203話 牛丼







思ったよりも時間がかかってしまった。

話を聞いてくれるのが嬉しかったのか、和小物屋の店員 如月は話しに熱が入り、押しに弱いサクラは中々切り上げることが出来なかったのだ。


イシルに買った練り香水『月』にメッセージカードをサービスされ、書くのにまた悩み、どうせイシルは読めないんだけどと思いながらも、悩んで書き込んでやっとでてきた。


くそう、如月め、予定がまだあるのに、これじゃあイシルさんを待たせてしまうではないかっっ!


でも、いいお店だった。

和の小物がアスに好評だったらまた来よう。

如月なら色々相談に乗ってくれそうだ。

本当に和ものが好きな人なんだなと思った。


さて、時間もないが腹は減った。

現世に来たら「米」解禁。

寿司、ラーメンと来たら次は何だ?


「定食とか食べたいけど、時間ないから、丼ものかな?」


ラーメンが駄目だったら丼をオーガの村に推そうと思っていたしね。

視察(?)という名の名目で、サクラは上手い!安い!早い!牛丼チェーン店に入った。


自動ドアを入ると入店を知らせる音楽。

甘い牛丼の匂いがする。

う~ん、これこれ。


入り口そばに券売機。

お久し振りです、券売機。


昨今の牛丼チェーンはメニューが豊富。

牛丼の他にも豚丼、カレー丼、うな丼は当たり前で、中華丼、とりそぼろ丼、鉄火丼、まぐろたたき丼なんかもある。


牛丼も、チーズ入り、ネギ入り、キムチ入り、納豆、おろしポン酢、ハーブ入り、高菜明太入り、オム玉入りと、数限りない。


「やっぱりこれかな」


サクラは『牛丼並み』『生卵』を押す。

冒険はしない。今日は普通に牛丼が食べたいのだ。

『生卵』か『温泉卵』かで迷うとこだが、久しぶりの『米』を感じたいので『生卵』にした。


席に着き、カウンターに食券を置くとすぐに牛丼が出てきた。

急いで牛をかき分け、ご飯の真ん中をあけ、生卵を入れ、かき混ぜる。

上の牛丼は混ぜ混まないようにのご飯を『卵かけご飯』状態にするのだ。

熱々のうちに混ぜることで卵が蒸らされ、米の一粒ずつに卵が絡み、黄金色の米になる。


牛丼の上には七味をかけて、薄切りの牛肉を引き出すと、ご飯をくるりとまいて口に入れた。


「あむっ、もぐっ」


牛肉まき卵かけご飯……

牛肉の甘いたれが卵かけご飯にまざり絶妙な旨さ!


「ん~」


まったりと舌に絡みつく卵と米の粘り。

噛むとふわんと甘味が鼻に抜ける。


ずっと口に入れていたいけど、体のほうが吸収したがっているのか、すべやかな卵のせいなのか、喉が勝手にごくりと飲み込んだ。

くぅーっ、やっぱり美味しい!!


「はぐっ、もぐっ」


止まらない。

この牛肉の薄さがいい!

玉ねぎの甘さがいい!

なんて七味の合う味なんだ!!

白米の食感もたまらないいっ!


半分ほど食べたところで、サクラは備え付けの紅生姜に手を伸ばすと、牛丼に足し、見た目はよろしくないが、全てを混ぜ混んだ。

そして、大きく一口かきこむ。


「あぐっ、、」


噛むと牛丼とあわさった紅生姜からシャキッと歯応えと香りがして、生姜独特の風味が立つ。

さっぱりするから とか、臭みを消すから とか、そんなものではない。

単純に美味しいのだ。

全てが合わさって、ただただ美味しいのだ。


「はぐっ、はぐっ、」


これをゆっくり食べろと言うのは無理である。

牛丼の魔力に引き込まれ、一心不乱に食べ尽くす。

正に、魅惑の食べ物……

ああ、白米の誘惑、暗黒面に堕ちてゆく~~!!


「シアワセ///」


あっという間に食べ終わり、サクラは牛丼チェーン店を後にした。


昼飯を手早く済ませ、時間の巻き返しをはかったが、もう店を何軒も回っている暇はないだろう。

サクラは薬局近くまでもどりながら、ドラッグストアーで春に向けての口紅の新色を購入すると、ネットカフェで手作りラーメンの情報を入手し、大型スーパーへと入った。

ラーメンだけは何としても手に入れなければ!


スーパーも凄いね。

袋ラーメン、カップラーメン、乾麺の他に、生麺と別売りスープがおいてある。

生麺を持ち帰って、シャナに試食してもらい、作ってもらおう。


日本の中華麺は独特である。

日本の麺には「かんすい」が使われついるのだ。

この「かんすい」が、日本の中華麺の独特の色、におい、コシをつくりだしているらしい。


「かんすい」はモンゴルで偶然、鹹水(塩湖のアルカリ塩水)を使った製麺技法が発見され、麺類の伝播とともに日本にも広がったらしが、本場中国で「かんすい」はあまりつかわれていない。


これは塩化ナトリウムなどの塩分を含んだ水、つまり海水や塩湖の水のことだから、異世界にもかんすいはあるかもしれない。


「″かんすい″なんかスーパーに売ってないだろうなぁ」


重曹でも代用可能とは書いてあったけど、通販で買うしかないかな……


だがしかし、このスーパーにはあった。のだ。

ありがとう!ありがとう!!ありがとうぅ!!!


「かんすい」をゲットし、スープと麺のコーナーへ。

さて、スープは何にするかな。


スタンダードな「しょうゆ」「みそ」は、あのドワーフ村の地域にはない。

イシルが自分のために作っているだけなので、商用にはむかないし、一から作るとなると大変だ。

だとすると、「塩」か「とんこつ」

鳥骨で塩ラーメン、豚骨でとんこつラーメン


「牛骨でコムタンスープもありか」


試食用にコムタンの素も買う。

鍋用の希釈するタイプのものね。


「うわあ、もうこんな時間だ!」


いつもなら薬局にいる時間。

シズエ殿のドーナツを買っている暇はない!

ここのスーパーで全てを買わなくては!


困ったときのお土産は、お菓子のバラエティーパックだ。

外国のお菓子なんか、ちょっと人にあげるのに可愛いよね。

本当はばらして可愛い小袋に色々入れ混ぜてラッピングして渡したいけど、今日はごめんなさい。

サクラはお菓子をカゴに入れる。

あとは、お酒!

ああ、スーパー様々、なんでもあるね!

困った時は人気No.1を買うに限る。

香り豊かなブランデー、みなさんご存知V.S.◯.P.!伏せ字のようで伏せてない!?

あとは、あとは、ランのおやつ『ぢゅ~る』だ。

忘れるとウルサイからね。


あと……


さっき、牛丼屋さんで食べたかったものがある。

それは『納豆』


「嫌がるかな……」


独特すぎて外国人は食べられない人が多い食べ物。

食べたいので、自分用に1パック三個入りを買う。


「あ!忘れるところだった!」


お好み焼きのソースだ!あと、も!


キッチンコーナーでコテを買い、食器のコーナーでラーメン丼と、丼用の大きな塗り椀もあったのでそれも買う。


サクラはバタバタと運動会の借り物競争のごとき状態でカートを走らせ買い物、会計を済ませ、シズエ殿御用達のファンシーなショッピングカートを引き、薬局へ薬をもらいに行き、いつもより一時間押しでイシルの待つ異世界へと帰っていった。



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