153話 差し入れ弁当 (キャラ弁)
お昼です。
警備隊駐屯所の大テーブルに集まった10名程の隊員たち。
今日は ラルゴの警備でハルがいなくて、バーガーウルフが休みのヒナがいる。
ギルロスは サクラから預かった弁当の包みを解く。
″シュルッ″
弁当を包んでいた紫色に白のグラデーションのかかった布は『フロシキ』というらしい。
フロシキをといて出てきた弁当。
それは 見たことのない入れ物だった。
黒く四角い箱が四段なっている。
ツヤのある表面には 上品な桜の花が描かれていた。
この入れ物を『重箱』という。
「腹減ったー、早く食おうぜ!」
ランに急かされ、ギルロスは重箱のふたを開ける。
まずは一の重――――
″ピヨ″
「「…………」」
開けたとたん、全員、フリーズした。
″ピヨピヨ″
つぶらな瞳が 一斉に隊員達を見上げている。
「なんだ……これは」
一口大の黄色い小さなものが、キレイに整列して 重箱の中に みっしりと 鎮座していた。
一口大のいなり寿司。
「ご丁寧に……海苔で目を……」
一口いなりには 目がついていた。
かわいいひよこのように。
二の重――――
″テヘペローン″
「「…………」」
のり巻きだ。紫色ののり巻きだ。古古米の色だろう、それはいい。
具材で構築されたのり巻きの断面は、どうみても″くまさん″だ。
しかも テヘペロっている……
「これを……食えと?」
菜っぱ巻きは麦飯の白いニワトリさん。
赤いカニかまでトサカまで再現してある。
……なんてファンシーな弁当だ。
三の重――――
″ざっぱーん!!″
「「…………」」
海だった。
お魚さん、ペンギンさん、カニさん、タコさんウインナー
サラダの海の中にヒトデ型コロッケ、亀型ハンバーグ、エビフライ(普通) 焼き魚(普通)が、泳いでいる。
タツノオトシゴのフライドポテト……
こんなことに時間をかけるのはきっとイシルだろう。
「……なにやってんだあの二人は」
四の重、さすがにもうなにもないだろう――――
″ぱあぁぁ……″
「「…………」」
お花畑だった。
野菜の肉巻きの断面が花模様。
花模様肉巻きと卵焼きが交互に列を作り、黄色い花畑のようだ。
しかも、焦がさないように丁寧にまかれた卵焼きには 一つに一つずつ文字が焼き付けてあった。
続けるとこう読める。
『いつもおしごとおつかれさまです』
イシルが言っていた初めての挑戦、それは『キャラ弁』
「サクラは昨日ちゃんと寝たのかよ、まったく……折角オレが遠慮してやったってのに」
ぶつぶつ言うランに ヒナがキャラ弁を皿に取り分けて渡す。
「どうぞ、ランさん」
「サンキュー」
ランはヒナから皿を受けとると、肉巻き野菜を口に放り込む。
真ん中に白いチーズ、まわりにニンジンをあしらい、白い花芯のまわりにオレンジの花弁のついた花のようだ。
「あむっ……」
ニンジンはほんのり甘いバターの香り、ニンジングラッセ。
肉のスパイシーさと面白い調和がとれている。
「やっぱうまいな」
もう一つ。
「はぐっ、むぐっ」
黄色いチーズの花芯にアスパラの花弁。
こちらはベーコン巻きだ。
ニンジンとは違い、醤油の香ばしい味がする。
何だかんだで イシルの『野菜を食え』が身についているのは悔しいが、旨いんだから仕方がない。
ヒナは他の隊員にも取り分けてあげている。
「リベラもヒナくらい気を利かせろよな」
「お前に使う気などない」
リベラはそう言ってエビフライを口に入れる。
「ヒナも大変だな、こんなのと同郷で」
「いえ、リベラさんは私によくしてくれますから///」
「ふーん」
ヒナが顔を赤くする。
「サクラは料理がうまいんだな」
エビフライを口にしたリベラが驚く。
卵を潰して刻んだピクルスを混ぜたこのソース、エビのフライを爽やかにしてくれる。
「コロッケもサクラが考えたんだろ?」
「ああ」
「可愛らしい上に料理もできるのか……」
人間以外の長寿種族は 子孫繁栄におもきをおいていない。
よって、恋愛するのに性別を問わないヤツが多い。
……リベラは 危ない。
ランの直感がそう告げている。
「狙うなよ」
「フフン」
「何だよその笑いは」
ヒナがランとリベラの間でオロオロしている。
「ヒナ、一人分余分に分けといてくれ」
ギルロスは、このファンシーな料理を依頼主にも送ってやるため、ヒナにたのむ。
「食べ物で絵を描くとはな」
これは、いい話のタネになるだろう。
◇◆◇◆◇
「か~わ~い~いっ!」
こちらは ピューラーを売るためにアジサイ街を目指して荷馬車を走らせていたラルゴとハル。
荷馬車を止めて 二人でランチタイム。
弁当箱を開けたハルの第一声だ。
一つの重箱に二人分の弁当がつまっている。
卵焼きに″がんばれ″の焼き印。
ハルはいなり寿司を口に入れる。
「はぐっ、んぐっ」
あま~い。
甘く煮たあげはふっくらで、中の酢飯はぷちぷち麦飯、ねばり気のある黄色いつぶつぶはもちきび、そして、もっちりしているのはもちあわだ。
三つの雑穀を混ぜてある。
もっちもっちと ハルは口を動かす。
「サクラって何者なの?」
ラルゴも一口いなりを頬張る。
もっち、もっち……
「何者って……普通の女の子だろ?」
言われた意味がわからなかった。何か変か?
「オレも新参者だからな~、遠いところから来て、イシルさんが面倒見てるってくらいしか知らないけど……」
「ふ~ん……」
ラルゴは紫のクマののり巻きにかぶりつく。
「あ″ー!!」
「んぐっ!?」
「一口で食べないとかわいそうでしょー!」
「……スミマセン」
ハルはラルゴがクマの顔を半分かじったのが気に入らなかったようで、プンスカしている。
……お前こそ何者だよ。
「サクラちゃんは、サクラちゃんだよ」
ラルゴは残りの半分ののり巻きを口にいれた。
「たとえ魔女だろうが、悪魔だろうが、吸血鬼だろうが、サクラちゃんは、サクラちゃんさ」
ハルは、きょとんとと ラルゴを見る。
「ラルゴって、いい人だね」
いい笑顔を向けたハルに、ラルゴはがっくし頭を垂れる。
ハルがそんなラルゴをみて慌てる。
「あれ?僕変なこと言った!?誉めたつもりなんだけど!?」
「いい人はどこまでいってもいい人止まりなんだよね……」
トホホとさらに項垂れる。
ハルは何やらラルゴの古傷をえぐったようだ。
「ラルゴ、泣かないで、元気だしてよ~!」
◇◆◇◆◇
「エリザさんはどちらからおいでかな?」
イシルが去ってしまった薬草園では メイとシャナとエリザが弁当を囲んでいた。
マルクスがエリザに給仕している。
「ダフォディルの街から来ました」
コロッケバーガーを食べたばかりてあまり食べられそうにない。
マルクスは心得ているようで、一口で食べられそうなものばかりを取り分けてくれた。
……意外と気が利くのね、笑顔は悪魔的に恐ろしいけど。
「ほぉ、大きな街からおいでなんですな~この村はなんにもないところでしょう」
「いえ、のどかでいいところですわ。コロッケも美味しかったです」
「おお、あれを食いにきなすったか、うんうん、あれは旨い。では、もう出立の予定かな?」
「いえ、兄がコロッケをいたく気に入っておりまして」
「
メイがニコニコと あの四角い目を細める。
うっ、そうじゃないのがバレてる。
「サクラさんって、何者ですか?」
シャナが口をはさんできた。
別にいいのよ、サクラの事なんて!
「ん?
旅人……女一人で?
「何故イシルさんのところにいるんですか?」
シャナの言葉に エリザは紅茶のカップを落としそうになる。
なんですって!イシル様の所に!?
答えを求めて エリザとシャナがメイを見る。
「イシルさんの家の近くで迷っとったからじゃな、もぐっ」
メイは呑気にサラダを頬張る。
イシル様優しい……保護してさしあげたのね。
きっと魔物に襲われでもして 仲間とはぐれたサクラ一人迷い来んだのね。
てことは、ドワーフの村に住んでいるわけじゃないの?
「イシル様の家はどこにあるんですか?」
エリザの問いに メイは モッシャモッシャとサラダを
「「…………」」
…………長い
エリザとシャナはしばし待つ。
「あ~、険しすぎてエリザさんが行くことは難しいのぉ……」
シャナが更に食いさがる。
「空を飛べれば行けますか?」
「なんじゃ、シャナ、空を飛べるんか?」
メイがおどけた調子でシャナに聞き返した。
「……いえ」
「まあ、行ったところで入れんじゃろうがな」
メイは黄色い卵焼きを口に入れた。
メッセージは″日々是好日″
そうよ、イシル様がシャナごときを受け入れるわけないじゃない。
「二人はこの文字の意味を知っとるか?」
メイが最初の『日』を食べてしまったが。
「″日々是好日″……こだわり、とらわれをさっぱり捨て切って、その日一日をただありのままに生きるということじゃ。たとえば、嵐の日であろうと、何か大切なものを失った日であろうと、ただひたすら、ありのままに生きれば、全てが好い日になる。清々しい気分じゃ」
うん、うん、と メイは感慨深く卵焼きを味わっている。
「「…………」」
私はまだそんな世捨て人みたいな考えは嫌よ!
失いたくなんかないもの!
求めなければイシル様は得られない!
「イシル様は明日も来られるんですか?」
「明日はサクラの
「サクラのお迎えって、何処にですか?サクラは何処に出かけるんですか?」
シャナは興味津々にサクラのことをメイに尋ねている。
シャナはイシル様狙いじゃないのかしら……
「ん~、何処かは知らんよ、ホレ、もっと食べなされ」
ンもうっ!サクラはいいのっ、それよりイシル様よっ!
「イシル様はどなたか決まった方がおられるんですか?」
「ははは、そりゃあ本人に聞いてみんとわからんな~」
シャナはサクラのことを、エリザはイシルのことを探る。
メイはそれをのらりくらりとかわし、二人は結局なにも聞けなかった。
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