女子旅 part2 ⑨ (青の玉)
ランと二手に別れる事に成功したサクラは、山を降りながらはたと考える。
(イシルさんの松茸……)
籠いっぱいに採った木の実、山菜、茸達。
アレをお菓子の家に置いてきてしまった。
ヤマンバからもランからも逃げられて、気持ちに少し余裕ができたサクラは、気が大きくなっている。
(取りに行っちゃおっかな)
ヤマンバはサクラとランを追ってきているハズだから、今、お菓子の家は誰もいないハズだ。
それに、師匠イシルに貰った魔法の玉はまだ2つ残っている。
ヤバくなったら使えばいい←こらこら。
(闇が降りてしまう前ならイケる!)
サクラは食欲に負け、夕陽の沈む薄闇の中、お菓子の家に取って返した。
◇
(あった!)
山の幸の入った背負い籠は お菓子の家のキッチンにおろしたままの状態で置いてあった。
サクラはプレッツェルの窓枠の窓を開け、中へと忍び込み、籠を背負う。
(あとは山を降りるだけ♪)
再び窓に飛びつき、いそいそと帰ろうとしたところで、玄関の方から慌ただしい音が聞こえた。
(やべっ!)
足音がキッチンへと向かってくる。
サクラは背負い籠を窓の外に置き、自身は棚の影に身を潜める。
サクラが隠れるのと同時に キッチンの扉が開いて、ヤマンバが入ってきた。
ヤマンバは一人ではなかった。
「放せ!クソババァ!」
(えっ!ラン!?)
ランはお縄を頂戴し、ヤマンバに引きずられるようにして連れてこられ、キッチンの中へと転がされた。
「ノコノコ戻ってくるとは、よっぽどこの家が気に入ったんだねぇ」
「そんなんじゃねぇ!」
「まあいいさ、
ヤマンバはランを柱にくくりつけると、竈に薪をくべ、大鍋をのせ、湯を沸かしはじめた。
(どうしよう、助けなきゃ、、ランが食べられちゃう!)
鍋を用意するヤマンバに気づかれないように、サクラはランに合図を送る。
(サクラ!)
(しっ!)
(何やってんだ、サクラ)
(ちょと、忘れ物、、)
(オレが隙を作るから、何とかしろ)
(わかった)
アイコンタクトで意思を伝え合うサクラとラン。
ふつふつ、ふつふつ、
湯の中では玉ねぎとマッシュルームがくるくると踊る。
「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ ″ムシャムシャムシャ″」
ヤマンバが歌う呪文にランが返す。
「まだ煮えねぇ。それくらいならオレにとっては水遊びとかわらねぇ熱さだな」
「そうかい?そうさね、、まだ煮えない」
ヤマンバが納得し、歌いながら 鍋にハーブを入れていく。
グツグツ、グツグツ、
「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ″ムシャムシャムシャ″」
再びランがヤマンバに返す。
「まだ煮えねぇ。オレには風呂とかわらねぇ熱さだな」
「そうかい?もうだいぶ沸いてるようだがね?」
グラグラ、グラグラ、
「あ~ぶくたった煮え立った~煮えたかどうだか食べてみよ″ムシャムシャムシャ″」
「ちゃんと覗き込んで良く見てみろよ」
ランの言葉に どれどれ と、ヤマンバが鍋の中を覗き込んだ。
″もう煮えた″
(今だ!!)
サクラは物陰から飛び出すと――
″ド――ン!!″
後からヤマンバに突進した。
「あぢ――――っ!!!」
サクラに追突されて鍋に落ちたヤマンバが 鍋の中であプあプとのたうち回る。
「サクラ!早く!!」
「うん!」
サクラがランの縄を素早く解くと、ランがサクラを窓へと押し上げ、続いてランも飛び出す。
窓の下でもたもたしているサクラ。
「貸せ、サクラ」
窓外に置いておいた籠を背負おうとするサクラに、ランが代わりに背負い籠を背負い、走り出した。
「置いてけって、言わない、の?」
ランの後ろについて走りながらサクラがランに尋ねる。
「サクラはこれを取りに戻ったんだろ」
「うん」
「そのお陰で逃げられたからな、持ってやるよ」
魔法使いの弟子サクラの中で、食べ物を大切にする人=いい人。
「ありがとう、ラン」
満面の笑みで礼を言われたランはちょっぴり頬をそめて ぶっきらぼうに″おう″と返してきた。
照れが隠しきれていなくて可愛い。
属性はツンデレさんですね?
なんだ、いいヤツなんだなとほんわかしたところで、後から怒鳴り声が飛んできた。
「待ぁ~てぇ~!!」
「うわ、もう追って来やがった」
「ひいぃ、、」
待てと言われて待つわけもなく、サクラとランはスピードをあげてヤマンバから逃げる。
「何かねーのか、サクラ!」
「あるよ!」
サクラは 魔法イシルから貰った青い玉を取り出した。
「青い玉さん、お願い!おばあさんの行く手を阻んで!!」
サクラが青い玉に祈りと魔力をこめて放り投げると、青い玉は大きな川となって、サクラとヤマンバの間に、豪々とした流れを作る。
川を渡ろうと、ヤマンバが川に入るが、流れが速くて渡れずにいた。
「なんのこれしき!!」
しかし、ヤマンバは 渡れないとわかるや、その大河を勢い良く飲み始めた。
「えっ!」
「マジかっ!?」
川はみるみるうちにヤマンバの腹の中へ。
「やばっ!凍、結!!」
サクラは慌てて川の水を凍らせる。
川の中に下半身が浸かっているヤマンバは これで身動きがとれないハズだ。
「造作ないわ!!!欠、氷!」
ヤマンバが呪文を唱えると、氷った川が粉々に砕けた。
「舎利別!!」
ヤマンバはそこにさらに呪文を上掛けする。
粉々に欠けた氷に
「うわあ///かき氷!!」
大量のかき氷だ。
「苺、メロン、レモンにオレンジ、ブルーハワイ!!」
サクラの目がキラキラと輝く。
ヤマンバはかき氷を凄い速度で平らげてゆく。
「ううっ、、羨ましい」
「バカ、逃げるぞ!!」
ランは ヤマンバがかき氷を食べているうちにと、かき氷に見惚れるサクラを抱え、連れて逃げた。
「うわーん、かき氷~」
◇
話の途中で アイリーンがサクラに笑いかけた。
「ここまで聞いて、どう?」
「どう?って、かき氷、そんなに一気食べたら コメカミ、キーンってなるよね?」
まったくあんたは、そこ?と、アイリーンが呆れる。
「そうじゃなくて、あんたみたいでしょ?身の危険が迫ってるのにノコノコと食べ物とりに帰ったり、見惚れたりさ」
「そんなこと……」
ないとは言いきれない自分が悲しい。
「それに、、」
「それに?」
「ううん、何でもない」
「?」
(関わった相手を見捨てられないとことかさ。人が良すぎるとこ、そっくりだわ)
アイリーンだけではなく、一緒に聞いていたヒナもヨーコもそう思った。
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