527話 女子旅 part2 ⑪ (魔法使いと弟子と……サクラの場合/イシルの場合)
【side:サクラ】
ヤマンバを
「さて、サクラさん」
「……はい」
「結局なんの収穫もなく、ヤマンバも退治できずに終わりましたね?」
イシルが止めるのも聞かずに山へ山菜採りに出た弟子サクラ。
大出を振って出掛けたにも関わらずこの体たらく。
「……はい」
お説教タイムか?
「向いてないんじゃないですか?魔法使い」
ストレートなイシルの言葉。
面目ない。
「そうかもしれません」
否定は出来ない。
向いていないのかも。
「食いっぱぐれないための選択だったのでしょう?魔法使い」
「はい。でも、でも――」
お菓子の家を作るという目標が出来たばかりだ。
これから頑張るさ!
そう伝えようとしたところでイシルから出た言葉は――
「職種を変えてみませんか?」
んがっΣ( ̄□ ̄;)
お説教どころかクビ勧告!?
「僕がサクラさんにぴったりな就職口を紹介しますけど、いかがですか?」
優しいイシルさんと美味しいご飯に のほほんと甘え続けた結果だ。
(私がいるからイシルさんが心に決めた
落ちこぼれな上に邪魔者ナマケモノ。
「ですよね、イシルさんの邪魔をしても申し訳ないですから、そうします」
失恋と失業のダブルパンチ!!
泣くな!己の実力不足だ。
陰ながらイシルの幸せを願おうぞ。
お菓子の家は作れないから、水飴の木を趣味で作って、イシルとイシルの想い人、二人の門出に贈ればいい。
「お世話になりました。次の働き口は何処でしょう」
ちょっぴり涙目、じんわりかすむイシルの姿。
「どこって、ここですよ」
「は?」
はて?空元気を見せるサクラに、イシルは両手を広げてみせている。
「永久就職です」
え?え?
「僕のところにお嫁に来なさい」
えええっ!!?
「三食、昼寝、添い寝つきです」
「そ///それは、、」
何だ添い寝って!!
「毎晩厚待遇ですよ?」
毎晩!!?
「いや、あの///だって、、」
狼狽えるサクラにイシルの強制がかかる。
「おいで、サクラ。僕のところに」
頭の中大パニック!
しかし、心はイシルに引き寄せられて、体は自然とイシルへと向かい、サクラはふらふらと手を伸ばす。
が――
″ガシッ″
腰をがっちりホールドされて、前に進めない。
(へっ?)
「みーつけた♪」
この声は――
「ラン!?」
はぐれたランがサクラを探してやってきた。
「誰ですか?」
イシルがランを見てサクラに質問してきた。
笑顔だが、これは、、
(ご立腹!!!)
サクラにはわかる。
笑顔のポーカーフェイスの裏に黒いオーラが見えますよ!!
「この人はお菓子の家から一緒逃げてきましてですね、、」
「何だ、サクラ、耳の傷消えてるじゃん、通りでサクラの匂いを辿りにくいハズだ」
サクラとランの返事がかぶる。
「耳の傷?」
うわーん!私の言葉じゃなくランの言葉に食いついた!!
◇
【side:イシル】
耳の傷って、さっき僕が治癒したヤツですよね?
噛まれた?この男に!?
「別の場所にも
他にも、傷が!?
「サクラさん何処を噛まれたんですか!?治療しますから見せて――」
サクラはイシルの言葉にローブのあわせをきゅっとつかみ、顔を赤くして身を隠した。
何ですか!?
何処ですか!?
何処を噛まれたんですか!?
僕に見せられない場所ですか!!?
「ほら、サクラ」
ランはイシルをシカトして、背負いかごをサクラの前にドスンとおろす。
「あっ!これ、、持ってきてくれたの!?」
「約束だからな。大変だったんだぜ?かごの蓋を押さえて泳ぐの。おかげでお前とはぐれるしよ」
それはサクラが収穫した山の幸。
かごの中の山菜は蓋をしていたおかげで無事である。
「ありがとう!ありがとう、ラン!!」
キラキラと屈託なく輝く笑顔をランに向けるサクラ。
ランは満更でもなさそうな顔でそれを受け止めている。
なかよしですね、お二人さん。
死線を共にしたからですか?
そのドキドキは錯覚ですよ、サクラさんっっ!!
「イシルさん、見てください!大成功でしょ!!」
ええ、そうですね、そうですが、僕のプロポーズどこ行った?
食べ物の前では霞みますか?
食べ物くれる人=イイ人ではありませんよ!?
サクラはかごの中を見て、更に目を輝かせた。
中には栗や松茸、アケビにまざって、一冊の本が入っていたのだ。
「ラン、これは――」
ヤマンバの記したお菓子の家の秘密のつまったあの本だ。
「もしかして、ランがお菓子の家に戻ったのって、これを取りに?」
「お前、読みたがってたから」
「ラン……」
じんわり、サクラが感激の顔をランに向ける。
今にも抱きつきそうで、見ていられずにイシルが口を挟む。
「サクラさ――」
「この野郎のためだろ?一旦逃げたのに、お菓子の家に籠を取りに戻ったのって」
え?
(僕のために、一度逃げたヤマンバの家に戻ったの?)
「ふ~ん、コイツがねぇ……」
ランがちょっと面白くなさそうな顔でイシルを見つめている。
「この本があればお菓子の家が作れますよ!イシルさん!だから、だから私にもう一度弟子にして下さい!!」
えっと、、それは僕はフラれたってことですか?サクラさん?
「私と一緒にお菓子の家に住みましょう///」
逆プロポーズ!?
「サクラさん///」
「あ、オレも住む」
いい雰囲気のサクラとイシルの間に割り込む猫耳ラン。
「君、部外者でしょう」
「何だよ、本持ってきたのオレだぜ?」
イシルがランを追い出しにかかる。
「作るのは僕とサクラさんです」
「味見してやるよ」
「いりません」
「うわっ、心狭っ!」
折角の新婚生活(?)邪魔されてなるものか。
「ヤマンバを退治したのは僕です」
「ああ、ヤマンバ、そいつ、何だったんだ?」
するりするり。
猫のようにしなかやに会話の矛先をかわすラン。
「何って、タヌキですよ」
「「タヌキ~?」」
イシルの答えにサクラとランの声がハモった。
「おかしいとは思っていたんですよ。人を喰らうと言う割には行方不明者は出ておらず、山に行った者も朝になると帰ってくる。話を聞いても良く覚えておらず、狐にでもつままれたかという顔をしていました。実際、精気を吸われていましたしね」
イシルは説明を続ける。
「今日、ヤマンバの術を見てハッキリしました。葉を頭に乗せて術を使うのは古狸です。長き年を生きたニュクテレテウスが魔力を蓄え、悪さをしていたのですよ。イタズラして脅かした拍子に精気を食べるのですね」
「タヌキだったんだ……」
サクラはヤマンバの入った甕を見つめる。
「おばあさん、、その狸はずっと甕の中ですか?」
ちょっと可哀想になったサクラがイシルに尋ねると、イシルは 心配いりません、と 答えた。
「反省して人の幸せを願うようになれば封印は自然と解かれますよ」
「そっか」
ほっこり笑顔のサクラを見てイシルもほっこり。
「サクラさん、お腹空いたでしょう?お昼も食べてませんよね?何か作りましょう」
「オレ、肉がいい」
ランがよいしょと籠を持ち、率先して家へと歩いて行く。
「とりあえず栗茹でようぜ、栗!あー、腹減った」
「……すみません、イシルさん」
「……いえ」
どこまでも俺様マイペースな猫耳ラン。
サクラはきっと振り回されたに違いない。
(追い払うよりも近くで見張る方が安全か?)
こうして三人のおかしな生活がはじまりましたとさ。
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