173話 ラプンツェルさん 2 (夢と現の間)




体が宇宙に浮いている

これが 無重力!?

サクラは体のバランスが取れずあわあわしてしまう。


「わははは、お主は不器用だな」


ラプンツェルは すっ転んだまま空中で停止したような格好になっているサクラをむぎゅっと抱きかかえた。


「ふむ、お主は柔らかいな」


「いや、それ、私じゃなく羽毛布団のせいですよ」


羽毛布団ごと抱き枕状態だ。


「ぬくぬくだ」


「いつもちゃんとベッドで寝ればあたたかいんですっ!」


「わはは、面倒くさい、我は寝たい時に寝るのだ」


「どんだけ物臭なんですか、まったく」


「見ろ、あれが我らが住まう星だ」


目の前に見えるのは 地球と良く似た青い星。

ラプンツェルはサクラを抱えて地上へと落下していく。


「ひえぇー!」


視点がかわる。

空を裂き、雲を分け、海を渡り、森へ……

森から川をたどり村へ。


「うわあ!」


広い牧草地に ヤギが遊ぶ。

牧羊犬が走り回り、少女と男の子が ヤギの番をしている。

アルプスのハ◯ジとペ◯ターですか!?


「反対側の大陸は今は昼だからな」


「ここは反対側の大陸なんですか?」


「そうだ」


山を越え 道をたどり 町へ。

まだ行ったことのない町。


風車の並ぶオランダのような町


「この町は 魔素の他に風力を主としている」


風を受け 巨大な風車がゆっくりと回っている。

ギィ、ギィ、と音をたてて。


次は水の都。

水路が張り巡らされ、町中を小船で移動している町。


「この町は水の力を」


沢山の小舟が木の葉のように集まり、船の上で商売もしている。

市場へ運んでいくのか、活気がある。

人の息づかい、笑い声を肌に感じながら通りすぎる。


次の街は夜だった。半球のこちら側、近くなのかな?

蒸気と機械の街


「スチームパンク!カッコいい!」


「我の千里眼にかかれば 行けぬ場所などない」


ラプンツェルが ふふんと 得意気に笑う。


「我は寝ながら世界中を旅しているのだ」


「ドワーフの村へも行けますか?」


「無論」


また 視点が変わる。


「警報が仕掛けてあるって言ってましたよ、大丈夫ですかね?」


「問題ない。我らは今意識体なのだ」


「意識体?」


幽体離脱ってこと?


「お主は寝ていたのだろう?」


「じゃあ、これは夢ですか?」


「夢とうつつの狭間だ」


ドワーフの村に入る。

警備隊駐屯所にはギルロスがいた。


「そう言えば 今日はギルロスさんが夜警だって言ってたっけ」


ギルロスは駐屯所の大テーブルに座って コロッケバーガーを食べていた。夜食のようだ。


「ぱくっ、サクッ」


もぐもぐと 美味しそうに。


「あれは何だ?」


「コロッケバーガーですよ」


「初めて見るな」


「マッシュポテトを衣をつけて揚げたものをはさんでるんですよ」


「……ほう?」


わかってないよね、その返事


「揚げたてはすっごい美味しいですよ~」


「我も食してみたいものだ……」


「……」


色んな所に旅に行けるとラプンツェルさんは言っていたけど、人とふれ合わず、食べられず、見てるだけ。

テレビの映像をみているようなもの。

自分はここにいるのに、いないのだ。

なんか、切ない。


ラプンツェルはサクラの気持ちを察したのか ふっつりと笑う。


「そんな顔するな、我は楽しんでおる。人の息吹を感じ、見つめ、記憶する。この星と共に生まれ、この星を見届けるのが我の役割なのだ」


「役割?仕事、ですか?」


「我は古き時より この星を記憶する者なのだ。さて、もう帰るか」


夢と現の間かぁ、

ん?これが夢だというのなら、好きなことしても許される?


「あの、最後にもう一ヶ所行きたいです!」





◇◆◇◆◇





「……やはりお主は 夜這いの趣味があったのだな」


「シッ!だまって」


ベッドに頬杖をついてうっとりとしているサクラを、ラプンツェルがジト目で見る。


「黙らんでも相手には聞こえぬわ」


「ラプンツェルさん、邪魔しないでください。私今忙しいんです」


サクラが望んだのは イシルの寝室。

イシルのベッドサイド

ベッドではイシルが気持ち良さそうに眠っている。


「嫁入り前の娘が呆れるわ」


「嫁行く予定はありませんから」


イシルさんの寝顔なんて レア中のレア!

こんな無防備な寝顔を見られるなんて二度とない大チャンス、しかと目に焼きつけておかなくては!


「くふふふふ///」


「ヨダレがでとるぞ」


見つめるだけで幸せになれる。

寝顔もすこぶるイケメンですね!


「うへへへへ///」


「デレデレだな」


だって、起きてるときはデレられないんだもん。

くはーっ、ゴチソウサマデスっ!!


「うはははは///」


「そんなに、好きか」


本人には言えないけど。


「はい。」


サクラは即答する。


「好きです///」


「ふん」


「大好き!」


サクラはイシルの顔に手を伸ばす。

顔にかかる髪をはらおうと。

でも、触れることはできなかた。


ラプンツェルは 面白くなさそうに ひょいっとサクラを抱える。


「ああ!もうちょっと……」


「もういいだろう、見てるこっちが恥ずかしくなる!」


「うわぁ~イシルさんん~」


「暴れるな!」


ラプンツェルが瞳を閉じると、あの石牢に戻ってきた。


「これでわかっただろう?我は何処にいてもかまわぬという理由が」


「う~ん……」


「納得はしとらんようだな」


それでも牢だなんて納得できないけど


「せめてベッドで寝てくださいね」


「わかった、そうしよう」


ラプンツェルは自分の髪をプツンと一本抜くと サクラの手首に くるくるっと巻き付けた。


「御守りだ。帰るまで ミケにみつからんよう」


ラプンツェルは 閉じた瞳のまま サクラを見据える。


「もうここに来てはならん」


「え……」


「いいな」


ラプンツェルは有無を言わせず サクラの体をくるっと反転させると、とんっ と背中を押した。


お礼もお別れも言えないまま、サクラはぐわっ、と引っ張られるように感覚が戻る。

ベッドに沈む感覚。

意識が覚醒し、夢が現実に戻る。


「変な夢みた……」


サクラは起き上がり 着替えると キッチンへとむかった。

キッチンでは イシルが朝食の支度をしていた。

イシルはサクラに気がつくと笑顔を向ける。


「おはようございます」


ああ!朝日に負けないイシルさんの笑顔!

昨日の寝顔を見た後だから 更にギャップが眩しいね!


「手伝いますね!今朝はなんですか~♪」


サクラはいそいそとご機嫌にイシルの隣に立つ。


「……サクラさん」


あれ?急にイシルさんの声が硬くなったぞ?

もしや昨日のに気づかれたとか!?


「……はい」


「昨夜、誰と会ってたんですか」


「誰って、誰とも……」


あんただ、あんただよイシルさん、あんたの寝室に忍び込んで寝顔を見てたんだよ、言えないけどねっ!


イシルはサクラの腕を掴み、ぐいっと引き寄せる。


「コレ、何ですか?」


「コレ?」


イシルはサクラの手首を目を細めて眺めると 何かをつまみ、くるくると 絡まるをほどくように手を動かした。


(あ、ラプンツェルさんの御守り……)


サクラの手首には 蜘蛛の糸のように細く、白く、美しい髪が一本巻いてあった。


「竜の髭です」


ラプンツェルさんは どうやら ドラゴンだったらしい。


「しかも、雄ですね」


はぁ、と イシルがため息をついた。




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