女子旅 part2 ⑨ (青の玉)




ランと二手に別れる事に成功したサクラは、山を降りながらはたと考える。


(イシルさんの松茸……)


籠いっぱいに採った木の実、山菜、茸達。

アレをお菓子の家に置いてきてしまった。


ヤマンバからもランからも逃げられて、気持ちに少し余裕ができたサクラは、気が大きくなっている。


(取りに行っちゃおっかな)


ヤマンバはサクラとランを追ってきているハズだから、今、お菓子の家は誰もいないハズだ。


それに、師匠イシルに貰った魔法の玉はまだ2つ残っている。

ヤバくなったら使えばいい←こらこら。


(闇が降りてしまう前ならイケる!)


サクラは食欲に負け、夕陽の沈む薄闇の中、お菓子の家に取って返した。







(あった!)


山の幸の入った背負い籠は お菓子の家のキッチンにおろしたままの状態で置いてあった。


サクラはプレッツェルの窓枠の窓を開け、中へと忍び込み、籠を背負う。


(あとは山を降りるだけ♪)


再び窓に飛びつき、いそいそと帰ろうとしたところで、玄関の方から慌ただしい音が聞こえた。


(やべっ!)


足音がキッチンへと向かってくる。

サクラは背負い籠を窓の外に置き、自身は棚の影に身を潜める。


サクラが隠れるのと同時に キッチンの扉が開いて、ヤマンバが入ってきた。


ヤマンバは一人ではなかった。


「放せ!クソババァ!」


(えっ!ラン!?)


ランはお縄を頂戴し、ヤマンバに引きずられるようにして連れてこられ、キッチンの中へと転がされた。


「ノコノコ戻ってくるとは、よっぽどこの家が気に入ったんだねぇ」


「そんなんじゃねぇ!」


「まあいいさ、わしゃ腹ペコなんだよ。もう少し肥らせてからと思ったが、仕方ない、柔らかく煮て喰ってやる」


ヤマンバはランを柱にくくりつけると、竈に薪をくべ、大鍋をのせ、湯を沸かしはじめた。


(どうしよう、助けなきゃ、、ランが食べられちゃう!)


鍋を用意するヤマンバに気づかれないように、サクラはランに合図を送る。


(サクラ!)


(しっ!)


(何やってんだ、サクラ)


(ちょと、忘れ物、、)


(オレが隙を作るから、何とかしろ)


(わかった)


アイコンタクトで意思を伝え合うサクラとラン。




ふつふつ、ふつふつ、


湯の中では玉ねぎとマッシュルームがくるくると踊る。


「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ ″ムシャムシャムシャ″」


ヤマンバが歌う呪文にランが返す。


「まだ煮えねぇ。それくらいならオレにとっては水遊びとかわらねぇ熱さだな」


「そうかい?そうさね、、まだ煮えない」


ヤマンバが納得し、歌いながら 鍋にハーブを入れていく。


グツグツ、グツグツ、


「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ″ムシャムシャムシャ″」


再びランがヤマンバに返す。


「まだ煮えねぇ。オレには風呂とかわらねぇ熱さだな」


「そうかい?もうだいぶ沸いてるようだがね?」


グラグラ、グラグラ、


「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ″ムシャムシャムシャ″」


「ちゃんと覗き込んで良く見てみろよ」


ランの言葉に どれどれ と、ヤマンバが鍋の中を覗き込んだ。


″もう煮えた″


(今だ!!)


サクラは物陰から飛び出すと――


″ド――ン!!″


後からヤマンバに突進した。


「あぢ――――っ!!!」


サクラに追突されて鍋に落ちたヤマンバが 鍋の中であプあプとのたうち回る。


「サクラ!早く!!」


「うん!」


サクラがランの縄を素早く解くと、ランがサクラを窓へと押し上げ、続いてランも飛び出す。


窓の下でもたもたしているサクラ。


「貸せ、サクラ」


窓外に置いておいた籠を背負おうとするサクラに、ランが代わりに背負い籠を背負い、走り出した。


「置いてけって、言わない、の?」


ランの後ろについて走りながらサクラがランに尋ねる。


「サクラはこれを取りに戻ったんだろ」


「うん」


「そのお陰で逃げられたからな、持ってやるよ」


魔法使いの弟子サクラの中で、食べ物を大切にする人=いい人。


「ありがとう、ラン」


満面の笑みで礼を言われたランはちょっぴり頬をそめて ぶっきらぼうに″おう″と返してきた。

照れが隠しきれていなくて可愛い。

属性はツンデレさんですね?


なんだ、いいヤツなんだなとほんわかしたところで、後から怒鳴り声が飛んできた。


「待ぁ~てぇ~!!」


「うわ、もう追って来やがった」

「ひいぃ、、」


待てと言われて待つわけもなく、サクラとランはスピードをあげてヤマンバから逃げる。


「何かねーのか、サクラ!」

「あるよ!」


サクラは 魔法イシルから貰った青い玉を取り出した。


「青い玉さん、お願い!おばあさんの行く手を阻んで!!」


サクラが青い玉に祈りと魔力をこめて放り投げると、青い玉は大きな川となって、サクラとヤマンバの間に、豪々とした流れを作る。


川を渡ろうと、ヤマンバが川に入るが、流れが速くて渡れずにいた。


「なんのこれしき!!」


しかし、ヤマンバは 渡れないとわかるや、その大河を勢い良く飲み始めた。


「えっ!」

「マジかっ!?」


川はみるみるうちにヤマンバの腹の中へ。


「やばっ!凍、結!!」


サクラは慌てて川の水を凍らせる。

川の中に下半身が浸かっているヤマンバは これで身動きがとれないハズだ。


「造作ないわ!!!欠、氷!」


ヤマンバが呪文を唱えると、氷った川が粉々に砕けた。


「舎利別!!」


ヤマンバはそこにさらに呪文を上掛けする。


粉々に欠けた氷に舎利別シロップをかけたら それは――


「うわあ///かき氷!!」


大量のかき氷だ。


「苺、メロン、レモンにオレンジ、ブルーハワイ!!」


サクラの目がキラキラと輝く。

ヤマンバはかき氷を凄い速度で平らげてゆく。


「ううっ、、羨ましい」

「バカ、逃げるぞ!!」


ランは ヤマンバがかき氷を食べているうちにと、かき氷に見惚れるサクラを抱え、連れて逃げた。


「うわーん、かき氷~」







話の途中で アイリーンがサクラに笑いかけた。


「ここまで聞いて、どう?」


「どう?って、かき氷、そんなに一気食べたら コメカミ、キーンってなるよね?」


まったくあんたは、そこ?と、アイリーンが呆れる。


「そうじゃなくて、あんたみたいでしょ?身の危険が迫ってるのにノコノコと食べ物とりに帰ったり、見惚れたりさ」


「そんなこと……」


ないとは言いきれない自分が悲しい。


「それに、、」


「それに?」


「ううん、何でもない」


「?」


(関わった相手を見捨てられないとことかさ。人が良すぎるとこ、そっくりだわ)


アイリーンだけではなく、一緒に聞いていたヒナもヨーコもそう思った。






















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