151話 アイリーンの婿取物語







バーガーウルフは 朝の方針を変えた。

番号札を使うことにしたのだ。

早朝から並ぶ人が増えてしまったので、店の前に番号札を備え付けておいて、勝手に持っていってもらう。

整理券ってことね。

番号札は 前日店が閉まってからずっと置いてあるので 朝急いでくることもなくなる。行列もなくなる。

どれくらい番号札が減っているかで 朝イチの作り置きの目処もたつというもんだ。

こうすることで人員も四人で間に合いそうだ。


今日は調理にミディー、リズ、カウンターにアイリーン、スノー、フォローにサクラだ。


(スッゴい睨んでるね)


サクラがアイリーンに 出来上がったコロッケバーガーを渡しながらささやく。


(フン、睨むしかできないからね)


どこから持ってきたのか 白い丸テーブルに椅子を四脚、大きなパラソルをさして優雅にお茶をする御一行様。

マルクスさん、引率お疲れ様です、あれがアイリーンが言っていたキャンベル家ですね?


目にハートのエースを浮かべて 熱い眼差しでアイリーンをみつめているあの御方が ウワサのカール・キャンベル。

おや、中々のイケメンじゃないですか。


その隣が、今話していた食い入るようにアイリーンを睨んでいる人物、きっと妹君であろう。


始めてみましたよ、あんな見事な縦ロール!!

イラ◯ザですか?キャンディの……

◯蝶夫人ですか??エースを、の……

姫川◯弓ですかぁ???ガラスの……


「番号札22番のお客様~」


アイリーンが呼ぶと、颯爽と現れたのは 褐色の肌で青い髪の

南国のカトレアの貴族様。


ダニエル・フォーレスト


イシルさんやランと常に接していると感覚がマヒしてしまうが、間違いなくイケメンの部類ですね!


「コロッケバーガー10個だ」


かっこつけて白スーツでのご登場!


「かしこまりました、5000¥になります」


アイリーンがオーダーを通し、サクラは作ってあったコロッケバーガーを袋に入れ、準備する。


熱血漢っぽいダニエル殿は意を決したようにアイリーンに向き合う。


「アイリーン、これを受け取って欲しい」


そう言って ダニエルが 小さな小箱を取り出した。

あの大きさ、あの形、ベルベット調のはもしや――――


″パカッ″


アイリーンに向けてダニエルが箱を開いてみせた。

そこには真っ赤な珊瑚コーラルのついた指輪があった。


(うぉー!やっぱり、指輪!!)


「オレと結婚してくれ!アイリーン」


(いきなりプロポーズ!!)


アイリーンは微笑んで手を伸ばし、


″パタン″


箱を閉じた。


「ありがとうございます、ダニエル様。しかし、私はこれを受け取ることは出来ません」


(アイリーンが 断ったー!)


「何故だ!」


「これは貴方様が働いて買ったものではないからです」


「!!」


「私にこれを渡すというのなら、貴方の民に還元してください」


「「おおーっ!」」


ギャラリーからどよめきがおこる。


ダニエルがくいさがる。


「これは私の愛の大きさだ!この指輪がいくらすると思って――――」


「愛の大きさはお金であらわせるものではないと思います。私は高価なこの指輪よりも……」


食い気味にダニエルの言葉を遮ったアイリーンは 小さなクッキーの箱を取り出す。


「自分のお金で買ってくれた このクッキーのほうが愛を感じます」


「「おおおっ!」」


ギャラリーから歓声があがる。

これでまた株を上げたなアイリーンよ。


サクラは、コロッケバーガー10個を用意して 恐る恐るアイリーンに渡した。


「コロッケバーガー10個です」


アイリーンはゼロ円スマイルで注文の品を渡した。

南国カトレアの三男坊ダニエル様は 打ちひしがれたまま コロッケバーガーを受け取ると、フラフラとカウンターから離れた。

気の毒だな……みんなの前で振られるとは。

公開処刑だ。


その背にアイリーンが声をかける。


「貴方が民のためを思い、働き、統治されたその時に……土産話を私に聞かせてください。私はそれで満足です」


(アイリーンが すくいあげた!!)


アイリーンの言葉に ダニエルが振り返る。


「また、お待ちしてますね」


満面の笑みのアイリーンをみて、ダニエルが奮い立つ。


「立派になって、また、必ず!」


ダニエルの恋心が再熱したようだ。


「おい、すぐに発つぞ」


ダニエルは従者を急かして その足で国へと帰っていった。

立派な統治者になるために。


サクラはアイリーンが受け取るものだと思っていた。

相手は念願の貴族ですぞ!?


(なんで断ったの?)


アイリーンが笑顔のまま小声でサクラに答える。


(こんな場所でプロポーズするようなヤツなんて御免だわ。TPOを考えられないって、将来的にアウトよね)


(……なるほど)


(それに、高過ぎる贈り物は 恨みを買いやすいのよ。貢いで欲しいんじゃなく、結婚相手が欲しいんだからね)


(勉強に、なります)


「25番の番号札のお客様~」


アイリーンが再び声をかける。

23、24番は アイリーン目当てじゃなかったので、スノーの所で対応終えていた。


「僕だね」


カール・キャンベル氏だ。

何を持ってきたんだろう……あの箱は、帽子?


「コロッケバーガーを5個」


「かしこまりました、2500¥になります」


アイリーンがオーダーを通し、またサクラが準備する。


「アイリーン、これを君に」


カールが箱を開けると、思った通り、帽子が入っていた。


コロンと丸い形のボーラーハット。

ツバが浅く、羊毛製。上品なコサージュがついている。

アイリーンが口を開こうとする前に カールが続ける。


「この帽子は 僕の街で作られてる。アス殿に取り寄せてもらった、今売り出し中のものなんだ」


アイリーンが可愛らしく「それで?」と、目で次を促す。


「これを君がかぶってくれたら、我が街の宣伝になると思うんだ。君は人気者だからね」


カールはさっきのダニエルを見ていて、どうすればアイリーンが受け取るか考えたようだ。


「我が街のために、これを受け取ってくれないかな」


どうする?アイリーン!

アイリーンはふんわり笑って答える。


「ありがたく使わせていただきます」


「「おおーっ!」」


またまたギャラリーからどよめきがおこる。

カール殿の勝ちだ。


サクラは、コロッケバーガー5個を用意して アイリーンの手元に置く。


「コロッケバーガー5個です」


「ありがとう」


カールは席に戻ると 女の子三人にコロッケバーガーを渡し、マルクスにもすすめる。

いい人だな。

マルクスは断ったけど、使用人からのがいいという アイリーンの情報は正しそうだ。


(なんで帽子は受け取ったの?)


サクラがアイリーンに小声で聞く。


(貴族はさ、領地や権力拡大のために結婚すんのよ)


(うん)


(あたしみたいなのを嫁にするってことはありえないのよ、普通わね)


(うん)


(もし、玉の輿に乗れたとしても、旦那が守ってくれなきゃ地獄でしかないわ)


(……確かに)


(バカじゃ困るのよ)


(てことは、カール・キャンベル殿は 合格ってこと?)


(第一段階はね)


何段あるんだ?アイリーンよ。


(みて、これ)


アイリーンに言われて サクラは帽子の箱を見る。


(これは……)


帽子の箱の中には 帽子の他に エスコートカードが入っていた。


(やるな、カール・キャンベル殿)


キャンベル御一行は バーガーウルフの一角に陣取って、本日はそこでお過ごしのようだよ。

キャンベル氏の妹君は アイリーンを睨むのをやめ、コロッケバーガーをかじっているが、頻りに五の道を気にしている。

のら猫でもいるのだろうか?









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