509話 雨宿り (イシルの場合)







″サアアァ……″


突然の天気雨に 醤油製造所にいたイシルは 早めに切り上げ、サクラとの待ち合わせの麺工房へと走った。


雲の見えない天気雨だが、自然発生のものじゃない。

妖気を少し含んでいる。


(狐雨だな)


しくしくと悲しげな雨。

迦寓屋かぐやで何かあったのか?


サクラとは迦寓屋かぐやで別れたきりだから 心配だ。


(麺工房にいないようなら迦寓屋かぐやに様子を見に行こう)




麺工房が見えた。

それと同時に イシルは麺工房に走り込むサクラを見つけ、一先ず安心する。


しかし、その格好を見てぎょっとした。


サクラは出掛ける時に着ていたパーカーを着ていなかった。

あれにはイシルが防水の魔法をかけてあったのに……


おかげでサクラは雨に濡れてしまっていて、服が――


「サクラさん!」


イシルはサクラに呼びかけた。

サクラはイシルに声をかけられ、走りながら無邪気に笑顔を見せる。

可愛い///が、今はそれどころではない。


「中に入らないで!!」


「ほえ?」


イシルに言われて、何で?という顔をするサクラは既に麺工房の入り口、開け放たれた扉に入るところ――


イシルは上着を脱ぐと、一足飛びにサクラの元へと飛び、上着でサクラを包み込んだ。


「うひゃあ///」


サクラの体をそのまま抱えて ヨーコの回廊がある竹に囲まれた社へと連れ去る。


「ん?」

「何だ?」


作業をしていたオーガの職人達が振り向いた時には そこに 二人の姿はなかった。




「何でパーカー着てないんですかっ!」


迦寓屋かぐやで脱いで忘れてきちゃったんですよ」


イシルの腕の中で サクラがたははと笑う。


「これくらい、どうってことないですよ、すぐ乾きます」


(わかってない。わかってないよ、サクラさん!!服、透けてます///)


サクラの肩から胸にかけて 衣服が肌に張りつき服が透け、下着の線が見えてしまっている。


雨で外に人はいなかったし、間一髪、イシルが隠したので 麺工房の男達にも見られなかった。


良かった。

間に合って良かった(T_T)


社につくと、イシルはサクラをおろし、自分のシャツを亜空間ボックスから出すと 着替えるようにとサクラに差し出した。


「服を乾かしますから、着替えて下さい。僕のですみませんが」


「いえ、これくらい大丈夫です」


サクラが遠慮する。


自分の状態をわかってませんね、僕に襲われたいんですか?

それならそれで嬉しいけど、ここじゃ駄目です。

ヨーコに丸見え。


「着替えてくれないと僕の理性が持ちません」


「え?」


「その、、服が――」


透けている。


「あっ///」


イシルの言わんとするところをようやく理解したサクラは イシルから着替えを受け取った。



サクラの濡れた服を 魔法で作った熱球に入れて乾かす間に(←ドライ中) イシルはサクラの髪も乾かす。


丈も袖もブカブカ、なのに胴まわりはぴったりで複雑な顔のサクラ。


(ヤバい、これはこれでそそられる……)


サクラはイシルのシャツだけを着るのを恥ずかしがって、その上からイシルの上着をも羽織っているのだけど、自分の衣服だけに身を包まれている彼女というものは良いものだなと思う。

萌え袖、萌え丈、サクラが自分のものになった気になる。


(余計ムラムラしてきた)


「――で、白狐達にパンにバターとあんこをぬって オヤツを作ったんです」


イシルの別のムラムラも知らずに、イシルに髪を乾かしてもらいながら サクラは楽しそうにイシルに話しかける。


「……食べたい」


「じゃ、今度作りますね」


食べたいのはパンじゃないですサクラさん。

ここがヨーコの領域でなければ押し倒していただいてます。


「48匹分、一人じゃ大変だから ラプラスにも手伝わせてやりましたよ」


ちょっぴりドヤ顔のサクラ。

かわいい。

かわいいけれど、これじゃあ父親に髪を乾かしてもらいながら 今日の出来事を話している娘状態だ。


「――で、アイリーンが次の休みの日に、ヒナと三人で カトレアの町に買い物に行こうって話になって、行っても良いですか?」


アイリーンが一緒で買い物だけで済むとは思えない。


「……ええ」


誰もいない 薄暗い社に二人きり――

静かな雨が降っていて――

笹に当たる雨はしっとりと美しく、日に輝く雨粒は幻想的な雰囲気を作り出してくれている。


彼女は自分の衣服に包まれていて、自分のもののよう。

なのに、ロマンチックな方向に傾く気配はない。


サクラの気持ちはわかっているが、不安になる。

僕、異性として見られてる?

最近は手を繋ぐのも慣れてきた。

隣にいるのも当たり前になってきた。

それはそれで嬉しい、でも、確かめたくなる。


イシルはサクラの髪を乾かしながら――


″ツイッ″


そっとサクラの首筋を撫でた。

ぴくり、と サクラが反応し、首をすくめる。

サクラが無言になり、警戒しはじめた。


(もっと、警戒して――)


イシルはそのまま サクラの耳を 指先で つうっ、と撫でると、指で挟み、こすっと擦り合わせる。


「ちょ///イシルさん」


耳の貌をたどりながらサクラの反応を楽しむ。


(もっと、異性として意識して――)


「やっ///」


自分の手に反応するサクラをもっと見たくて 更に顎へと指の甲を滑らせ、肌を撫で、サクラの唇を撫でて、下唇をぷにっとつまんだ。


「っ///」


唇を弄ぶように撫でる。

指先から快感を産むように、少し焦らすように……


(ちゃんと、僕を男として見て――)


ようやく危険を察知し、立ち上がろうとするサクラをイシルは後ろからとらえて、そのうなじに唇を落とした。


″ちゅ″


「ひっ///」


サクラの肌が唇に吸い付く感触だけを楽しみ、すぐに離す。


じたばたするサクラを抱え込み、もう一度、同じ場所に唇を落とした。

今度は舌を密着させ、吸い上げる。


″ちゅう″


「やめ///」


ぴくりとサクラが身を固くする。


大丈夫、サクラさんは僕が好き。

嫌がっていても助けランを喚ぶことをしないから。


「カトレア、行っても良いですよ」


イシルはサクラの手に自分の手を絡ませ、握ると、さらにサクラの肌を湿らせて唇と舌を密着させ、うなじに痕が残るよう、しっとりと柔らかい肌を強く吸い上げた。


″ちゅうぅ――″


「イシルさんっっ///」


イシルの手を握るサクラの手に力が入る。

きゅっと身を縮め、キスに耐え、震える姿がかわいい。

その耳に イシルは唇をよせて、ちゅっ、と キスをひとつすると、甘く囁く。


「予約更新しました。カトレア行っても良いですが、″恋愛するなら僕と″という約束、忘れないで下さいね」


「はひ///」


イシルはサクラのうなじの赤い痕キスマークに 満足げに微笑むと、空を指差した。


「サクラさん、見てください、虹が出てますよ♪」


イシルの腕の中で恥ずかしさに耐え 真っ赤になっているサクラはそれどころではない。


心臓ばくばく、イシルの事で頭いっぱい。

″ふしゅう~″とイシルの胸に見事に撃沈。


ようやくロマンチックな空気が出来て サクラを胸に、満足したイシルさんでした。











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