506話 白狐と牙吉(サキチ)
ヨーコの温泉宿『
かぐや姫の如く美しいヨーコを女将に、
番頭職をこなす三匹の
その下に見た目~小中学生くらいの48匹の
しかし、宿の運営はおキツネ様達だけでは成り立たない。
キツネ様の常識は 人の世においては非常識だからだ。
そのため、村から オーガ族の者が ヨーコの回廊を通じて、
特に 料理に関しては 狐達ではどうにもならないから――
「
「あずき、煮えた!」
「もういいんじゃない?」
「匂いも、いいんじゃない?」
沸々と煮える鍋を覗き込む4匹の白狐達が 料理番のサキチに呼びかけた。
尻尾をパタパタ、耳をピンとたて、好奇心いっぱいに嬉しそうで、大変愛くるしい。
「……」
だがサキチはそれを無視して 別の鍋を無言でかき回している。
「味見が必要じゃない?」
「舐めてみていい?」
「オレが食べてみてやろうか?」
「お茶碗によそっていい?」
「……」
四匹の白狐のつぶらな瞳攻撃にもめけずに、サキチはやっぱり、ひたすらに目の前の鍋をかき回す。
白狐達は反応しないサキチに、あずきの鍋から離れて、今度はサキチがかき回す鍋の中を覗き込んだ。
「何を炊いてるの?」
「それも甘いのか?」
「サキチ?」
「ねぇ、サキチ?」
サキチは しつこく呼びかけてくる白狐達の声に、鍋を混ぜる手を休めないまま ようやく口を開いた。
「……白狐様方」
「「なーに?サキチ??」」
「鍋に
サキチの言葉に 白狐達が じゅるりと手で口元を拭う。
鍋から離れる様子はない。
サキチはそんな四匹の白狐の名前を呼び、洗い物の鍋を指差しながら冷たくいい放つ。
「
″おキツネ様″なので、一応 ″様″ づけで。
「これはお客様にお出しするものですから あなた様方のはありません」
それでもやっぱり離れない。
「ヨーコ様に言いつけますよ」
「「はーい」」
サキチの ″ヨーコ様″ の言葉に ようやく白狐達が離れた。
四匹の白狐達は 黒くなった鍋のコゲをゴシゴシ擦る。
五ェ門風呂かと思うほどの釜をガシガシ洗う。
修行だから、妖術は使ってはイケマセン。
ヨーコの温泉宿『
そこに サクラがやってきた。
「こんにちは、
「ああ、サクラ、いらっしゃい」
「なに作ってるんですか?」
サクラはサキチがかき混ぜる鍋をひょっこり覗き込んだ。
その様子に 四匹の白狐達の手が止まり、またもや、じゅるり。
鍋の中には粘りけのあるマッシュポテトのようなものが入っていた。
「そばの粉を練ってるんだよ」
「ソバがきですね」
そばがきは、そば粉に水を加えて練り混ぜ、塊にしたそばの団子のことだ。
細長く切らずに 塊を食べることで、ソバ本来の味を感じることが出来る。
作り方は簡単で、そばの粉と水を1:1の分量で鍋に入れ、強火にかけながら、焦がさないようにひたすら木ベラで練り上げる。
餅状になったら 暖かいうちに形を整えて、出来上がり。
簡単だけど、徐々に粘りけが出て重たくなってくるから、かなり体力がいりますよ。
木ベラを持ち、鍋の中のそば粉をかき回すサキチの腕の逞しいこと!!
「何か手伝いましょうか?」
「じゃあ、餡ができあがってるから、塩をつまみ入れて火を止めて冷ましてくれ」
「わかりました」
サクラは サキチの指示通り、塩をふたつまみ程入れ、かき混ぜると、アンコの鍋を火からおろし、魔法を使って冷ましてゆく。
冷めてくると、ゆるゆるだった餡が もったりと固まってきた。
サキチはその間に、練り上げたソバがきを 暖かいうちに丸めてゆく。
「サキチさん、あんこ冷めましたよ」
「じゃあ、この上に乗せてくれ」
「はい」
サクラは子供の拳の大きさに丸められたソバがきの上に あんこをぼってりとのせ、くるんでゆく。
見た目はおはぎだ。
出来上がったソバがき団子を 半分に割ると、もっちりとしているのがわかる。
硬めが好きなら、丸めた後に茹で固めるといい。
もしくは、小さく丸めて油で揚げ、揚げ団子にしても美味しいですよ。
上にかけるものもアンコではなく、黒蜜や砂糖、きな粉もいいですね。
蕎麦つゆや醤油をかけて 酒のつまみ、具沢山汁物なんてのもありです。
「サクラ、味見してくれ」
サキチが出来上がったそばがきをサクラに差し出した。
″ジーっ″
四匹の白狐の視線がサクラに刺さる。
″じゅるるる……″
折角洗った鍋達が 白狐のヨダレでベタベタに。
「ダメだ、サクラ」
「えっ?」
「白狐様達を甘やかしてはダメだ」
サクラの行動をサキチに読まれた。
「この四方にひと口づつあげれば、他の四十四方の白狐様にもあげなくてはならなくなる。かまわず味見してくれ」
「そう、ですか?」
チラリと四匹の白狐を見るサクラ。
″きゅ~ん″
″くぅ~ん″
″スンスン″
″ウキュウ″
スイレン、ヨイ、シノブ、ヨシムの四匹の白狐が、サクラを見つめて切なく鼻を鳴らしている。
(た、、食べづらい……)
サクラはいたたまれなくなり、何か無いかと厨房内をぐるりと見回した。
「あんこは沢山あるんですよね?」
「ああ。だが団子はお客様のものしかない」
「アレなら良いですか?」
サクラが見つけたのは 籠にこんもり積まれている、朝食のあまりの丸いパン。
「パン粉にでもしようと思っていたヤツだからいいが、どうするんだ?」
「はい、あんこをはさんで、白狐達のオヤツにしてはどうかと……」
サクラの提案に 白狐達が懇願する瞳でサキチを見つめた。
(((食べたい!食べたい!サキチ!お願い!!)))
目が、、そう訴えている。
サキチは はぁ、と ため息をつくと、結局、折れた。
「まあ、良いだろう」
「やったー!」
「サキチ!大好き♪」
「好き好き♪」
「サキチ~」
「オヤツ!!」
「おやつか!?」
「オヤツなのか!?」
「どれ、我も……」
サキチを囲み、周りで小躍りする白狐達。
なんか、増えてる。
聞き耳たててたな?
「てか、、なんでいるの?ラプラス」
「ん?」
10匹程に増えた白狐達の中に、一匹 古竜が混ざっていた。
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