191話 白猫のタンゴ
サクラがバーガーウルフをお休みして、ドワーフ村に行かなくなり二日程が過ぎた。
「すみません、サクラさん、今日はどうしてもメイの所に薬草の株を見に行かなくてはいけなくて……」
「あ、いいですよ、お留守番してますから。いってらっしゃい」
サクラは一人で過ごす為に本棚から本を持ち出す。
「……」
「どうかしましたか?」
「いえ、寂しくないかと」
「大丈夫ですよ?」
二日間、散々一緒にいたではないか。
昨日はランも休みで 三人で楽しく森に出掛けたよね?
「一緒に行きますか?」
「いえ」
サクラはペラっと現世で買ってきた本の栞を開く。
「……」
あれ?もしかして、イシルさんが寂しい、のか?
「あー……でも、村の様子は知りたいですね」
「そうですか」
あ、ちょっと嬉しそう。
「行っても大丈夫ですかね?」
「少し変装すれば大丈夫ですよ」
「変装、面白そうですね」
変装、カッコイイ響き。
探偵気分を味わえる。
「じゃあ、こっちに来て下さい」
トレンチコート?
それじゃ変質者っぽいな。
サングラス?
異世界でまだみたことはない。
眼鏡があるのだから、きっとある。
簡単に帽子、かな?
もしや、男装とか!?
サクラはわくわくしながら、イシルの前に立つ。
イシルはサクラの両耳を手で包むと 魔法をとなえた。
耳の辺りが ほわん、と温かくなる。
「できました」
もう?
イシルがふわっと耳をなでると、サクラの耳が、ぴんっ、とそれに反応してしばたく。
「ふふっ、かわいい」
「にゃっ!?」
サクラは玄関の鏡に走った。
「にゃにゃっ!?」
白くて毛並みのいい耳が ぴんと立っている。
「猫耳!?」
「獣人ならサクラさんだとは思わないでしょう?」
「いや、これは///」
はずい!恥ずかしすぎる!!
いい年をしてネコミミを生やすとは何事か!?
アイリーンがみたら笑い転げそうだよ。
「イシルさん、代えてください」
「ダメですか?こんなに可愛いのに?」
サクラの耳の毛並みを楽しむように、イシルがつるん、と撫でる。
(ひいぃぃ///)
「別のにしてくださいよ!」
首をすくめるサクラに、仕方ありませんねと、イシルが魔法をかけ直す。
″ほわん″
「クマもかわいいですね」
「……」
″ほわん″
「ウサギは、可愛いけど連れ去られそうですね」
″ほわん″
「羊!これも捨てがたい、でも重くないですか?ツノ」
「……イシルさん、遊んでますよね」
「バレましたか」
「……」
「やっぱりネコミミがしっくりきますが、どうしますか?」
ミミから離れてくれ
「いっそ、猫にしてくださいよ」
「猫に、ですか、それもいいですね」
イシルの魔法がサクラを包み、目線が段々低くなる。
体が小さくなったからだ。
イシルの魔法の温かさと光が消えると、世界が大きく見えた。
(おおっ!猫だ!)
デブ猫なのは仕方なかろう。
所詮
「おいで、サクラ」
(うぐっ///)
呼び捨ても仕方ない、猫なのだから。
サクラがととっ、とイシルの足元に向かうと、イシルは白い猫になったサクラをひょいっと腕に抱き抱えた。
「にゃっ///」
イシルの顔が近い。
「サクラ」
猫になったせいか、音がよく聞こえる。
優しい声でイシルが名前を呼び、するっ、と頭をなで、耳の後ろをなでる。
(はずい!でも、、キモチイイ……)
抗いがたい気持ちよさ……自然とゴロゴロと喉をならしてしまう。
「可愛い……猫だと甘えてくれるんですね」
イシルがふかっ、と サクラの白いネコ毛に顔をうずめる。
「にゃうんっ!!」
「あははっ、暴れないで、サクラ」
すりすり、と、イシルはサクラのネコ毛の柔らかさを楽しむ。
(ひゃああ///)
「くすぐったい?」
(くすぐったいよ!!)
「ふかふかだ……お日様の匂いがする」
(ひいい///)
イシルさん、そんなに猫好きでしたかぁ!?
「さて、遊んでいたいけど、仕方ありませんね、行かなくては」
(遊ぶな!!)
イシルはサクラを片手に抱いて魔方陣へと向かう。
(そうか、ランもこんなだったんだ……反省)
猫になったサクラを連れて イシルはドワーフの村へと出掛けた。
◇◆◇◆◇
メイの治療院につくと、勝手知ったる感じでイシルは門から裏庭に回る。
裏庭には温室らしきハウスがあり、中でメイが鉢に水やりをしているのがみえた。
縁側では メリーが揺り椅子に揺られ 編み物をしている。
メリーはイシルに気がつくと 声をかけてきた。
「あらあら、真っ白でかわいい猫ちゃんね、イシルさんちの子?」
「ええ。シャナは、いないんですか?」
「シャナは今、花の蜜を集めに出掛けてるわ」
「そうですか」
シャナがいないことに一先ずイシルは安心する。
この白猫はサクラだ。
わかりはしないだろうが、用心にこしたことはない。
メリーが編み物を置き、両手をひろげ、サクラを抱きたがっているので、イシルはメリーにサクラを託した。
(ふおぉ!メリーさんの腕の中キモチイイ!)
羊毛ふっかふか
「しばらくここで待っていて」
イシルはメリーの胸の中に収まったサクラをひと撫ですると、温室へと入っていった。
その手つきがいちいち優しくて、ドギマギする。
(わーい、日向ぼっこだ~)
ぽかぽかと暖かい日差しの中、サクラはふかふかのメリーの膝の上で イシルを待つ。
メリーはサクラを膝に、再び編み物を始めた。
″コロコロ……″
何故だ……
″コロコロ……″
体がウズウズする
″コロコロ……″
我慢できない
「うにゃっ!」
サクラはメリーの膝から飛び降りると、毛糸の玉にじゃれついた。
毛玉ってこんなに魅力的だった!?
「あらあら、うふふ」
メリーは細い目を微笑ましげにさらに細めると、構わず編み物を続ける。
ちょい、と触る
″コロ……″
ちょいちょいっ
″コロコロ……″
ガスッ!
「にゃっ!」
猫パンチをしたら毛糸が爪に引っ掛かり、毛玉からくっつき攻撃を食らう。
(イヤーン!)
離れない!
サクラはブンブン手を振って毛玉を突き放す。
″コロコロ……″
サクラの手を離れた毛玉は縁側の縁まで転がっていった。
(おのれ小癪な……)
サクラは毛を逆立てて、出来るだけ体を大きく見せるため手足をピンとのばし、威嚇しながら とととっ、と毛玉へと近づいた
「フーッ!!」
″えーん…………″
(ん?)
サクラの耳がピクリと動く。
(泣き声?)
″えーん、えーん″
(どこかで子供が泣いている)
サクラは毛糸をチラリと見る。
(今日はここまでにしといてやる)
ああ、サラバ毛糸よ……
次に会うときは君はもうセーターにでもなっているであろう。
サクラはひょいっ、と 縁側から飛び降りると、泣き声のするほうへと 向かっていった。
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