182話 cherry´s始動 2 (ドレスアップ)







サクラは渡されたビスチェを窓のカーテンの陰でもそもそと装着する。

少し きつい。

まあ、体のラインをキレイに見せることを重視している下着だから、補正されている感覚があるのは仕方ないか。


「どう?着られた?」


「うわっ!」


アスがカーテンを開ける。


「それじゃダメね」


アスが、手を伸ばしてくる。

サクラはその手を ぺいっ、と はたき落とした。


「自分でやりますっっ!」


再びカーテンを シャッと閉める。


「じゃあ、前かがみになって、アンダーバストのラインを合わせて」


サクラはビスチェをおりまげ、前屈みになり アンダーバストのラインをあわせ、ビスチェをもとに戻した。


「カップ脇に手を入れて、脇のお肉をしっかり寄せてカップの中に入れるのよ」


手のひらで、背中からアンダーバスト、アンダーバストから胸へと、全てのお肉を引き上げ、カップ内へ入れ込む。

反対側も同様に、前かがみのままお肉をカップへ寄せ集め入れ込む。


「確認するわよ」


「う///」


だから」


「……いいよ」


アスがカーテンを開けて確認する。

サクラを前向きにすると、姿勢を正し、ビスチェのまんなかをくっ、と 引き上げ、横向きで胸の位置を見る。


「胸は盛れてるわね」


背中を見て、ビスチェがずり下がってないか、脇や背に肉がはみ出てないかチェックし、指を差し入れて微調整する。


(お仕事……お仕事だ///)


「まあ、いいかな」


再び前に周り、アスが胸の締め上げ紐をきゅっと結びなおすと、胸が更に盛り上がった。


「これでバストのボリュームをアップとウエストラインは大丈夫ね。子ブタちゃんの体にあってるはずだけど、苦しくない?」


「補正されてる感はあるけど、苦しくはない、です」


現世でボディースーツをきてぎゅうぎゅうに固めたことに比べれば着心地がいい。


測ったもの」


「……ですね」


流石オーダーメイドは違います。

やり方に難ありだったけど。

せめて女性にやってもらいたいと言ったら、女体化すればいいのかと聞かれ、諦めた。

女体化しても結局アスだ。


アスはご満悦でサクラにドレスを着せていく。

胸元ふんわりにして、ハイウエストで更に胸を強調し、脚長効果も狙う。

Aラインを描き流れるスカートが腹を隠す。


スカートは膝丈。

膝のくびれ部分を見せることで 中途半端な位置よりは細く見える仕様だ。

あくまで今の体型の最大限細く見えるというだけで、けして細いわけではないけどね。


色々考えてくれてて有り難いのだが、気になるのは 背中。

背中、ガッッツリ開いてるよ!?


「子ブタちゃん、背中の肉は少ないのよね~キレイなんだから見せなきゃ勿体ないじゃない?」


ランが頑張って教えてくれたからね。

背中は落ちたよ。肉。


それよりも腕!!

ドレスは肩だしオフショルダー……

むっちり腕が ちょっとしか隠れていない。


「そのむちむちがいいんじゃない」


「……嫌だ」


「ストールで隠すから大丈夫よ。見えそうで見えない……隠されると見たくなるでしょ?」


「そんなもんかね……」


是非隠したままでいきたいもんだ。


「あら、それ……」


アスは サクラの胸元にあるペンダントに目をとめる。


「これははずしませんよ」


「……何も言ってないじゃない」


「いや、外せって言われそうだから」


「そうねぇ……」


白い薔薇の入ったティアドロップのペンダント……


「ピンクに白薔薇は少しぼやけるのよね……」


アスはちょっと考える。


「いいわ、ピンクでふんわり行きたかったけど、ドレスの色を変えましょう」


アスは魔法でドレスをピンクから水色に染め上げた。


「シンデレラドレスの色……」


ハードル高っ!!!着こなせる気がしない!


「白で締めるか」


アスは上半身の胸のラインに沿って白い花の刺繍を入れる。

小さな白い花とパールの柔らかな光が輝く。

同じように、ウエストラインに縦に。それと裾にも入る。

それがアクセントになり、体の太さの境界線をぼやかし、締めてくれるようだ。


「これは、取っていいわよね?」


アスはランの髪紐を指差す。


「うん」


ラン、ごめんよ、サスガにドレスには合わないよ。


「服と一緒に部屋に届けさせるわ」


アスはサクラをソファーに座らせ、髪紐をほどくと、サクラのこめかみ辺りから手を入れ、すうっと髪をすくう。


……やっぱり人に髪をやってもらうのはくすぐったい。

ぴくりと体が動いてしまう。


アスがサクラの後れ毛を耳にかける。

つうっと 耳の輪郭をなぞるように アスの指が触れ、身がすくむ。


「うぐ///」


「くすぐったい?」


アスはパールの髪飾りでサクラのサイドの髪を留めながらクスクス笑う。


「……大丈夫」


「そう?」


反対側の髪をすくう。


″ついっ″


「っ///」


アスはあきらかにサクラの反応を楽しんでいる様子だ。


「……わざとでしょ、アス」


「いやん、前向いて」


後ろを睨むサクラの頭をもとの位置に戻すと、サイドを取って真珠の髪飾りでとめる。

まとめてしまうと肩の丸さが際立ってしまうので、サイドだけ耳を出してもったり感をなくしたのだ。

アスはサクラの髪を指でくるくるとカールをつけていく。


「今回は紅メインでいくわ」


自分でやると言うサクラを制し、アスはソファーの前にまわると、サクラの前にひざまづいた。


サクラの部屋ならドレッサーがあったのに、ひざまづかせてしまって申し訳ない。


今回はナチュラルメイクでいくようだ。

顔を見せたいわけじゃない、くちびるを際立たせたいのだ。


「目をとじて」


アスがサクラのまぶたにシャドーをのせる。

シャドーはベージュをのせて陰を作る程度に。

眉も描きすぎないようペンシルではなくアイシャドーで形を整えるだけ。


「目をあけていいわよ」


「わっ!」


目をあけるとアスの綺麗な顔が目の前にあった。

少し寄り目でじっと サクラの目元をみている。


サクラの緊張をよそに、アスが中指で ちょいちょいっと サクラの瞼を撫で、シャドーをのばし濃さを調節する。


「うぅっ///」


瞼を人に触られるって、、なんか恥ずかしいな。


最後に 今回ウリの ティントタイプの口紅をぬる。

ピンクだ。

ピンクと水色は相性がいい。


「口、ひらいて」


サクラは言われた通り 口を薄く開く。

アスの顔が近づき サクラの唇に口紅をのせる。

サクラは、ローズの街でもやられたけど、アスの顔を見れなくて 目を泳がせてしまう。


″ツイ……ッ″


アスが唇の形に添い、口紅をすべらせ、サクラの唇を縁取る。

うぅっ、やっぱりくすぐったい……


″ポン、ポン、ポン……″


アスはサクラの唇を指で優しく叩きながら 中央へと口紅を馴染ませて行き サクラのくちびるを染め上げた。


ぷるんと 可愛らしいくちびるになる。


「うん、美味しそう」


アスは満足そうに サクラのくちびるをみつめる。


アスが 動いた――――


「!!?」


″ぶみっ″


「……なにひゅんの、子ブタひゃん」


サクラはアスの顔を押さえる。


「アスこそ何すんの」


アスの顔が近づいてきたからだ。

それ以上近づいたらキスしてしまうだろ!?


「何って、乾く前に紅を馴染ませないと……」


「口で?」


「うふ♪」


「却下」


「一番馴染みやすいのよ?」


嘘だね!!!


「ティントタイプの口紅は 唇を擦り合わせるとムラになるんですー!」


だから″んまんま″ってしないで ティッシュで馴染ませながら重ね塗りすることをオススメします。


「あら、残念 じゃあ、キスしてもホントに落ちないか 試してみないと♪」


「まだ乾いてませんー!!」


「もう、ああ言えばこう言う……困ったちゃんね」


困ったちゃんはお前だよ!この色欲の悪魔め!!

あれ?色欲の悪魔って……


サクラは思い至る。


(はアスモデウス?)


色欲の悪魔″アスモデウス″

ソロモン72柱の序列三十二位に置かれる大悪魔。

七つの大罪の一人。


(あ!じゃあ、ローズの街の岡の上の柱、32個目にいるのかな)


いや、もう上りたくないけどね、うん。


「折角可愛くしたのに、イシルに見せられなくて残念ね」


「イシルさんは 来ないの?」


ほっとしたような、残念なような……


「イシルが来たら 全部もってかれるでしょ、仕事の邪魔よ」


たしかに、奥様方に、口紅より皆の注目を浴びられては困る。


「イシルもその辺はわかってるから来ないわよ。はい、靴はコレね」


アスは サクラの前にヒールの高い靴を置いた。


「ヒール、苦手なんだけど」


「子ブタちゃんはパタパタ歩くから 歩けないくらいが丁度いいのよ」


確かに!!


「そのためにあたしがいるんじゃない」


アスがエスコートしてくれるんだ。

舞妓さん状態にするってことですね?

動かなければ私でもエレガントに見える、はず!


靴はドレスと同じ水色で、白い花があしらってあり、細いストラップがついていて可愛らしい。

細いストラップが足を華奢なイメージにしてくれる。

ヒール高いけれど太くしっかりしていた。

足先も丸みを帯びていて、サクラの足の形に合わせてあった。

そこも測られましたから。お恥ずかしい……


アスも着替えを済ませ、サクラをエスコート。

おおっ!ちょっといつもより男っぽいね!

机に向かってた 仕事の顔だよ、アス!


「アス、ストールは?」


二の腕を隠してくれるストールはどこ!?


「ああ、忘れる所だった」


アスがサクラにふんわりとストールをまとわせる。


「……これですか」


「キレイでしょ?」


「キレイだけど、これ、ストールじゃなく、ベールだよね?」


水色のベール……


スケスケでちっとも腕も背中も隠されてないじゃないかあぁぁ!


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