているわけでもないのに誘われる。

小鹿のような可憐な風貌の下にオオカミが潜んでいやがる。

危険だが、かなり魅力的だ。

人を引きつける力がある。

男ならいい指揮官になれただろう


(イシルがオレの誘いを断って急いで帰ったのは この女のためか?)


この女の魅力にはまっている、とか?

イシルがこの女の本性を見抜けないとは思えない。

が、わからなくもない。


「もしかして、ハイドンさんですか?」


ピンクの髪をした女の後ろから ひょっこり もう一人の女が声をかけてきた。

若いような、若くないような、年齢不詳の 平凡な女。


「ああ、そうだが、何故俺の名を――」


女はオレの名を確認すると、ぱあっ、と 笑顔になった。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


ペコペコと頭を下げる。


「盗賊団、退治してくれたんですよね?ありがとうございます!ありがとうございます!!」


……てことは、、


「イシルさんが帰って来てすぐに話してくれました」


この女が、、イシルの想い人?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る