150話 エリザと愉快な仲間達
「やっぱり私の目に狂いはなかったわ!この村にいて正解ね!」
次の日、ラルゴを見送るために 少し早目に村に行ったサクラは、銀狼亭の前で アイリーンにつかまった。
一緒にバーガーウルフまで歩く。
アイリーンは、朝っぱらからテンション高くサクラにべらべらとまくし立てる。
貴族が店に来たのがよっぽど嬉しかったようだ。
「カール・キャンベル……ダフォディル(水仙)の街から来たのよ。紅茶の国の紳士だわ。キャンベル家はダフォディル第一、第三、中央地区を統治している家系ね。趣味は乗馬、牧場も持ってて、馬の世話が好きな穏やかな人物。使用人からの
「へぇ……」
「ダニエル・フォーレスト……カトレアの街から来てるわ。こっちはコーヒーの国ね。海の近くの南国よ。海が近いだけあって泳ぎが得意。エメラルドグリーンの海、見てみたいわ~ここからだとちょっと遠いかしら。あざみ野に帰るのが大変になるわね。でも、三男だから 外に出るのかしら、別荘地がどこなのか探りを入れておかないと……考えるより先に体が動くタイプ。うまく誘導すれば扱いやすそうだわ」
「アイリーン、接客の短時間でよくそんなことがわかるね」
「あら、そんなの簡単よ。話し方や、着てる服、装飾品、宝飾品、小物なんかでだいたいの出身や性格はわかるもの」
「どこでそんな知識を……」
「ああ、ガキの頃 質屋の小間使いやってたからね。自然とおぼえちゃったわよ」
一を聞いて十を知る……凄いなアイリーン、能力の無駄遣いな気もするけど。
「今日も来るかしら♪」
ヤル気満々婚カツ女子アイリーン、趣味と実益を兼ねたいい職場だね。
「じゃ、私、ラルゴさんの見送りに行かないと、また後で……」
そう言って サクラはバーガーウルフの手前でアイリーンと別れた。
◇◆◇◆◇
私の名はエリザ・キャンベル
ダフォディルの第一、第三、中央地区を統治しているキャンベル家の次女。
カールお兄様がどおしてもこの村のコロッケとやらを食べたいと言うから、別荘地にいく途中にドワーフ村に寄ったのだ。
滞在中身を寄せている薔薇の館の名前は『ラ・マリエ』
花嫁を意味する薔薇の名前。素敵だわ。
館の主 アス様は ローズ商会の総頭で、とても麗しい御方。
お会いできたのはうれしいけれど、困ったことが起こったの。
バーガーウルフという カウンターだけの店にコロッケを買いに行くと、店には見たこともないデザインのメイド服を着た店員がいて、お兄様はすっかり 売り子のアイリーンとかいう女に熱をあげてしまわれた。
今日も開店前から並ぶという。ありえない!
しかも、アス様にお願いして、プレゼントまで用意したのよ!?
「エリザは来なくてもいいんだよ」
「いいえ、私もまいりますわっ」
あのピンク頭の女がお兄様にちょっかいださないように見張らなくては!
「「ワタクシたちもお供いたします!」」
ダフォディルの第二地区を任されているグロブナー家の末娘「ソフィア・グロブナー」 大人しそうなメガネっ娘。いつもだれかの陰に隠れたがっている典型的取り巻きタイプ。
ダフォディルの第四地区を任されているポートマン家の次女 「ルーシー・ポートマン」ショートカットの活発な彼女はお兄様をねらっている。
ルーシーが今回の旅行にどうしてもついて来たいとねばったので、仕方なく招待したのだ。
ルーシーの両親もカールお兄様と、くっつけたいみたいで、かなり強引だった。
ソフィアはおまけ。
本当はお兄様と二人がよかったのに……
薔薇の館、ラ・マリエを出て ルーシーが村まで散歩しながら行きたいというので、徒歩で向かう。
ルーシーはカールお兄様に纏わりついているが、相手にされていないようだ。
マルクスという老執事の案内で舗装された石畳の上を 木々の間をぬって歩いていく。
遊歩道には モザイクの様な飾りが施されていた。
白く四角い石を基調にして、黒やグレー、赤茶色などの石で模様を描いた 可愛らしい石畳だ。
魔物避けのまじないでもかかっているのか、この石畳の上は安全地帯らしい。
森の中を 何の気兼ねもなく歩けるのは嬉しいことではある。
ドワーフの村につくと、入り口に荷馬車が停まっていて、昨日見かけた警備隊の隊長が確認をしていた。
こちらに気づくと老執事マルクスに手を上げた。
マルクスは 軽く会釈を返す。
あの人、凄くいい声だった……
ギルロスって言ったかしら。
鋭い瞳、危険な香りのする風貌にちょっと憧れを抱く。
自分をここから奪い、連れ去ってくれる物語の登場人物ような人。
ルーシーとソフィアが昨日キャーキャー騒いでいた。
今も見つめてぽーっとしてるわ。
まあ、旅の退屈しのぎにはなるけれど、カールお兄様の優しい雰囲気には敵わないわねっ!
ブラコンエリザはギルロスの後ろ姿から ぷいっと目をそらした
「きゃっ!」
つまづいて、倒れる――――
″ぽふん″
「大丈夫?」
誰かに抱き止められた。
見上げると キラキラの笑顔。
エリザは顔をあげたまま見つめてしまう。
相手は こてん、と 首を傾げる。
ふわふわ茶色い髪が日の光に透けて金色に輝く。
澄んだ大きな瞳に優しい眼差し、甘えたようなキャンディボイス
「どこか、いたい?」
エリザは真っ赤な顔をしてブンブンと首を横に振る。
男は抱き止めたエルザをたたせると、天使の微笑みを浮かべた。
「よかった、気をつけて」
こんな人間が存在するんだ……
エリザは男から眼がはなせないでいた。
ルーシーもソフィアも同様に。
「ハルくん」
目の前の男が名前を呼ばれて、ぱあっと明るく笑って 声がしたほうを振り向く。
ハルって名前なんだ……
「サクラ!」
ハルを呼んだのは 見た目年齢不詳の女だった。
お姉さん?お母さん?
サクラと呼ばれた女は エリザたちを見ると一礼し、ハルに向き直る。
「これ、お弁当。ラルゴさんの分と二つ」
「わあ!ありがとう、サクラ!」
ハルが嬉しそうに弁当を受け取る。
パタパタと細かくシッポを振る子犬のようだ。
「ラルゴさんは?」
「屯所の中で 書類の最終チェック中なんだ、です」
ハルとサクラが屯所に入ろうとすると、警備隊駐屯所の中からもう一人出てきた。
「お!サクラ、よく寝れた?」
黒髪の男――――
黒髪の男は とてもしなやかで均整のとれた身体をしているのが 服の上からでもみてとれた。
ハルとは逆に、人をくったような、何事にも興味無さげな蒼く冷たい眼差し……
猫のように
笑顔が意外と人懐っこくて、真顔とのギャップがたまらない。
……なんなの?この村、
一体何を食べたら こんなにイケメンばかりが育つっていうの!?
「オレのは?」
「……ついでだから作ったわよ」
「さ・す・が♪」
黒髪の男がサクラに纏わりつき、猫のようにサクラの頬にすりっと頬をすり寄せた。
うわあ!人前で!?
「すりすりすな!お弁当、皆さんのだからね!」
黒髪の男はサクラに怒られ″ぴんっ″と 何かに弾かれて 後ろにのけぞった。魔法?
「にゃうんっ!」
なんなのあの女は、あんなに親しそうにして……あ、ギルロス。
大きな包みを持つサクラの手に ギルロスがサクラの後ろから覆い被さるようにして 手を重ねた。
「サンキュー、サクラ」
「ひやあっ!」
サクラが驚いてとびあがる。
「ギルロスさん、気配させてくださいよ」
「そんなことしたら逃げるだろ?サクラ」
耳許で あのギルロスの声を聞けるとは……ハッキリ言ってうらやましい!
「ギル!離れろよ!」
「ははは、嫌だね」
ギルロスと黒髪の男が争いだした。
「お弁当!くずれるからっ!!」
お弁当……
「あ、そうか!」
エリザはひとりごちる。
あの女、よく見るとバーガーウルフの服を着ている。
そうか、食べ物を運んできたのね!
だから三人ともあんなに嬉しそうなんだわ!
あれは食べ物をめぐっての戦いなのね!
「エリザ、置いていくよ」
「はあい、お兄様」
エリザは甘えた声で兄に応え、歩きだす。
「ねぇ、エリザ あの黒髪の人素敵だったわね、あんな
ショートカットのルーシーが夢見心地にエリザに話しかけてきた。
メガネっ娘ソフィアも話しに加わり花を咲かせる。
「それよりもハルくんですよ~、あんなに可愛らしいのに、しっかりエリザ様のこと受け止めて、あ~ん、羨ましい、私も転べばよかった~」
ソフィアは ハルのほうがお好みのようだ。
「何言っているのよ、カールお兄様に比べたらお子様じゃない」
エリザはふんっ、と 興味なさそうに振る舞う。
本当は三人ともに興味ありありなのだけれど。
「カール様みたいな大人っぽいのが好みならやっぱりギルロス隊長?」
ルーシーが見透かしてエリザにつっかかる。
「そ、そうね、でも カールお兄様みたいな優しい感じが足りないわ」
「じゃあ……」
ルーシーが 前方を指差す
「あの人は?」
「!?」
エリザは雷に打たれたように動けなかった。
カールお兄様のように優しい笑み
キラキラと 美しい金の髪を日に揺らし
大人の落ち着きを持ち合わせた人物が、こちらに手をあげていた。
エルフだ。
知性を宿した聡明な瞳に 全てを見透かされていそうで 庇護されたいというエリザの欲が掻き立てられる。
なんて綺麗な翡翠色の瞳なの……
エリザは釣られて手を上げる。
エルフが愛しさを含んだ瞳で 目を細めて笑った。
自然で優雅な振舞い……
そして、名残惜しそうにヤギの獣人と一緒に バーガーウルフの裏手の道へと消えていった。
呆然と立ち尽くすエリザの横を 先程の女――――サクラが通りすぎ、バーガーウルフへと入っていく。
「なんなのよ、この村は……」
この村、顔面偏差値、高っっ!!!
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