157話 ストロベリー・パニック







ラーメン屋を出たサクラは本屋に向かった。

アスに頼まれたとイシルが言っていた 現世の宿泊施設……ホテルの資料を手に入れるために。


(旅行ガイドブックかなんか買っていけばいいかな)


サクラは駅前の大型書店に入る。

ああ、本屋の匂いがする……新しい紙の匂い。おちつく。

古本屋のちょっとホコリくさい匂いも好きだが、これもいい。


サクラはトラベルコーナーへ向かい、物色する。


るる◯、JT◯、まっ◯る……王道旅行ガイド


「あ!なんだ、ホテルガイドがあるじゃん」


サクラははしからタイトルを見ていく。


『一度は訪れたい海外の素敵なホテル』


う~ん、異世界は西洋文化で似てるからなぁ……

もっとスタイリッシュなのがみたいかな?


『穴場激安ビジネスホテル』

『快適カプセルホテル』


違う。これは違うな、うん。

貴族がカプセルなんてないっしょ!

いや、面白がるのかな……でも却下。


『ネズミーランドホテル解体書』


個人的にはネズミーランドのホテルにひかれるが、もっといろんなのがのってるのがいいな。


『プロが唸る日本のホテル・旅館100選』


これだ!


手にとってめくってみると写真が多めで良さそうだ。

ロビー、ショップ、レストラン、スパ、バー、娯楽施設。

部屋の中も詳しくカットどりしている。


温泉旅館もあるし、後半はネタなのか、キャラクターコラボもある。水族館の中みたいな部屋や、洞窟みたいな神秘的な部屋、プラネタリウムの部屋


「これ見てアスがおかしな方向に行ったりしないかな……」


アスは企画好きのようだ。

湖にばかでかいイルカをはなってイシルに怒られたばかりで心配だが、これにしよう。


そして、サクラはその横の本に手を伸ばしてしまう。


『日本全国ラーメン紀行』

『地方色豊かB級グルメ』


美味しいものは見るだけでも楽しい。

折角本屋に来たんだから、向こうで読める本を買って行こうね!

異世界の文字まだ読めないし。

シズエ殿も『鬼◯』持っていってたしなぁ。


「あ!そうだ、キャラ弁の本買っていこう」


意外にもイシルがキャラ弁作り楽しそうだった。

手先が器用だからか、創作意欲がわくみたいだ。


サクラは料理本コーナーへ。


『キャラ弁・デコ弁!玉手箱』

『プロが教える野菜の飾り切り』

『大相撲の親方夫人の愛情弁当』

『野菜嫌いの子供におくるフェイクおかず』


「なんか、最後のが一番喜びそうだな……」


フェイクおかずを嬉々としてランに食べさせそうだ……

四冊とも購入する。


そして自分趣味コーナーへ。

推理小説やら児童文学やらを三冊程持ち、会計をすませる。


「……しまった、またやった」


前回酒を先に買って重くて失敗したから、今回は軽いものからと、本屋に来たのだが、本はたくさん買うと意外と重いのだ。

ドラッグストアーが先だったかな……


リュックの重さが肩にずしりと食い込む。


「かさばらないのがせめてもの救い……」


サクラはこの後ドラッグストアーにより、口紅の新色を購入。

スーパーで調味料を物色し、ランに猫用オヤツを買う。

更に酒屋に寄って マルクスのためにウイスキーを買って……


「ゼー……ハー……」


シズエ殿の豆腐店についた。


「こ、こんにちは~」


ガラスケースの向こうからシズエ殿がジロリとにらむ。

お久しぶりです奥◯瑛二殿。今日もシブいコワモテイケメンすね!


「あんた、いつも大変そうだな」


『奥田◯二』こと シズエ殿がサクラを見て 無愛想にボソッと呟く。


「ハ、ハハハ……」


だって、『ウイスキーダイスキーで素敵な笑顔』作戦のためとはいえ、マルクスさんだけにウイスキー買うわけいかないじゃない?アスにも、ランにもギルロスさんにも、モルガンさんも、って思ったら……

一升瓶じゃないから、いけるかと思ってたけど、重いな。


シズエどのは ぷいっと店先から引っ込んだ。


「何にするの?」


入れ代わりにシズエ殿の奥さんがやってきて 注文をきいてくれる。


「えーっと、おからドーナツを……」


サクラは店先の黒板を見る。


″本日のおからドーナツ ストロベリー・パニック140円 プレーン120円″


ん?ストロベリー・パニック??

ぐっ、、なんて心ひかれるネーミングなんだ!

何が入ってるんだ?


下に説明があった。


″ストロベリー、他、ベリーいろいろ″


説明 雑っ!!

しかも殴り書き!


「ベリーいろいろって何がはいってるんですか?」


サクラはシズエ殿の奥様に聞いてみる


「ん~何かしらねぇ、、あの人が作ったから……」


これは食ってみないとわからないって事ですね?

しかも、ネーミングセンスはシズエ殿ですか!?

意外とハイカラですね!


この前の日替わりは『トロピカル』で、気になっていたんだ。

うん。今日はこれにしよう。


「ストロベリー・パニック30個ください」


「はーい、ちょっとまってね~」


奥さんが袋につめてくれる。


「お正月はどこか行ったの?」


シズエ殿の奥様に聞かれる


「いえ、特には……どこか行かれましたか?」


「ええ、初詣にね」


「ご家族で?」


シズエ殿の奥方はドーナツをつめながら頬をそめる。


「ううん、二人で///」


うおっ!ラブラブ全開!


「混んでましたか?」


「ええ」


そして更に顔を赤くする。


「混んでるとくっついてるのが普通になるから、貴女も彼氏と行ったらよかったのに」


と、はにかまれた。


うおー!シズエ奥方かわいいな!!

彼氏はおりません、すみません。


″ゴロゴロゴロゴロ……″


シズエ殿の奥方とそんな話に花を咲かせてたら、シズエ殿が奥から戻ってきた。

水色にピンクの花柄のファンシーなショッピングカートを引き連れて。


「貸せ」


サクラから荷物を受けとると、ひょいひょいっとカートに入れてキュイッとチャックをしめる。

そして 取っ手をサクラに握らせた。


「使ってほしいんですって」


うふふ。と奥さんが笑う。

シズエ殿が口に出さなくてもわかるのね、奥様。

ラブラブカウンターカンストですか!?熟練度がちがいますね!


「ありがとうございます、たすかります」


4200円を支払い おからドーナツを受けとると サクラはカラカラとカートを引いて 薬局を目指した。





◇◆◇◆◇





「はむっ……むぐ……」


ほんのり甘いピンクの幸せ。

サクラは現世から戻ると 迎えに来たイシルと一緒に 銀狼亭へとおからドーナツをもってやってきた。

ランチ営業の終わったダイニングで サクラとイシルとサンミは ブレイクタイム。


本日のおからドーナツ『ストロベリー・パニック』は かじると中がかわいいピンク色だった。

外国のお菓子で見るような、きゅんとする色。

これがパニックをおこしているベリーたちか!


「むぐっ、もぐっ」


フレッシュというより、ベリーをジャムにしたような甘酸っぱさが口にひろがる。

プチッ、プチッと 口に残るイチゴのつぶ。


「んふっ///」


口の奥で香る、果肉をかじったあとのような風味。

市販のものではだせない素朴で、いい意味での粗いつくり。これぞ手作り!


プレーンのおからドーナツはふわっともっちりだが、ストロベリー・パニックはそれよりぎゅっとして重く、食べごたえがある。

小麦粉のものほどではないが。

残念ながら、ベリー達は どこのどなかた判別つかなかった。

ラズベリーさんがいたかな?くらい。


「コクッ」


お茶はイシルがいれてくれた紅茶ラテ。


「ふはぁ///紅茶ラテ美味しいです!」


「よかった」


イシルがニコニコ笑う。


紅茶ラテは普通のミルクティーではなく、濃い紅茶に泡立てたミルクを注いだものだ。

ベリーとミルクティーはよく合う。

イチゴミルクティーなるものもあるくらいだしね。


ちょっぴり甘酸っぱいドーナツを紅茶のラテがふんわり包んでくれる。


「甘いねぇ……」


一緒にお茶をしていたサンミが呟く。


「え?そうですか?甘さ控えめだと思うんですけど」


サンミは はぁ~、と ため息をつくと、イシルにあきれかえった視線をぶつける。


「そんなに見つめたら穴が空くよ、まったく。胸やけしちまって 見てらんないよ、ごちそうさん」


そう言ってキッチンへと戻っていった。


「?」


サクラは 甘いかな? と ドーナツを口にする。

イシルは相変わらずニコニコしながら サクラがドーナツを頬張るのを幸せそうに眺めていた。


″チリリーン″


店に人が来たことを知らせるベルが鳴る。


「あ、おかえり、アイリーン」


ダイニングでイシルとお茶をしていたサクラは 帰って来たアイリーンに手を上げた。


(ご機嫌、ナナメ?)


アイリーンの顔が強ばっている。


「バーガーウルフで何かあったの?」


アイリーンはイシルをチラッとみる。

それを受けてか イシルが気を利かせて席を立った。


「僕は 駐屯所にドーナツを届けたら アスのところへサクラさんから預かった本を届けに行ってきます」


そして、ゆっくりお話ししてください と、出かけていった。


「アイリーン、座って……」


「最っっ低!!!」


イシルが出ていったとたん、


アイリーンが爆発した。





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