199話 お好み焼き 3






鬼はサクラの前に仁王立ちになると、ギロリとサクラを見下ろす。

2メートル以上あるよね?


「あんたが サクラか」


「は、はい」


がしっとサクラの両肩を掴むと――――


″ゴッツンッ!!″


「ひっ!」


「頼むっ!!」


サクラに頭を下げ カウンターに思いっきり頭を打ち付けた。


「うちの村も救ってくれ!!」


″ビキビキビキッ″


「ひいぃっ!」


カウンターに亀裂が入るほどに。

訳がわからないし、リズもスノーもアイリーンも怯えている。

人目にもつくので、オズと鬼さんには とりあえずバーガーウルフの休憩所に入ってもらって話を聞く事にした。

休憩していたミディーが、サクラ一人では心配だからと一緒にいてくれている。


「交換条件?」


「ですねん、長芋をハーフリングの村に売るのはかまへんけど、代わりにオーガの村にも何か目玉商品を考えてほしいっちゅう話や」


「誰が?」


「姐さんが」


やっぱり……オズの事だ、どうせ調子良く『わてが頼んだるわ!まかしときー』とか言ったんだろう。


「いや、そんな事急に言われても……」


「そないなこと言わんと、わてと姐さんの仲やないですか~」


どんな仲だよ。


「サクラさん!大丈夫ですか!?」


騒ぎを聞きつけたイシルがバーガーウルフの休憩所に飛び込んで来た。


「あ、はい、私は大丈夫なんですけど、、」


カウンターがね。


「本当に申し訳ない」


オーガの男は 大きな体を小さく縮込めて 面目なさそうにしている。

うん、カウンターの次に椅子が悲鳴をあげそうだよ。


「なんだ、ザガンじゃないか」


「あれ?イシルさん知り合いですか?」


「ええ、オーガの村の族長ですよ」


族長様自らお出ましに!?


「なぁ~、イシルの旦那~、旦那からも姐さんにお願いしてくださいよ~」


オズがすかさずイシルに話をふる。


「旦那さんの言うことなら姐さんも聞いてくれはるやろ~で、オーガの村にも、お好み焼きみたいなエエもん考えてほしいんですわ~たのんます、イシルの旦那~」


うわ、オズはどこを攻略すればいいか的確にわかっている。

イシルさんを味方につける気だ。


「ワシからもたのむよ、イシル殿」


族長様も乗っかった!!


「サクラさん、なんとかなりませんかね」


イシルさん、いつもなら私の味方なのに……


「僕も手伝いますから」


「……考えてみます。少し時間をもらえませんか?明日は、その、ですし」


「ああ、そうでしたね、すみません」





◇◆◇◆◇





サクラはベッドに入りとろとろと微睡みながらオーガの村の目玉商品を考える。


(くそう、オズボーンめ)


ハーフリングの村の時は関西弁だったからすぐにお好み焼きが頭にあがったけど、オーガって、、

アイリーンに連れられてオーガの村に行った時は和風なイメージだったんだよね。

和食といえば、寿司、天ぷら、すき焼き……

寿司は近くに海もないし、寿司を握る技術もない。

天ぷらはドワーフ村のウリのコロッケ、フライものの後だと二番煎じみたいで申し訳ない……

すき焼き、しゃぶしゃぶでおしてみる?


なんか、弱い気がする。

お好み焼きやコロッケみたいなインパクトがないなぁ……

人もガテン系の人が多かった。

あ!すき焼きじゃなく、牛丼とか?

麦飯で丼もの、いけるかも。

お好み焼きと同じくバリエーションがきく。

うん、明日現世に行ったら、何か思いつくだろうか。

現世かぁ、、ラーメン美味しかったな……

ラーメン……


(ラーメン!!)


日本人大好きラーメンがあるじゃないか!

うん、明日現世に行ったらラーメン買ってこよう。

サンプルとして食べてもらって、あとは自分たちで考えてもらおう。

丸投げは御免だ。

スープはいいとして、問題は麺なか……

麺……小麦粉と、なんだっけ、


麺……


麺……


パスタがあるんだから、麺の形には出来るだろうけど、麺……


麺……


麺、、あれ?


サクラは寒さを感じて辺りをみまわした。

見覚えのある風景。

廊下の燭台に灯る ぼんやりとしたオレンジ色の灯りに 冷たい 石畳が照らされている。


そして……鉄格子。


「あの牢獄だ!」


夢の中の、ラプンツェルのいる牢獄。


サクラはラプンツェルの姿を探し、薄暗い石畳の部屋を見回した。

ソファーの上にはいない、ベッドか!?


サクラはベッドを見る。

窓からは満月が覗き、ベッドに眠る男の顔を蒼白く照らしていた。


「あ、ちゃんとベッドで寝てる」


よしよし、いい子だ。


(そうだ、コロッケ!)


サクラは思いだし、手を見ると、ちゃんとドリームキャッチャーを握っていた。


(やったよ~イシルさん、成功デスよ~)


サクラはウキウキとラプンツェルのベッドに近づくと、肩に手をかけ揺さぶった。

相変わらず冷たい体だ。


「ラプンツェルさん、ラプンツェルさん」


「う~ん……」


中々起きない人型のドラゴンをゆっさゆっさと揺さぶる。


「ラプンツェルさん、起きてくださいよ」


ラプンツェルは眉間にシワを寄せ、鬱陶しそうに眠りを邪魔する者を振り払う。


(この、、三年寝太郎め……)


サクラはドリームキャッチャーから弁当箱を取り出すと ふたを開け、ラプンツェルの鼻先へと持っていった。

揚げたてのまま閉じこめたコロッケの香ばしい匂いがする。


ラプンツェルはむっくりと起き上がった。


「お主……」


「お久しぶりです、ラプンツェルさん」


「ここへ来てはならんと言ったはずだが?」


「そんなことより、これ」


サクラはコロッケの弁当箱を差し出した。


「これは、、お主どうやってこれを持ってこれたんだ」


「イシルさんが考えてくれたんです~」


そう言ってドリームキャッチャーを見せる。


「我の髭で作ったのか……イシルとは、お主が覗き見した男だな、なかなかやりおる」


「でしょ?」


サクラがくふふと笑う。


「フン、惚気おって、気に食わん」


あ、なんか拗ねたぞ


「コロッケ、熱々のうちに食べてくださいよ」


サクラはイシルが一緒に入れておいてくれた包み紙にコロッケを包むと ラプンツェルに渡した。

イシルさん、気が利くなぁ……


「うむ、寒いからお主はこれを羽織っておれ」


ラプンツェルが羽毛布団をくれたので、前回同様ありがたくくるまる。


ラプンツェルはコロッケを受けとると、ひとくち かぶりついた


″サクッ、、″


軽い音とカリッと香ばしいころもの口当たり。

きつね色のころもの中から熱々のが顔を出す。


″はふっ、もくッ″


マッシュされたジャガイモが滑らかに舌に触る。

噛むとその中に玉ねぎの甘み、挽き肉の塩気と旨味が広がった。


″モグッ″


たまに当たるごろっとしたジャガイモがまたいい。

口の中でころもの香ばしさと一体になり、ホクホクと口の中を転がっていく。


″ゴクン″


「……旨いな」


「でしょう?」


ラプンツェルはコロッケ三個をぺろりと平らげた。

サクラはそれをニコニコと眺める。


「これだけのために来たのか」


「うん。いや~、もう会えないかと思ってましたよ。考えないほうが会えるんですね」


「なんだ、いつも我の事を考えながら寝ていたのかい奴だな」


「いや、コロッケ食べてもらいたかっただけですよ」


「むむっ、今日は何故我の事を考えなかったのだ、あやつイシルのせいか?」


「違います。今日は麺の事を考えてて」


「メン?」


「食べ物ですよ。こう、スープの中にパスタみたいな細長い食べ物が入ってて、ズルズルっ、と……」


サクラはラーメンをすする真似をする。


「何処かで見たことありませんかね」


「ふむ、それならロータスの国で似たようなものを見たことがあるな」


「本当ですか!?」


「スープではなかったようだが、パスタのようでパスタではないようだった」


ジャージャー麺かな?

ロータスの国、どこかで聞いたことがある気がするんだけど、どこだっけ?


ラプンツェルがうっすらと目を開け、サクラを見つめる。

千里眼でサクラにもくれるのだ。

ラプンツェルの瞳の奥に蓮の花が浮かび、サクラは吸い込まれそうなほど澄んだ瞳にその身を委ねた。


「おおっ!」


目の前が開ける。

ラプンツェルがくれてるのだ。


サクラの目の前でチャイナ服を来た人が麺をすすっている。

ジャージャー麺!ビンゴだ。

ここは中華の国だ。

麻婆豆腐、青椒肉絲、回鍋肉、棒々鶏、八宝菜……

点心もある!餃子、シューマイ、小籠包、大根餅……

他にも刀削麺、担々麺、なんだ、スープのラーメンもあるじゃないか、適当だなラプンツェルさん


「ロータス以外で、この麺はないんですか?」


異世界でメジャーな食べ物なら目玉商品にはならないかもしれない。


「東の大陸では主流だが、他の地域ではパスタばかりだな」


よしよし、信じよう、世界を見守る者の言葉を。

現世でも本場中国のラーメンと日本のラーメンは違うというし、目玉商品としていけるだろう。


「あ!シャナさんか!」


サクラはチャイナ服で思い出す。

白猫になった時、シャナさんが言ってたんだ!東の大陸、ロータスからマーキスにのって来た、と。


「ラプンツェルさん、ありがとうございました!」


「うむ。では戻ろう」


「あの、今日はイシルさんは……」


「なんだ、また夜這いする気か?」


「う……」


いや、プレゼントしたアザラシの抱き枕がどうなってるか知りたいんだもん。抱っこして寝てるのかな、なんて///

そんな可愛いレア姿なら見ておかなければ……


「うむ?アヤツ、結界を強化したな?入るとバレるが、よいか?」


そりゃまずい。


「いえ……諦めます」


ラプンツェルが目を閉じ、サクラとラプンツェルは牢獄に戻ってきた。


「ありがとうございますした ラプンツェルさん、おかげで解決出来そうです」


「よい、コロッケの礼だ」


「どうですか?外に出ればもっと沢山食べられますよ、コロッケ。中華料理も美味しそうでしたね~」


「ハハハ、サクラはどうしても我をこの牢から出したいのだな」


「うっ、じゃあ、コロッケまた持ってきます、今度は――」


「ダメだ」


ラプンツェルが語気を強め、サクラがビクリとする。


「ここに来てはならんと言ったであろう」


ラプンツェルの瞳は閉じたままだが、視線に射竦められる。

怒られた。


「ここはお主には危険なのだ。我を見ても素通りしろ」


「……ミケちゃんがいるからですか?」


「それもある、が、、」


ラプンツェルは少し悲しそうな顔をすると、羽毛布団ごとサクラを抱き締めた。


「我がそなたを手放せなくなる」


直にサクラを抱きしめることは出来ない。

サクラが凍えてしまうから。


あの男イシルのそばにいたいのであろう?」


「はい」


「だったらもう来るな。三度目はない」


「……はい」


「我が名はラプラス 一度だけ呼んでくれ」


サクラは、ありがとうとさようならを込めて名前を呼ぶ。


「ラプラス」


ラプラスは少し微笑み、きゅっ、とサクラを抱く手をつよめた。

その後サクラの体をくるっと反転させ、耳元で呟く。


「去らばだ、サクラ、楽しかった。礼を言う」


とんっ と背中を押した。


頭にラプラスの最後の声が残り、サクラはぐわっ、と引っ張られるように感覚が戻る。


ベッドに沈む感覚。


意識が覚醒し、夢が現実に戻る。


(ラプラス……)


全知の竜、エンシェントドラゴン ラプラス

全能さえ手に入れれば神になれる古代竜。


″コンコン″


「はい」


「よかった、帰ってきましたね」


ドアがノックされ、イシルが顔を出した。

どうやら強化した結界でサクラの意識が夜中に抜け出したのがわかり、心配していたようだ。

あぶねぇ!覗きに行ってたらバレてたよ。


「コロッケは渡せましたか?」


「はい、ありがとうございました。凄く美味しそうに食べてましたよ」


「それは良かった」


「ドリームキャッチャー見て″我の髭で作ったのか″って感心してました」


「ドラゴンが?」


″イシルとはだな、なかなかやりおる″って褒めてました」


サクラは調子にのってエンシェントドラゴンの言い方を真似し、誇らしげに喋る。


「ドラゴンは僕の事知ってるんですか?」


「え?あー、、全知の竜だから……」


一緒に覗き見したから知ってるなんて言えない。


「危ないから、もう来るなと言われてしまいました」


「ええ、その方がいいと僕も思います」


「デスヨネ」


そしてサクラは シズエから借りた水色にピンクの花柄のファンシーなショッピングカートを手に 二週間ぶりに現世へと喚ばれて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る