202話 アスの課題





病院に行くのは二週間に一度、月に二回。

そのうち一回は薬をもらい、診察。

後半の二回目が血液検査だ。

今日は薬をもらうだけ。

血圧をはかり、脈をはかり、体調はどうかの問診。


体重 76.8kg→76.3kg

1月末の検査結果から二週間でマイナス500g

夜あまり食べなかったんだから もっと減ってて欲しかったが、そうはいかなかった。


それでもはじめからすれば80kg→76.3kg

マイナス3.7kg!よくやったよ、自分を褒めてつかわすぞ!


サクラは医者に胃もたれの相談はしなかった。

折角夜食べずに済んでいるのだ。

このまま夜をヨーグルトや豆乳ですませておけば、次回はがっつり体重も減るかもしれない、このまま行こう!


こうしてサクラは 医者との謁見を終え、現世の町を買い物へと繰り出して行った。


さて、先ずはアスのお題『大人っぽい』アイテムだ。

漠然としすぎだろう、コノヤロウ!大人っぽいってなんだ、

先ずはそこから説明してくれ。


何かヒントはないかと、サクラはすれ違う大人っぽいお姉さんを観察しながら駅ビルへと向かう。


町中を風をきって颯爽と歩く綺麗なお姉さん。

あの人がしているのは――


「スカーフ……」


スタイリッシュに首にしゅるりとまくスカーフ


「首の太い私には向かないか……あ!あの人大人っぽいな」


持つ手を美しく見せてくれるタイトなクラッチバッグをもっている。


「パーティーには違うな。しかも、あのお姉さんの腕が細いからカッコいいんだ」


サクラが持ったら集金中の業者のようにみえるだろう。

やれやれ。


細いチェーンの腕時計、アンクレット、チョーカー……どれもぽっちゃりサクラには似合う気がしない。


「……メガネ?」


キリリと細身のメガネで知的美人を押してみる?

もしくはミステリアスなサングラス……


ああ、わからん!!

もう、適当に色んなの買って アスに選んでもらおうか。


「あ!」


サクラは一件の店に目を止めた。


「和小物屋さんだ」


店先に おはじきのようなピアスがキラキラ並んでいた


「キレイ……」


店の中に入る。

パーティーの時、和風の小物をつけている人はいなかった。

これなら目新しくていいかもしれない。


扇子、指輪、イヤリング、巾着、手拭い、櫛等々。

その中でサクラが手にしたもの、それは――


″かんざし″


家紋や名前の頭文字、草花などの模様をモチーフにしていたり、可愛い毬のような和柄の玉がついているものも。

布を折り込み花の形に整えた大ぶりのものから小さな石をはめ込んだ短目のものまで色々ある。


今は和風なものだけでなく、洋装にも会うようなかんざしが沢山あり、これならドレスにも似合うはずだ。

種類、いっぱいあるなぁ……

一本軸のかんざしなら使い方を知っているんだけど、他のはどう挿すんだろう?


二本軸、平打、櫛形、二本繋がって二連になっているもの、む~ん……


「かんざしをお探しですか?」


サクラがかんざしを凝視してたら、店員さんに声をかけられた。

和装の似合う甚平姿のお兄さん。


「よければお手伝いしましょうか?」


「いや、あの、、」


店員さんに声をかけられるのは苦手だ。

買わなくてはいけない気になってしまう。

ましてやこんなちょいイケメン、腰が引ける。

いつもなら声をかけられた時点で退散するのだが、今日は聞かねばなるまい、お仕事だ。


「私髪短いけど挿せますか?」


お兄さんは笑顔で答える。


「よろしければ挿してみますか?」


「いいんですか?」


「是非」


「……お願いします」


「では、こちらへ」


どうやらお兄さんは 自分でもかんざしを作るようで、細かく教えてくれた。


チリカン、ビラカン、ビラビラカン……


チリカンはチリチリ音がなる簪。

ビラカンはビラ(細長い板状のぶら下がりユラユラと揺れるやつ)がついた簪。

ビラビラカンはビラが沢山ついた華やかなかんざし。


今はバレッタやコームタイプのものも出ているので、短くてもつけられる。


「短い方は一本軸より二本軸のほうがいいですね」


お兄さんは、鏡の前にサクラを横向きに座らせる。


「見えにくいですが」


それでもどうやってるか手順はわかる。

お兄さんは、サクラの髪をハーフアップにし、束ねた髪を上に巻き上げると毛先半分を折り返し、左手で押さえた。

2本かんざしをお団子の右上部分に、右斜めに挿す。

かんざしをたてて、団子を内側にいれるように、挿しこむと、その部分がキレイにまとまった。


「おお!凄い」


「短い方はゴムで髪を止めて、結びを隠すためにかんざしを使うといいですね。あと、ピンタイプのものもありますから、これを……」


お兄さんはキラキラ小さなガラスの花がついたピンを 後れ毛をすくいながら いくつもサクラのお団子に差し込んでいく。

一本のゆらゆらゆれるかんざしの根元に小さな花畑が出来た。


「沢山つけても可愛いです」


「なるほど」


沢山買えと言うことですね?

意外と商売上手だな、お兄さん。


「かんざしの歴史は古くて、縄文時代まで遡るんですよ」


お兄さんは熱く語る。

サクラはロックオンされたようだ。


「縄文時代、先のとがった細い棒には呪力が宿るとされていて、お守りや魔除けとして神事に使われてたんです。髪に細い棒を挿すことによって魔を払うことができると思われていたんですよね」


なんだかこの人、イシルさんに似てるなぁ。

顔じゃなくて、雰囲気というか、しゃべり方というか……


「江戸時代には、芸妓さんの間で「想い人の名前」を密かに彫るのも流行っていたんです。中々ロマンチックではないですか?」


会話のというか、笑顔で問いかけてくれるとことか……


「ステキですね」


イカン、重症だ。

ちょっとはなれただけで他の人にイシルさんを見てしまうとは情けない。


「これ、お兄さんが作ったやつですか?」


如月きさらぎです」


ん?二月?何?


「私、如月といいます」


「あ、すみません。如月さんの作品ですか?」


「はい」


サクラは『大人っぽい』『ドレスに合う』を如月に相談しながら、洋装に合いそうなかんざしをみつくろってもらった。

わからない時はわかる人に聞くのが一番!


「かんざしの使い方図解用紙も入れておきますね」


細やかな気遣いもイシルさん的!


「助かります」


ちょっと如月とも打ち解けてきたので、気になったことを聞いてみた。


「如月さん、お香とか使ってるんですか?」


「ああ、すみません、気になりますか?」


「いえ、柔らかい良い香りなので、何の香りかなと」


「雪の香りですよ」


「ゆきぃ~?」


変なことを言う人だな雪の香りって……


「練り香水です。雪をイメージした香りです」


あ、イメージね。納得。


「香水程きつくないので、首や手首に塗ってるんです。髪に塗る方もいますよ。ハンカチや手紙に塗る方もいます」


『雪』のネーミングもお洒落なら、使いたかも洒落てるなぁ。

香る手紙かぁ……

エスコートカードにつけたらウケるかも!

うん。大人っぽい!!


「それも売ってるんですか?」


「ありますよ、名前では香りがわかりづらいので、そちらもご案内しましょうか?」


「お願いします」


他にお客さんもいないので、如月に甘えることにした。

いや、沢山買ったから カモられてるだけかもしれない。


練り香水は「貝合わせ」のような入れ物に入っていた。

芸子さんが使う「紅」の入れ物を模している。


「これは 持っているだけでも気分が上がるなぁ~」


蓋をあけて、中の練り香水を指先でさわると、固形だった。リップクリームみたいな固さ。メ◯ソレータム


「指の腹でぐりぐりっとしてください、少しで大丈夫ですよ」


指で香り香水の上を撫で、手首につける。

如月がつけていた『雪』は、すっきりとしてるのに、仄かに甘い香りがする。


「効果は3、4時間てところですかね」


雪、しずく、風、シャボン、涙、歌……

どれも香りが想像できない。

逆にこれがウケけてるのかな?


「あ、月がある」


イシルだ。

異世界の言葉で『ランディア』が『放浪者』の意であったように、『イシル』は『月』を表している。


匂いをかいでみると、なんとも形容しがたい 神秘的な香りがした。

かいでいると落ち着く匂い。


「『月』は寝るときにつけて使う方が多いんですよ。リラックス出来る香りです」


癒し効果抜群だなイシルは。


(イシルさんに買っていこう)


「全種類、一つずつと、これ……月だけプレゼント用に包んでもらえますか?」


「承りました」


如月が笑顔で答えた。





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