144話 ラルゴの特訓 2
″シャッカ、シャッカ、シャッカ……″
「ラルゴさん、そんな適当に剥かない!」
「はいぃっ」
なにをって?ジャガイモの皮をです。
只今ラルゴはピューラーの特訓中。
サクラに叱咤されまくり中。
″シャッカ、シャッカ、シャッカ……″
「そんな細かく動かさない!こうです!」
サクラがジャガイモをむいてみせる。
″シャッ、シャッ、シャッ……″
サクラは滑るようにしゅるしゅると縦に手を動かし、ジャガイモの皮を剥いていく。
そのなめらかな手さばきにラルゴは美しささえ感じた。
(オレもあのジャガイモのように撫でられたい……)
そう思えるほどサクラの手つきに魅せられた。
「縦に長く!間は開けないっ!」
「はいぃっ!」
ラルゴの変態的思考はサクラの叱咤によって現実に引き戻される。
″シャーッ……シャ、シャーッ″
「ジャガイモを手元で回すんですよ!」
「まわす?」
「指で少しずつ剥く面をずらしていくんです!」
「お、おう」
″シュッ、シュッ……シュッ″
「どうだっ!」
ラルゴがどや顔でむき終わり、サクラにジャガイモを渡す。
「30点ですね」
「ええっ!!」
サクラがラルゴの剥いたジャガイモを見てダメ出しをする。
「剥くときに間を開けるから 皮がのこってます。それに、細かく剥くからゴツゴツしすぎです。何より……芽取り、忘れましたね」
「め、めとり?」
「これです。ジャガイモの窪み」
「ああ……」
長く放置すると芽が出てくる部分。サクラはピューラーの端についている
「それと」
サクラは、ラルゴが剥いた皮をつまんだ。
「剥いた皮が美しくない」
(そんなとこまで!?)
さっきまで天国にいたはずなのに……
昼食が終わると イシルは隣のメイの診療所にいってしまったし、サクラは思ったよりスパルタだしで、うちひしがれ中のラルゴ。
「ラルゴさん、こちらへ」
サクラは会館入口の大テーブルの端に立つと、ラルゴを呼び、二つのジャガイモをわたした。
「いいですか、右がラルゴさんが剥いたジャガイモで、左が私が剥いたジャガイモです」
「……はい」
「転がしてみてください」
ラルゴはサクラが何をしたいのかわからなかったが、取り敢えず二つのジャガイモを言われた通り テーブルの上で転がした。
″コロコロコロコロ……″
「あ……」
右のジャガイモ、つまり、ラルゴの剥いたジャガイモはすぐに停止してしまったが、左のジャガイモ、サクラの剥いたジャガイモは、テーブルの端まで転がり、ポトリと落ちた。
サクラは落ちたジャガイモを拾い上げると ラルゴの手のひらに ぽん、とのせる。
サクラの剥いたジャガイモは手触りが滑らかだった。
「これくらい剥けるまで、終わりませんよ」
(ひいいぃぃ――――!!)
ラルゴがムンクの叫びをあげる。
心の中で。
「こんなにいいピューラーなのに……」
サクラがため息を吐く。
「ここまで下手に剥けるなんて」
サクラの落胆ぶりに 楽天家のラルゴもサスガに腰がひけてくる。
「オレじゃなきゃダメ?サクラちゃんがやれば……」
弱気なラルゴにサクラが激をとばす。
「駄目ですっ!ラルゴさんじゃなくちゃ!」
ラルゴは思った。
オレじゃなくちゃダメだといわれたことなんて ほぼない。
いつもゆるふわなサクラがここまで熱くなってくれている。
サクラが自分を望んでいる!と。
「サクラちゃん……そんなにオレの事……」
「出来なさそうな人がいとも簡単にやることが重要なんです!」
「お、おう」
(望まれてるんだよね?)
「それに、ラルゴさんは 絶対実演販売に向いてるんです」
(なっ、なんだ?よくわからないけど、サクラちゃんがオレを信用してまかせてくれるんだから、これは、やらないと!!)
「サクラちゃん!ジャガイモどんどん持ってきて!」
「はいっ!」
サクラが張り切ってキッチンへと飛び込む。
″ズ……ズズズ……ズズ……″
「え?」
サクラはキッチンからジャガイモの麻袋を引きずりもってくると、
″ドサッ″
テーブルの上にのせた。
ラルゴの顔がひきつる。
「……こんなに?」
「はい!」
サクラがいい笑顔でかえした。
◇◆◇◆◇
「おっ、やってるな」
暫くするとギルロスがやってきた。
(ギルロス……タスケテ……)
ラルゴは目でギルロスに訴える。
が、サクラの言葉で掻き消された。
「ギルロスさん、どうしたんですか?その格好!」
ギルロスが着ていたのは 赤いロングの騎士服。
どちらかといえば軍服のような……
「ああ、リズが作ったんだと。警備隊の制服」
うおぉ、制服萌え!!騎士服カッケー!男前三割増し!!
そういえば、リズに制服カタログわたしたままだった。
「格好いいですね!似合いますよ」
ギルロスはやはり赤が似合う!
「サンキュー、頼まれた通り、子供達連れてきたぜ」
「ありがとうございます、もう少しかかっちゃいますけど……」
「ああ、出来るまで遊んでるから、大丈夫だ」
「すみません」
ギルロスは子供達と遊ぶために表に出ていった
「サクラちゃん、子供達って?」
「オヤツを食べに来たんです」
ラルゴが剥いた大量のジャガイモを子供達に消費してもらうのだ。
「さぁ、ラルゴさんはつづけて下さい。剥いてくれないとオヤツが作れません」
「……はい」
ラルゴはジャガイモの皮むきを続ける。
「サークラっ!」
ララが入口に現れたかと思うと、パタパタと走り寄ってきて、ぽふんとサクラに飛び込んだ。
サクラはララを受け止めると、笑顔でララの頭を撫でる。
「いらっしゃい、ララ」
「サクラ、お話しして」
ララが期待に満ちた瞳でサクラをみあげる。
ララはミディーの五歳になる娘だ。
「みんなも、聞きたいって」
「みんな?」
サクラが顔をあげると、ララと一緒に来たのか、五人の女の子が入ってきた。
外では男の子たちの騒ぐ声。
どうやらギルロスは男の子たちに取られてしまったようだ。
「ララ、サクラのじゃましないの!」
エイルが3歳くらいの子の手をひいて慌てて入ってくる。
エイルはサミーの娘で、七歳なのに、しっかりしたみんなのお姉さん的存在だ。
「サクラはお仕事中なんだから」
「いいよ、エイルも おいで」
サクラはエイルを招き入れる。
ラルゴはまだ皮をむいているから、しばらく時間はある。
「ラルゴさん、皮むき終わったら教えて下さい」
「……はい」
サクラは椅子を引き寄せ円をつくると エイル、ララと五人の女の子たちをそれぞれ座らせ、三歳の子を膝に乗せると お話しをはじめた。
お話しは『赤ずきんちゃん』
「むかしむかし、あるところに それはそれは可愛らしい女の子がいました。この女の子はおばあさんからプレゼントされた赤いずきんをいつもかぶっていたので『赤ずきんちゃん』とよばれていました」
女の子たちはサクラの話しに聞き入る。
おばあさんのお見舞いに出かける赤ずきん、
寄り道はしてはいけない、オオカミと話ををしてはいけないとお母さんに注意をうけて。
「赤ずきんちゃんは、途中狩人さんに会いました。『こんにちは、赤ずきんちゃん、どこへ行くんだい?』『森のおばあさまの家にお見舞いに』『この森には悪いオオカミがいるんだよ、一緒にいこうか?』『大丈夫です』赤ずきんちゃんは、一人でお使いが出来ることをお母さんに見せたかったのです」
それでも赤ずきんは 森でオオカミに会い、話をする。
女の子たちが「悪いオオカミだー」「ダメだよ赤ずきんちゃん」と声をあげる。
オオカミが綺麗な花が咲いている場所を赤ずきんに教えると、赤ずきんはおばあさんのために花を摘みに行く。
サクラのまわりから「よりみちしちゃいけないのにー」と 声が上がる。カワイイ。
この子達にはこの話の教訓は必要ないかもね。
赤ずきんと別れたオオカミは、おばあさんの家に行くとパクリとおばあさんを丸飲みしてしまった。
「オオカミはおばあさんの服を着て、ずきんで顔を隠すと ベッドに入りおばあさんのふりをして赤ずきんちゃんを待ちました」
子供達が「イヤー!」「ダメだよ、赤ずきんちゃん」「来ちゃだめー」と声をあげる。
「『こんにちは、おばあさん』赤ずきんがおばあさんのベッドに近づきます――――」
子供達のドキドキがつたわる。
「やったー!おわったよ!サクラちゃん!」
「ひゃあ!」
「「キャー」」
みんなの緊張が高まってきた時 ラルゴからの終了のお知らせです。
「じゃあ、みんな、続きは後でね」
「「えー!」」
「オヤツ、食べたいでしょ?」
女の子たちは渋々承諾してくれた。
「みててもいい?」
ララが何が出来るのか興味津々だ。
前につくってもらったポップコーンも とっても不思議な食べ物だったから。
「見ててもいいけど、危ないから離れてね」
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