526話 女子旅 part2 ⑩ (赤の玉)




ヤマンバから逃げる魔法使いの弟子サクラと猫耳ラン。

師匠イシルから貰った三つの玉は 残すところあとひとつ。


青の玉によって作り出された大河は かき氷となり、ヤマンバの腹に収まってしまった。


「待ぁ~てぇ~!!」


待ちませんよ、当たり前。

再びヤマンバがサクラ達の背後に迫った。

サクラは赤の玉を握りしめる。


(緑は木霊こだま、青は水だったから、赤は多分、火だよね)


サクラは赤の玉に魔力をこめる。


(お願い、山は焼かないで)


大量の焼き栗、焼き芋、焼きキノコ、それは大変魅力的だが、山火事は勘弁です。


サクラは祈りをこめて 赤の玉をヤマンバへと投げた。


″ゴオォッ!!″


赤の玉はサクラの願いを聞き入れ、炎の龍となりて、ヤマンバへと纏わりつく。


「うぎゃあぁぁ!!」


豪火の渦にまかれ悲鳴をあげるヤマンバ。しかし――


″ブシュウゥゥ――″


ヤマンバは先程飲み込んだ大量の水を大放出!!


「げっ!」

「マジかっ!!」


炎の龍はヤマンバの吐き出す水に消火され、しゅうしゅうと蒸気をあげて小さくなってゆく。


苺の赤、オレンジの橙、レモンの黄、メロンの緑、ブルーハワイの青、葡萄の紫、藍は、、何味?


七色のシロップは、川となり、サクラ達を巻き込み押し流す。


「ひやっ!」

「うわああっ!」


かき氷シロップって、色が違うだけで全部同じ味だって、知ってました?


サクラとランは、流れに乗って、そのまま山の麓へと押し流された。


(逃げられた!ラッキー♪)


思いもよらずヤマンバから逃れられたサクラ。

ランともはぐれ、二人に食べられずに済み、いそいそと イシルの待つ森の家へと向かう。


しかし、何か忘れている。


「ああっ!山菜のかご!!」


山菜の入ったガゴは、サクラのかわりにランが背負ってくれていた。

ランともはぐれたサクラは、おみやげの山の幸もランと一緒にサヨウナラしてしまった。







こちらは森のお家で、帰りの遅い弟子サクラを待っている魔法使いイシル。


玄関口で 山の様子を伺いながらサクラを出迎え中。

山の中で火の手が上がったかと思ったら、七色の滝が流れ落ちた。


(サクラさん……)


これも修行のうち、とは思っていたが、心配でたまらない過保護な師匠。


山に迎えに行こうと、玄関から前庭へ歩きだしたところで、入り口にサクラの姿が見えた。


「サクラさん!」


「イシルさんん~っ」


イシルを見つけてサクラがほっとしたような顔になり、駆けよって来る。


(あ、可愛い///)


不安だったのだろう、いつも甘えてこないサクラの、少しすがるような表情が、たまらなく愛おしい。


こんな顔を見れるならたまには旅に出すのもいいのかもしれない(←たかが半日)

サクラが自分を必要としていることが実感できるのだから。


「こんなに濡れて、風邪をひきますよ」


イシルは亜空間ボックスからタオルを取り出すと、わしゃわしゃとサクラをふいてやる。


え?魔法で乾かした方が早いだろうって?

それだとサクラと触れ合えない(←わざと)


「あれ?サクラさん、耳、どうしたんですか?虫にでも噛まれました?」


イシルはサクラの髪をふいてやっている最中に、耳に小さな傷があるのを見つけた。


「これは、その……」


サクラはごにょごにょと言いにくそうにしている。


(ドヤ顔してでかけたのに失敗したから言いにくいのかな?)


虫って言えば虫ですね。

ランに噛まれた跡だから。

悪い虫です。

そりゃあサクラも言いにくかろう、イケメンの猫耳男に噛まれたなんて。


イシルはサクラの耳に触れると、こすっ、と指をすり合わせ 治癒の魔法をかけた。


「んっ///」


サクラがくすぐったがって首をすくめる。


(うん、可愛い///)


え?触れなくても治癒できるんじゃないかって?

当然です。大魔法使いですから。

でもそれだとサクラの可愛い反応は見られない(←やっぱりわざと)


イシルはサクラ耳の曲線をたどり、ぷにぷにと耳たぶを弄ぶ。


「イシルさん///もう、、」


早くもサクラがギブアップして、真っ赤な顔をして離れた。

残念。


「どうでした?山は」


「はいっ、まさに宝の山でした!紅葉は綺麗だし、凄い、味覚の宝庫でしたよ~アケビにヤマブドウ、アシタバ、ムカゴに栗――」


「ムカゴ、いいですね」


「それに、松茸です!」


「それは凄い」


「でも、はぐれちゃいました」


「はぐれる?落としたとかではなくですか?」


「はい。松茸を採りながら山の奥へ入っていったらですね、お菓子の家があったんですよ!」


サクラがキラキラと目を輝かせイシルに説明する。

魔法使いのおばあさんに会って、お菓子の家の作り方を教えてもらうべく、お手伝いをして、その秘密を知ったことを。


「でも、そのおばあさん、実は――」


″サァ~クゥ~ラァ~!!″


「きゃうっ!?」


サクラがイシルに経緯を話していると、サクラを呼ぶ声がして、サクラが慌ててイシルのローブの中にもぐり込んだ。


「ちょ、、サクラさん!?」


サクラが隠れてすぐあとに、その者が姿を現す。

髪を振り乱し、耳まで裂けた口、怒りを顕にしたその顔は――


「ヤマンバだったというわけですね」


イシルのローブの中に隠れたサクラがコクコクと頷いた。





ヤマンバはキョロキョロと辺りを見回しながらイシルの所までやって来ると、凄みを利かせ、横柄に口を開いた。


「ここに小娘が来ただろう!」


その声に ローブの中のサクラが きゅっとイシルにしがみつく。


「いいえ、誰も来ませんでしたよ」


「嘘をつくな!お前はサクラの師であろうが!」


「確かに僕はサクラさんの師ではありますが、サクラさんはまだ帰ってきていません」


平然と返すイシルに、ヤマンバはイシルの腹を指差す。


「ほう、ではその腹は何だ?子を宿しているわけでもあるまいし、何故そんなに膨らんでいるのだ?」


きゅっ、サクラが強くイシルにしがみつく。

後ろに隠れればよかったと反省するサクラ。


「これは単なる中年太りですよ。エールを飲みすぎているせいか、メタボ気味でしてね」


(イシルさん、それは苦しい言い訳ですよ……)


「……そうか、それは失礼した」


(信じた!!イシルさんごめんなさい、変なウソをつかせてしまって、、)


人の気にしているところを指摘しちゃいかんな、うん、と、なにやら反省しているヤマンバ。


「ところでお前、何故にそんなに顔が赤い?」


「え?」


この質問に イシルが少し狼狽える。


わしがそんなに魅力的かい?」


「いや、これは///」


イシルの顔が赤いのは 先程からサクラが柔らかい体を押しつけ、きゅうきゅうと抱きついてくるからだ。

自らスキンシップしてくることのないサクラのレアな行動!

抱きしめ返したいのにするわけにもいかず歯がゆい。

早くヤマンバを追い払ってイチャイチャしたいイシルさん。


「ウブじゃな、これならどうじゃ?」


ヤマンバは頭に一枚葉を乗せると、どろん と 姿を変える。


サクラがローブの隙間からこっそり覗くと、、


(!?)


それは 若く美しい姿をした、一糸纏わぬ女だった。


わしとランデブー、する?」


「結構です。服を着てください」


「遠慮せんでもよいのだぞ?」


ふふん、と 腰をくねらせ 女豹のポーズで迫る美女ヤマンバ!


「すみません、貴女は大変魅力的ですが、僕には心に決めたひとがいますので」


んがっ!Σ( ̄□ ̄;)心に決めたひと!?


ヤマンバがショックを受けた。

ローブの中でサクラもショックを受けた。


(何でちょっと僕から離れるんですかサクラさん!?貴女の事ですよ!?)←サクラには聞こえない。


美女ヤマンバは イシルに服を着ろと言われていそいそと服を着る(←案外素直)


「ところで、貴女は術使いが素晴らしいですね、何にでも姿を変えられるんですか?」


「そうさ!なんだって出来る!」


「ですが、さすがに大きくなったりは出来ないですよねぇ」


「そんなことはない!」


イシルの誉め言葉に気を良くしたヤマンバは、イシルの目の前で山のように大きくなってみせた。


『ど~うじゃ~、凄いだろう~』


森に響くヤマンバの大声が頭の上から降ってくる。

巨人美女ヤマンバ。

踏まれたら痛そうだ。


「大変素晴らしいです。ですが、大きくなる術よりも小さくなる術の方が難しいと言います。さすがにそれは無理ですよね?」


「造作ないわ!!」


ヤマンバはイシルの言葉に 得意気になって、小さく、小さくなっていく。


「どうだ!凄いだろう!」


子供サイズまで小さくなったヤマンバは ドヤ顔で胸を張ってみせた。


「それが限界ですか?」


「なんの!」


調子にのって、更に小さく。

手のひらサイズになって――


「まだまだ!」


頼みもしないのに、親指サイズに。


「凄いですね、大変可愛らしいです」


イシルは極上の笑みを浮かべ、ヤマンバを手のひらに乗せる。


「まだ///イケるぞ?豆粒くらいにだってなれる!」


「いえ、もう結構です」


イシルは亜空間ボックスからかめを取り出すと、、


″ポイっ″


小さくなったヤマンバを入れて蓋をし、封印の護符を張った。


『あ″――――っ!!!』





意外とノリの良かったヤマンバ。

何だか憎みきれないヤマンバである。























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