140話 リベラ





キスマークのことやオモイダケの事など複雑な思いをかかえたまま、サクラは朝食を終えると、イシル、ランと三人団子になって 魔方陣からドワーフ村へと出勤する。


イシルはメイの診療所に、ランはバーガーウルフの向かいにある警備隊の駐屯所に。


バーガーウルフにいくと、サクラは今まで渡せなかったローズで買ったお土産のブローチを皆に配った。


「制服にぴったり!」

「うわ~かわいいですぅ」


リズもスノーも 早速襟元につけている。


「洒落てるねぇ~」


サミーも嬉しそうだ。


「あの、私ももらっていいんですか?」


新人の鬼っ子ヒナが 遠慮がちにサクラに問う。


「もちろん!」


アスにと引き換えに ぽよんスライムちゃんで一つ足りなかった分を増やしてもらったからね。ブローチ。


「ありがとうございます」


サラサラのロングの黒髪に白い肌、ほわっと頬を赤く染めて控え目にはにかむヒナは可愛い。

リズがヒナの首もとにブローチをつけてやる。

白と黒のゴスロリメイド服に ブローチの薔薇の赤がはえている。


「これ、なんですか?」


開店準備のためにカウンターにでると、何やら張り紙がしてあった。サクラは異世界の文字が読めないので、読んでもらう。


「 ″アイリーンはお休みです″ て書いてあるんです」

「昨日はぁ ″明日はアイリーンはお休みです″ ってぇ書いてありましたよぉ」


今日は アイリーンとミディーがお休みだ。

流石人気者 アイリーン。

だよね、暴動が起きてもイヤだからね。


「アイリーンはぁ、昨日仕事が終わってすぐに あざみ野に帰ったんですよぉ」


リズがコロッケバーガーを仕込みながら話す。


「えっ、じゃあしばらくお休み?」


あざみ野村までは 商隊について行ったのなら2日かかる。

荷物もあり、馬の休憩も必要だから、どうしたって途中のオーガの村で一泊しないといけない。


「ナイツに乗っていったから 半日でつくと思いますよ。森を突っ切るので」


リズがカウンターで つり銭を整理しながらスノーの言葉を補足する。


「ナイツ?」


「スターウルフですぅ。アイリーンの従魔ですよぉ」


ん?何だってスノー、スターウルフ?狼?話が見えないんですけど。

アイリーン従魔なんていたっけ?


「イシルさんと森に行った日に 契約したんです。サクラがアスさんのお屋敷に行った日ですよ」


リズがサクラの疑問顔に答えをくれた。


「あー、あの日ね」


(デートっていってたけど、イシルさんがアイリーンと森に行ったのは アイリーンを従魔と契約させるためだったんだ……)


「イシルさんがプレゼントした武器でぇ、アイリーンが、ぴしっ、て……ミスリルのムチ、凄かったですぅ。ミスリルって 初めて見ましたぁ、すっごく高いんですってねぇ」

「今は手に入らない鉱石ですもんね、びっくりして、アイリーンが受け取れないって言うくらいですもん、サクラもみせてもらったほうがいいですよ」


「へぇ、帰ってきたら見せてもらおう」


(イシルさんが言ってた高価なプレゼントって、武器の事か)


「アイリーンは本当の姿も魅力的ですね!」

「惚れ惚れしましたぁ『お姉さま』ですぅ~」


(を惹き付ける魅力、リズもスノーも居たんだ。『本当の姿』って、ブラックアイリーンのことだよね『お姉さま』って何だろう?)


「イシルさんはその後 村長のところでつかまって、お酒をのまされて大変だったみたいですよ~」

「一番上の兄が言ってましたぁ」


「そう、なんだ……」


″アイリーンとは何もありませんよ″


(お酒、アイリーンと飲んだんじゃなかったんだ……)


リズとスノーが にっと笑って サクラの顔をのぞきこむ


「なに?」


「安心しました?」

「デートじゃなくてぇ」


「わ、私は別に……」


くくくっ、と笑って、静観していたミディーが口をはさむ。


「サクラ、顔笑ってるよ」


「うっ///」


ヒナは コロッケバーガーを作りながら 黙ってそれを聞いていた。





◇◆◇◆◇





開店直後、一番の忙しさで、作り置きのコロッケバーガーがはけてしまうと、目まぐるしさから解放された。

アイリーンがいない日は この後は行列が出来る程にはならない。

それでもアイリーン目当ての客が来て 休みだと伝えると、宿泊して 明日また来ると言う。

アイリーンは知らずのうちに 銀狼亭の売り上げにも貢献してくれているようだ。

コロッケバーガーも買っていってくれた。

サスガ看板娘。


昼が過ぎ、サミーが休憩に行った頃……


「よっ、サークラっ」


カウンターにランがひょいっと顔を出した。


「ランさん!」


リズがランに反応する。

ランはニコッと笑って、リズの首もとに手を伸ばし、ブローチに指をかける。


「へぇ、キレイなブローチ。似合うね」


「ありがとうございます///」


リズが危ない!

サクラがリズを救出に動こうとすると、横からスノーがひょっこりサクラの前に出てきた。


「サクラのおみやげなんですよぅ、ランさん今日は猫耳ないんですかぁ?」


スノーの言葉を受けて ランがぴょこんと猫耳を生やす。


「「キャー///」」


サービスいいな、ラン。


「なにやってんだ、注文したのか?」


ランの後ろからサバサバした女性の声がした。

茶髪に金メッシュの長いストレートを高い位置でポニーテールにした小麦肌の女剣士。すらりと背が高く、巨乳である。


「リベラ!」


ヒナが パアッと笑顔になる。

いい笑顔。知り合いがくると嬉しいよね。

やっぱりまだここでは緊張してるのかな。


リベラは調理台の前にいるヒナに、よっ、と手を上げると サクラに注文を通す。


「コロッケバーガー12個に、チキンバーガー7個、ハンバーガー7個頼むよ」


大量注文だ。これは番号札の出番ですね。


「15分程お時間頂きますが、よろしいですか?」


「急がないから、慌てないで」


リベラは番号札を受けとると ばちん、と サクラにウインクして横にはけた。

「ほら、邪魔だ」と ランを連れて。

なんていうか、、男前だな、リベラさん。

短パンビキニで、シルエットは凄く女性らしいのに 見事なシックスパック腹筋女子。そして巨乳。


リベラは門前広場に備え付けてあるベンチに座ると スラリと長い足を組む。


「ラン、エール頼むね」


「お前が行けよ」


「女に重いもの持たせる気か?男前が泣くよ」


「……こんな時だけ女を出しやがって」


「ハルが行ってるから手伝ってやんなよ、友達だろ?」


そう言って リベラは ヒラヒラと手をふる。

ランに、行け、と。


ランは渋々銀狼亭へと向かう。

ランはリベラが苦手なのかな?


サクラは接客しながら その様子を横目で見ていた。


ランは声をあげて笑うようになった。

昔の仲間と再会できて、スレた感じがなくなってきたようにみえる。


「コロッケバーガー三個頼むよ」


おっと、仕事仕事。


「1500¥になります」


冒険者風の男がサクラに2000円を差し出した。


″ムギュッ″


(うわ……)


男はサクラの手を握り、2000円を握らせる。


(イヤな触り方するなぁ……)


「柔らかい手だね」


男がにや~っと顔をほころばせる。


(キタ――――!たまにいる、こういうの)


アイリーンがいたらうまく対処してくれるのだろうが、サクラにそんなスキルはない。

サクラは手を引き、お釣りを渡す。

ガマンしよう。営業スマイルだ!


「500¥のお返しと番号札になります、番号を呼ばれるまでお待ち下さい」


男が釣りを受けとるため、サクラの手を握る。

生暖かく、少し湿っていて、サクラの営業スマイルがひきつる。


「いだだだだだっ」


「困るねぇ、お客さん、は」


「リベラさん!?」


リベラが男の手を握っていた。

男が痛がって腰がひけている。

男の手からミシリと音がしそうだ。握力、凄そう。


リベラは サクラからつり銭と番号札を奪うと 男に握らせる。


「俺は客だぞ!」


男が手首を抑えながらリベラに吠えた。


「アタシは、警備隊だ。この村の治安を守るのが仕事だ。何なら屯所で話をしようか?」


リベラの金の瞳が鋭く光る。


「うっ、いや、なんでもない……」


冒険者の男は、つり銭と番号札をリベラから受け取ると しぶしぶ横にはけた。


「ありがとうございます、リベラさん」


「大丈夫?」


「はい」


「うちの注文分から先に渡してやって」


「ありがとうございます」


「結構あるの?


「たまにですが、いつもはアイリーンがうまくかわしてくれるので大丈夫です」


「そう、何かあったらすぐに呼んで」


リベラはサクラの手をいたわるように取ると、そっと自分の唇に近づけた


「!?」


サクラの手にキスをすると、リベラがスマートに笑う。


「消毒」


そして、コロッケバーガー三個を先に受け取り、セクハラ冒険者に渡しに行き、何事も無かったかのようにベンチへと引き返す。


この時バーガーウルフの心が一つになった。


「「かっ、、かっこいい!!」」





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