195話 白猫のタンゴ 5




「一体どれだけ心配させれば気が済むんですか」


イシルは村から帰り、白猫のサクラをソファーに降ろすと 上着を脱ぎ、ソファーになげた。


「ニャー」


「謝ってるんですか?僕に猫の言葉はわかりませんよ」


どかっ、と サクラの隣に座る。

機嫌、悪いな。

サクラは ごめんなさい、と、ちょこんとイシルの脚に手を置いた。

控えめに、ちょこん、と。


「っ///、そんな可愛い謝り方したって……」


サクラはじーっと上目遣いでイシルを見る。

いや、わざとじゃなく、下から見上げるしかないので、そう見えるだけなのだが。


ごめんなさいを込めて、イシルの脚にこつん、と頭をぶつける。


「ああっ、もう!」


イシルは手を伸ばすと サクラを抱えあげ、ひょいっ、と膝の上に乗せた。


「猫の時は甘え上手なんですね」


「ニャー」


いや、言葉がしゃべれないなら態度で示すしかないではないか。


「他の人にもそんなふうに甘えたのかと思うと腹が立つ……」


甘えたわけではない、ボディーラングエッジだ、心外だな。

そんなことで腹を立てないでほしいよまったく。


イシルはサクラの耳介をつぶさないように、サクラの顔全体を手で包み、親指でやさしく触る。

鼻筋を撫で、目の上、額、耳の後ろ……

心地よくてサクラは目を細めた。

それを見つめるイシルの目は 言葉とは裏腹に甘々激甘、砂糖の上にシロップかけて蜂蜜を垂らしたように甘い。


(イシルさん、もふもふに弱いのかな)


結局ランを受け入れたのだ。

きっと、そうだ。

可愛いとこあるよなあ、と ニマニマしていると、腰を捕まれ、体が前に傾く。


(ひゃあ!)


イシルの胸に突っ込みそうになり、慌てて前肢をだし、とんっ、と、イシルの胸についた。


すぐ目の前にイシルの胸板がある。


(///)


イシルは上着の下は薄いシャツだけで、置いた前肢からイシルの肌の温もりが伝わり、質感とか感じてしまいくらくらする。

飛び込んでいたら確実にその胸に沈んでしまっていただろう。

しかも、膝の上、猫じゃなかったら恥ずか死ぬるところでしたよ。


「もう二度と猫にはしません」


イシルの手がサクラの顎にかかる。

人差し指で顎を支え、親指でくいっと下から押し上げ、上を向かせた。


(キレイな顔……)


すぐ鼻先にイシルのくちびる……





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(あれ?これ、もしかして顎クイ!?)


″チュッ……″


(ええっ!?)


イシルのキスと共に 体がふわっとなり、サクラにかけられた魔法がとける。


(魔法の解き方言っといてよ!!膝!膝のうえぇぇ!!)


″ちゅ……″


人に戻ったというのに、イシルはサクラのくちびるを解放する気はないらしい。

サクラは両手でイシルの胸を押し、イシルから離れようとするが、イシルの膝の上なのでうまくいかない。


「んっ///」


イシルはサクラの顔を手で捕らえ、引き寄せ、くちびるをむ。


″チュッ……″


逃れようとするサクラを翻弄する大人のキス……


「んんっ///」


求めて来るイシルのくちびるをずらし、、サクラはイシルに抗議する。


「イシルさん、もう人に戻ってます」


「僕には猫にみえます」


イシルは猫の子にするように、サクラの頬をつつむように手を添え、指で耳を挟むと 撫でるようにこすっ、と指をすり合わせ、耳をいつくしむ。


「イシルさん、やめて///」


イシルはなかなか止めてくれない。

猫のときとは違う感覚がサクラを襲う。


「可愛い顔しますね」


イシルの手は猫のサクラを撫でるのと同じように、耳から首へ、首から肩を撫で、背中へと滑っていく。


「もう、降ろして」


「僕に猫の言葉はわかりません」


「膝の上って恥ずかしすぎる!」


「恥ずかしがる顔を見たいんです」


「言葉、わかってるじゃないですか!」


そのままサクラの体をかかえこみ、頭を支え、ソファーへと押し倒した。


「ひゃあ///」


「降りましたよ?膝の上から」


余計恥ずかしいことになってますが!?


「僕にも しがみついて、ギルロスにしたみたいに……」


ちょっと拗ねたような甘えた声に耳をくすぐられる。

そして、サクラの心をほだすように、甘く、優しく、唇を重ねる。


″チュッ……ちゅ……″


ゆっくり、時間をかけて サクラの心にイシル自身を染み込ませるようなキスに、サクラは応えそうになるのを抑えるので手一杯だ。


「胸の僕のキスマークは消えてしまったでしょう?」


唇を少しはなし、イシルがサクラに問う。


サクラの心臓ココロの上に刻まれていたキスマーク……


「あんな胸のあいたドレスを着られるんですから」


見たのか、あれを


「もう一度、つけていいですか?」


イシルが囁く。


「今……」


ナウ!?

いや、それはいかんだろ!


「それとも、もう僕と恋愛しますか?」


それはもっといかんだろ!

なんで二択でなんだ!?


「時間をかけてつけると、なかなか消えないんです」


ヤバい、何も考えられなくなる……


「つけて、いい?」


なにか、なにか理由を……


「ランが帰ってきますから、、」


「帰ってこなければいいんですか?」


「いや、そういうんじゃなくてですね、、」


揚げ足をとらないでくれよ、、


「帰ってきませんよ」


「え?」


「三の道の奥でサボってましたからね、リベラに教えておきました」


チクったのか!?


「今頃まだ絞られてますよ」


腹黒ですねイシルさん!


「どうする?サクラ」


続きはWEBで!と逃げたい、どうしよう!!


「あれ?イシルさん、あれ、何ですかね……」


サクラが天井の一点をみつめる


「騙されませんよ、結界には何にも……」


言いかけてイシルは サクラを背に庇い天井を向いた。

結界に強い反応がある。

この魔力は……


「サプラ~イズ!!」


「……やっぱりお前か」


何もない空間からアスが現れた。


「あれ?お邪魔だったかしら?」


アスがサクラとイシルの感情の甘い残香を感じ取りニヤリと笑う。


「どうぞ、私の事は気にしないで続けて♪」


そう言って二人が座るソファーの背もたれに肘をつき頬を乗せた。

覗く気満々である。


「……お前の食事になる気はない。何しに来たんだ」


「んー、お詫びのお酒を持ってきたんだけど、出直してあげるわ♪」


仕事の話があるから明日アスの館に来るようにと言って 酒を置いて帰っていった。


(助かった……)


アスは邪魔しに来ただけだが、サクラはほっと胸を撫で下ろした。





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