496話 想い出がいっぱい







サクラはイシルに誘われてリビングへとついて行く。

見合い写真は 不用意な場所には置けず、捨てるわけにもいかないから持ったままで。

二人がけソファーに座ったイシルは、自分の隣にサクラを座らせ、アルバムを開いた。


「これ、サクラさんですか?」


「……はい」


生まれて間もないのサクラの写真。


「可愛いですね」


いや、どう見たってサルですよ?


「ちっちゃい」


赤ちゃんサクラを見るイシルの顔が綻んでいる。

もふもふを見る時と同じ顔してますよ。


「私、生まれた時は未熟児で、1980gしかなかったんですよ」


保育器の中に入っていました。

今は巨大になりましたが。


「なんか、母が階段からぴょん、と下りたら、するっ、と」


二ヶ月も早く生まれてしまった。


「父が母を乳母車に乗せて 病院まで走ったそうです」


「微笑ましいですね」


微笑ましいですか?

本人達は必死ですが、はたから見たらコントです。


「産んでくれた母上に感謝ですね。こうして サクラさんに会えたのだから」


「///はい」


それを言うなら イシルさんのお母さんにも感謝です。

こうしてイシルさんに会えたのだから。


「この方が、父上と母上ですか?」


「そうです」


イシルは感慨深そうに写真を眺める。


「サクラさんはお父上に似てますね」


「そうですか?」


ちょっと嬉しい。

父はもういないけれど、母も私の中に父を見るという。


「はい。だからサクラさんは可愛いんですね、女の子は父親に似ると可愛くなるといいます」


「そう///いいますよね」


なんだ、大分恥ずかしいぞ、これ。


サクラが恥ずかしさに耐えているのを イシルは楽しそうにながめながら、アルバムのページをめくる。


「あはは、これ、凄いですね、顔真っ白ですよ、サクラさん」


「一歳の誕生日に、ケーキに顔突っ込んだんだそうです」


「昔から食いしん坊だったんですね」


ケーキを覗き込んで テーブルについた手を滑らせ、バランスを崩して、、べっちゃり。

生まれたときからそそっかしい。


「これは?」


イシルがその下の写真を指し示して、不思議そうな顔をした。


「何故、トイレと一緒の写真なんです?」


うっ、、変な写真ばっかりだな。


「それは、、水洗トイレの水が流れるのを面白がって トイレから離れなかったと……」


水洗トイレのレバーを押せと泣いたとか(←固くて自分じゃ押せない)

因みにこの時代、レバーがハンドルのように横についてる和式水洗トイレです。

洋式便座つきとかではありません。


「好奇心旺盛ですね」


動物的なだけですよ。

風呂場で滴る水滴を眺める猫とかわりません。


「こっちの男の子は?」


「弟です。あと、弟の下に妹がいます」


「サクラさんは長女なんですね」


イシルがアルバムのページをめくる。

幼少期をすぎ、おかっぱ頭の小学生時代。


「髪は今みたいに癖毛じゃないんですね」


「その頃はまだ真っ直ぐだったんですよ、髪も、性格も」


「サクラさんは今も性格は真っ直ぐだと思います」


「そうですかぁ~?」


「僕が保証しますよ」


今も子供ってことですね?


「変わってませんね、サクラさんは」


「この頃はまだ標準サイズでしたけどね」


運動会や遠足の様子を眺めて、次のページへ。

小学生時代を終え、中学生に。

このころから、むくむく、ぷくぷく、むちむちに。


「可愛いい」


「///」


「この制服姿、可愛いですね」


あ、制服ね。


「そうですか、イシルさんはセーラー服が好きですか」


「制服を着てるサクラさんがですよ」


「うっ///誉めちぎってもなにも出ませんよ?」


「やだなぁ、本心なのに。いつもそうやってかわすんだから、サクラさんは」


あんたが″可愛い″を連呼しまくるからでしょうが!!

恥ずかしすぎて こそばゆくて 受け止められん!!


「ところで――」


イシルが卒業式の写真のページで手を止め、一枚の写真を指差した。


「この男の子は 誰ですか?」


「へ?」


サクラはイシルの質問の意図がわからず、ぽかんとした顔で聞き直す。


「この男の子、何で一人なの?サクラさんいないのに、何でこの男の子の写真が必要なの?弟さんじゃないですよね、この子。何か特別な理由でも?」


イシルが笑顔で質問をまくしたてる。

あれ?なんか、責められてる?私。


「何でって、あの、、」


サクラが言いよどむと、イシルは前のページに戻り、別の写真を指差した。


「サクラさん、この写真も、この写真も、それから、コレも、、この男の子の近くにいる時 いつもと違う顔してますが、どういうことですか?」


うわっ!そんなとこ見てたんですか、イシルさん。

目ざとい!素晴らしい観察眼。


「え~っと///」


「……初恋、ですか?」


うわあ!!


「違います!違いますよ///初恋はもっと前で、これは違います!」←墓穴


「……」


ああ!寒い、極寒です!!

凍てつく空気が刺さります。

大雪!吹雪!超不機嫌!(←でも笑顔)


「片思いでしたし!昔のはなしですよぅ///」


「ふ~ん……」


笑顔が怖いですイシルさん!


「ユーリに、、似てますね」


うわあ、やめて~///

確かに、似てるっ!!


「気のせいですよ!!」


サクラは雪崩が起きそうになるのを回避するため、さっさと次のページへと移る。


高校生になったサクラ。

高校はセーラー服ではなくブレザーです。


「これは、誰ですか?」

「部活の先輩で――」


片思い。


「これは、誰ですか?」

「バイト先の、同僚で――」


片思い。


「これは?」

「遠い親戚の、お兄ちゃんで――」


やっぱり、片思い。


何故かサクラの片思いの相手を次々と当てていくイシルさん。

もう、やめて~///


サクラはアルバムに飛びついて、おしまい、と、アルバムを閉じた。

その拍子に サクラが手元に置いておいた見合い写真がコトンと落ちて開く。


「「あ」」


イシルはサクラが拾うよりも先に それを手にした。


「……」

「……」


イシルはまじまじと、三冊とも見合い写真を開いて中を見る。


「これは、何ですか?サクラさん」


笑顔、こわっ!!


逃げ腰になるサクラ。

そんなサクラをイシルは逃がさない。


イシルの長い足がサクラを捉えた。


(足!?)


「どこ行くんですか?」


(蟹挟み!?)


イシルの脚に サクラは足をがっつり挟み込まれて、動いたら転ぶ!逃げられない!


「イシルさん、どこでそんな技を」


「シズエに柔術を教わりました」


いろんな事やってますねシズエ殿。

柔道で蟹挟みは禁じ手です。


「で?これは、何?」


話しも反らせず


「それは、、母が送ってきた、、ゴニョゴニョ……」


「え?何ですか?聞こえませんが?」


「だから、母が薦めてきた、みぁぃしゃしんで……」


「見合い、ねぇ……」


あ、聞き取られちゃった。

耳、いいすね、イシルさん。


「で?どの人を選ぶんですか?」


「いや、どれも選びませんよ!?見たことも会ったこともない知らない人だし、合うつもりもないですし!!母が勝手に送りつけてきただけで、私は無実です!!」


「そうですか」


「そうですよ~困りものですよ、まったく、あはははは……」


イシルはパタンと見合い写真を閉じる。


「では、この写真はいりませんね」


「え?」


サクラが答える間もなく、見合い写真が″ボッ″と 火を吹いた。


如月+初恋+(片思い×複数)+見合い=イシル崩壊→大雪崩。


(ひいぃぃっ!!)


おののくサクラにイシルが意味ありげな視線をなげてよこした。


「僕の得意技、なんだと思います?」


柔道で?何だろう?


「え、と、、一本背負い?」


イシルは蟹挟みで捕らえたサクラを自分の方に引き寄せると――


「うひゃあ///」


倒れこんできたサクラをくるんとひっくり返し、ソファーの上に抑え込んだ。


「寝技です」


うわあ///ギブギブ、ギブです、イシルさん!!!





◇◆◇◆◇





アスはご当地キャラ作りのために ローズの街を初めとする各国の自分の領地を飛び回り、久しぶりにラ・マリエへと帰って来た。


一緒についてきて 遊び回っていた狐姫のヨーコと古竜ラプラスは自分の領地へと帰っていった。


ラプラスはウサギのぬいぐるみのジョーカーを気に入って連れ帰ろうとしたが、イシルからジョーカーを託されたのはアスだ。

アスはジョーカーの持つ本に用がある。


「お帰りなさいませ お館様」


ラ・マリエの魔方陣の部屋の扉を出ると、老紳士風執事に扮した悪魔マルクスが出迎えてくれた。


「このコをぽよんちゃんのとこに連れてってくれる?このコの持ってる本がもう一冊欲しいのよ」


「畏まりました」


ジョーカーの持つ本『冒険の書――ωσи∂єяℓαи∂――』は 今は使われていない古い文字で書かれている。

イシルはそれを翻訳し、出版しろと言っていた。


原本を書き換えるわけにはいかないから、アスの獣魔、スライムのぽよんちゃんに原本を飲み込ませ、ぽよんちゃんの分裂能力で 複製をこしらえ、複製の文字を書き換えた上で 再びぽよんちゃんに飲み込ませ、大量生産しようと言うわけだ。


アスはジョーカーをマルクスに託し、執務室へと向かう。

その背にマルクスが声をかけた。


「お館様、お客様がおみえです」


「ん~、わかってる」


「失礼いたしました」


帰って来た時から気づいていた。

ここはアスの領域だ。




アスは客人の待つ執務室への扉を開けると、にこやかに客人に声をかける。


「アンタが来てくれるなんて、珍しいわね」


客人はアスの顔を見ると、げんなりした顔を見せた。


(ああ、ゾクゾクする、その、イヤそうな顔///)


スモーキーで、奥深い香りが立ちこめる。

アスはペロリと舌を出し、唇を舐めると、艶やかな笑顔を客人に向けた。


燃えるような赤い髪に 射るように鋭いアイスブルーの瞳。

逞しい、男のからだ


「アタシに頼み事かしら?オオカミさん♪」





アスが″オオカミさん″と称する相手――


ドワーフの村の警備隊隊長、ギルロスが 窓辺に立っていた。


























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