495話 母からの宅配便
「イシルさん、夜飲むなら にごり酒保冷庫で冷やしておいた方がいいと思うんですが」
「わかりました、リュックの中ですね?」
イシルは亜空間ボックスから サクラのリュックを取り出して渡す。
サクラはリュックからにごり酒を取り出すと 保冷庫へとしまった。
「この箱の荷物はどうしますか?」
おっと、忘れていたよ 母からの宅配便。
開けるのがちょっぴり恐ろしいパンドラの箱。
「何が入ってるんだ?」
ランも何ソレと寄ってくる。
「なんか、、賑やかな箱だな」
箱は普通の段ボール。
しかし、まわりに絵が書いてある。
絵といっても、蜜柑箱の蜜柑の絵でも、黒い猫の宅配やさんの車の絵でも、飛脚の業者さんの青いロゴでも、ラク○ン通販のパンダさんの絵でもありません。
母の直筆イラスト&メッセージが 箱の表に書いてあるのだ。
マジックで直に書かれた花束の絵。
そして″元気にしてる?″″お母さんは元気″″この間カラオケで100点とった″等々、近況報告が箱の表に書かれている。
(恥ずかしいな、もう)
荷物を預ける宅配屋さんや、仕分けする人、配達のお兄さんからマンションの管理人さんにも見られるのに。
(せめて箱の内側に書いてくれよ)
一番困るのが最後の文字。
″誰かいい人いないの~?″
(うぐっ、、)
メッセージはいつもこれで締められている。
頼む、諦めてくれ。
母は私に結婚してほしいわけではない。
ただ、そういう相手がいたほうが 人生が楽しく、豊かになるから、と。
「サクラの世界の文字だろ?何て書いてあるんだ」
ランが興味津々に聞いて来た。
「家族から。『元気にしてる?』ってメッセージだよ」
サクラがランの質問にさらりと返す。
良かったよ、現世の文字で。
「それよりラン、今日仕事じゃないの?時間は?」
「中見てから行くよ」
サクラはランに早くと急かされ、ガムテープをピーッとはがして、段ボールの箱を開けた。
発酵臭、なし。
茄子の漬物爆弾は入っていないようだ。
「おっ!おやつ発見♪」
ランは段ボールの中に入っていたお菓子を ヒョイヒョイっと奪った。
チーズ味のカリカリコーンスナックと、ベビースター柿ピー入り。
「あっ、コラ!」
「どうせサクラは食えねーだろ、協力してやるよ」
「ちょっとなら食べられるんだけど?」
「その悪魔の誘惑をオレが取っ払ってやるんだよ。ハルの分も貰うからな」
もうひとつひょいっと取る。
甘しょっぱくて、かる~い口当たりの丸く大きなエビみりん焼き煎餅(←パッケージのエビの絵に釣られたラン)
あれの上にマヨネーズを塗ったくって、七味をがっつりかけて食べるのが好きなのにぃ~
「ハルくんは休暇でいないでしょ!」
「やべ、遅刻する!行ってきまーす」
ラン、逃げた。
「もう、村の子供たちや白狐達にあげようと思ったのに」
まだ他にも大袋チョコレートやクッキーのアソート袋とかも入ってる。
上京してからいつも、母は荷物の隙間にこうしてお菓子を入れてくる。
東京でも買えるんだからと思っていたけど、ありがたい。
異世界にはないものだ。
『とんこつラーメン″う○かっちゃん″』
これも、東京で買える。
だけどサクラが好きだからと入れてくれる袋ラーメン。
「これはまたカップ麺とは違うんですね」
「ええ、これは生麺と同じく茹でます。でも生麺より日持ちする、即席麺です」
「お昼に食べますか?」
うまかラーメンう○かっちゃんの炭水化物量は57.4g
これはごはん茶碗一杯分に相当する。
この間ハーフリングの村で食べた糖質オフのカップラーメンが特別なだけで、基本糖質が高い。
しかし、九州っ子のソウルフードう○かっちゃん。
食べたい。
「野菜をたっぷりいれて、僕と半分ずつならどうですか?」
キャベツととんこつって、合うよね。
少し歯応えを残したキャベツは甘みがあって最高です!
豚肉とキャベツを炒めたものをラーメンの上に乗っけてもいい。
「そうですね、半分なら」
サクラは更に箱の中を漁る。
薄口醤油に顆粒アゴだし、めんつゆにソーメン(←特産物)。
どれも、サクラの田舎の味。
(お母さん……)
目許がうるうるしてきた。
東京よりも さらに離れた異世界で、サクラはしみじみと、母のありがたさがわかった。
イシルは嬉しそうに調味料の蓋をあけ、匂いを確認し、少しなめてみてはふむふむ、と 感心して、ほくほくと嬉しそうに棚へと並べていく。
母を思うサクラの様子を そっと見守りながら。
「これは、味噌ですね」
「私の田舎では麦味噌なんですが、今住んでいる所の主流じゃないから送ってくれたんだと思います」
「甘くて良い香りですね」
「イシルさんも好きですよね、麦味噌」
異世界に米はないから麦味噌か豆味噌しかないんだけどね。
しかも、味噌なんてイシル意外は作らない。
ラーメンを作るようになってからオーガの村でも最近になって作り始めたくらいだ。
サクラにとってはありがたい。
そして、母よ、何じゃこりゃ?
サクラは新聞紙にくるまっているものを取り出した。
新聞紙にはマジックで『これでといてね(ハート)』と記されている。
サクラは新聞紙を剥き剥きする。
出てきたのは、、味噌こし?
麦味噌は 他の味噌に比べて
うちでは味噌をこした後のつぶつぶは捨てていたけど、つぶつぶの正体は麦だ。
栄養価、特に食物繊維が多いから イシルはつぶして つぶつぶ麦も全部使っている(←魔法って便利)
しかし、この味噌こし、、
「でかっ!」
これ、味噌こしじなゃないよね!?
ここまで大きいと、これはもう、、
「これ、『てぼ』だよ。お母さん……」
持ち手のついた湯切りザル。
ラーメン、チャッチャ、お湯を切る――
「あ!」
「どうかしましたか、サクラさん」
「イシルさん、オーがの村ではラーメンの麺茹でた後、竹のザルとかパスタトング使ってましたよね?」
「はい」
「コレ!」
「これ?このザルが何か?」
「コレ、取っ手がついている上に、
『てぼ』だよ、『てぼ』!何でもっと早く教えてあげなかったんだ、このバカちんが!
美味しさも、仕事の効率も全然良いのに!
「それは便利ですね、早速明日 シャナに持っていってあげましょう。使い勝手が良ければ、モルガンにも相談して、作ってもらいましょうか」
「はい!」
お母さん!ありがとう!
母は偉大なり!
「サクラさん、底に本のようなものが入ってますね」
「え?何ですか?」
イシルが段ボールから 薄い本、というか、台紙のようなものを取り出した。
「これ、本ですか?薄いですけど」
「本?何で本なんか、、わあっ!!」
サクラはあわててイシルからそれを奪い取る。
これはどう見ても見合い写真!
くそう!なんてブツを仕込んでやがるんだ母上よ、行動が読めなさすぎる!
しかも、三冊!
「こっちのはずいぶん分厚いですね」
まだ他にも!?
サクラがドキリと箱の中を見ると、それは見合い写真ではなく、アルバムのようだった。
「多分家族写真ですね」
「写真?あの、姿をそのまま写したような絵ですよね、現世の雑誌とかに載ってる」
「はい」
「シズエも奥方の写真を持っていました。中を見ても良いですか?」
家族写真、ちょっと恥ずかしいけど、いいかな。
「どうぞ」
「ではリビングで 一緒に見ましょうよ」
サクラはイシルに誘われてリビングへ。
見合い写真は 不用意な場所には置けず、燃やすのもなんだから持ったままで、サクラは二人がけソファーに座るイシルの隣に、座った。
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