190話 茶碗蒸し
イシルがアスの所に行った後、サクラは運動をし、一通り掃除を終え、リビングで待っていた。
「お昼ごはん、作ろうかな」
いつかイシルに食べてもらおうと思っていたメニューがあった。
『茶碗蒸し』だ。
前々回現世で回転寿司屋に入った時、絶対イシルが好きだろうと思ってたのに、作る機会のないまま今日に至ってしまった。
「よし、茶碗蒸しだ。てことは、合うのは寿司?」
麦ごはんはある。
お!ひじきの煮物が少し残っている。
「よしよし、いいぞ」
メニューは『ひじきのちらし寿司』と『茶碗蒸し』に決定だ!
まずはちらし寿司。
うちのひじきの煮物は
ひじき、あげ、こんにゃくをつかう。
こんにゃくは糖質オフとかさ増しのためだ。
板こんにゃくでも、糸こんにゃくでもいい。
ひじきは30分くらい水に浸けて戻しましょう。
既に水戻ししてあるものも売っているので、それだとすぐに作れます。
こんにゃくは好きな大きさにちぎり、油揚げは3~4cmの細切りにし、水戻ししたひじきと共に炒めます。
そこにだしの素、醤油、砂糖で味付けをし、煮汁がなくなるまで中火で煮る。
砂糖は最近、体に吸収されないというエリスリトール系を買ってみました。
『カ◯ントS』、少し茶色い甘味料。
使う前はちょっと黒糖っぽい匂いがしていたが(羅漢果のせいかな)醤油の味が濃いからか、使用後は感じなかったよ。
普通の砂糖より甘味が強い気がする。
うちでは ひじきを炒め煮するときには、たっぷりの七味と生姜を入れ、ピリ辛に仕上げます。
ひじきには大豆の水煮を入れても美味しいよね。
あげじゃなく、さつまあげにすると 更にボリュームアップになる。
これを好きな量ご飯と混ぜて、お酢とゴマを足すだけで、簡単チラシの出来上がり。
麦飯は粘りが少ないので、酢飯にすることによってまとまりやすくなるから、揚げに入れて稲荷にしてもいい。
要は、残り物のひじきの煮物と冷凍してある麦ごはんとお酢をまぜるだけである。
ゴマをたっぷり足してね。
「チラシOK」
まぜただけだから。
料理か?
うん、料理だ。
ひじきと麦飯のマリアージュと言っておこう。
マリアージュ→ふたつの異なる存在だったものが、出会い、融合することによって、それ以上の素晴らしいものが生まれる。
うん、間違いなく、マリアージュ。
さて、茶碗蒸し。
レンジで簡単茶碗蒸し。
サクラの料理は大体簡単おおざっぱだ。
「卵と出汁は1:3、と」
卵1個は大体60mlなので、対して出汁180ml程度が目安です。
卵はS、M、Lの大きさで多少かわります。
軽量カップに卵を計り、三倍のだし汁を入れるとよいのです。
「二人分だから、360mlの水、にだしの素を解く」
ボウルに卵を割り、だし、水を入れて、よく混ぜる。
″シャカシャカシャカ″
「箸で溶いたら、茶漉し、茶漉し」
茶漉しで濾す。
黄身と白身は固まる温度が違うので、濾したほうが均等に熱が加わり、
「うふ。茶碗蒸しの銀杏って好き。二個、いや、三個入れちゃえ」
耐熱カップにしいたけ、鶏肉を小さく切り、かまぼこは薄く切り、ネギをちらし、水煮銀杏を入れ、卵液を注ぐ。
「鶏肉はサラダチキンでもいいんだよね~」
この時泡立った気泡は、楊枝で潰すか、スプーンですくって取り除くことをオススメします。
これも
ライターの火を泡に近づけてもOK。空気が膨張して泡が弾けて消えますよ。
″ぷすっ、ぷすっ、ぷすぷすぷすっ、″
ラップはふんわり、つま楊枝で穴をあける。
空気の通りを作るのだ。
ラップをして、200wのレンジで7分加熱し、その後は様子を見て時間を足します。
″チン!″
「もちょいかな?」
一気にやると固くなりすぎますので注意です。
″チン!″
「もう一声!」
″チン!″
「出来た!」
ふるふる、つるつる茶碗蒸し。
三つ葉を散らせば 料亭の味!
あまり水分がでそうな具材はひかえ、好きなものを入れてください。
カニかまとか、味が出そうなものがオススメですね。
だしの素のかわりに、お吸い物のもととか(お麩がおいしい)めんつゆとか使っても美味しいです。
「なんか、足りないな……サラダか」
これも簡単に作る。
トマト、キュウリをゴロゴロと切り、塩昆布をまぜ、ゴマ油をかける。
これで、三品目。
「イシルさん、早く帰って来ないかな~」
◇◆◇◆◇
イシルが家に帰り、玄関のドアを開けると、ふんわり、出汁のいい匂いがした。
(サクラさん、何か作ってる?)
「あ、お帰りなさい」
キッチンへ入ると、サクラが笑顔でイシルを迎え、テーブルには料理が並んでいた。
「丁度出来たところですよ!」
「お昼、作ってくれたんですね」
「オススメは茶碗蒸しです、座ってください」
サクラに勧められイシルが食卓につき、サクラも対面に座った。
(話は、後にするか)
「「いただきます」」
イシルの目の前で、サクラが茶碗蒸しを食べて欲しそうにしているのがわかる。
わかりやすくて思わず笑みがでる。
「これが、茶碗蒸しですね」
″スッ″
イシルは茶碗蒸しにスプーンを入れると、一口すくって口に入れた。
″つるん″
茶碗蒸しは、スプーンから滑るように口に入り、とろんと蕩ける。
口に含んだ瞬間から香るだしの香りと、蕩けた瞬間、ふんわり柔らかい卵の香りがまざりあい、広がってゆく。
そして、とろとろの舌触り。
これは美味しい。
「僕の、好きな味だ……」
イシルの呟きにサクラが満面の笑みを浮かべた。
「現世に行った時、絶対イシルさん好きだろうなって思って」
さらりとそんなことを言ってくれる。
その一言に、イシルはついつい、深読みしてしまう。
「現世でも、僕の事を思い出してくれてたんですね」
「あ///」
サクラの顔が照れて赤く染まった。
サクラは、ずるい。
それは、肯定の返事だろう。
ドレスのこと言うはずだったのに、そんな顔されたら何も言えなくなるじゃなか。
茶碗蒸しのように、イシルの心もほだされてしまう。
サクラは、ずるい。
わたあめも茶碗蒸しもなんて不思議で美味しいんだ……
サクラを一人占めにしたいと思う反面、次に何をするのかも見たくなってしまう。
仕事を辞めて欲しいなんて言えなくなる。
わたあめのように、イシルの気持ちも甘く溶かされてしまう。
「私、茶碗蒸しの銀杏が好きなんですよ」
「銀杏……」
イシルは茶碗蒸しの銀杏をすくって一緒に食べる。
茶碗蒸しが蕩ける中、むっちり、ほろ苦、銀杏独特の香り。
「うん、美味しい。僕も、好きです」
「よかった!」
サクラも茶碗蒸しを一口食べる。
″ふんわり、とろ~り″
「んふっ///」
「銀杏拾いに行けばよかったですね」
「私、来たばかりの頃ですよね」
「ええ。イチョウ林も綺麗ですよ」
サクラと並んであの中を歩きたい。
「次の秋には行きましょう」
「そうですね!炒って塩ふったらいいつまみになりますし」
「呑んべぇ的発言ですよ、サクラさん」
「でも、食べるでしょう?イシルさんも」
「勿論です」
「行きたいなぁ……」
二人は仲良く茶碗蒸しを食べる。
次の秋も、サクラがここにいることを願いながら。
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